謝罪
彼女は謝った。
「ひどいことしてごめんね」
と。
私は黙っていた。沈黙が罪悪感を増すのを知っていたから。
「私・・・ごめん。味方でいるべきだったのに」
あの時。彼女が私を見た あの時。どちらに傾くべきか。確かに迷っていた。ほんの数秒の事だった。
「嫌だったの。・・・・・あなたみたいになるのが」
構わないと思っていた。孤立させられる恐怖は知っていたから。だから ほんの少し意地悪をしてから
許してあげようと思っていた。彼女の正直な気持ちを聞いて お互いの恐怖を理解しようと思った。
「わたしみたいに?」
耳を疑った。初めて自分が嫌われていると知った過去。教室の隅で笑う事も出来ずに 彼女達が笑うのを 見ていた。その声が体を叩く。惨めってこういうことか・・と私が私に言う。お前は自分がピンチなのによく冷静だな と 怒りが湧く。
「・・・・・・昔から みんな言ってた。加奈はアホだから まともに相手にするなって」
嫌われているんじゃない。馬鹿にされている。そうか。この子。
「どれだけ私のこと話したの?」
彼女は目を見開く。
「何が?」
「私があなたに話したこと。全部ばらしたんでしょう?」
目を逸らさない。逸らしてなるものか。
「全部・・・・・」
言い淀んだ彼女にたたみかける。
「一言でも 二言でも 量じゃない」
彼女の目は空を泳ぐ。窓の向こうは漆黒。薄明かりなんて 無いも同じだ。こんなに 静かな教室。
「罪悪感じゃない。・・・・・あんた恨まれるのが怖くなったんでしょ」
誰かの為に苦しむのなら 謝罪などしない。嫌われたままでもいい。謝るのは 許しを請う事。
救いではない。自分を・・・・・自分の罪を払うこと。傷つけた誰かを 救うなんて事できない。
できるのはただ 誰かが痛みを超えて 幸せになれるようにと祈るだけ。そして決して忘れないこと。
「・・・・・あんた 本当は最初から私の味方になる気なんてなかったんでしょ。板ばさみになる自分を演出したかっただけでしょ。」
声を荒げる。
「どうしてそういうひねくれた考え方するの?」
焦点が定まった。しかし私の視線を避ける。
「優しさってね 少し間違えば 相手を傷つける。そもそもがおかしいのよ。誰かを助けるなんてこと。
それって自分が生きる事にはなんのメリットもないじゃない。それでも救いたいって思いは・・・」
「・・・・自己満足 そう言いたいんでしょ」
多分こんな言葉誰かだったら怒る。でも誰かに怒りたいのは私だ。
「そう。そういうこと。分かってるじゃない」
「・・・・・だからか。」
「何が?」
「だから 加奈嫌われたんだ」
「嫌われた?」
「加奈は 自分の事ばかり。私だって苦しかった。加奈の言うような思いも無かったとは言わない。
でも保身って誰にでもあるじゃない?私たちヒーローじゃないんだよ」
誰かに傷つけられることは多くても 誰かを傷つけた事は忘れる。
恨まれているかもしれない 苦しんでいるかもしれない。
でも一番良いのは 二度と相手に関わらないこと。
そう思う。