第7話 たったひとつ
朝。
目が覚めるより先に、
指が動く。
枕元のスマホ。
画面を開く。
フォロワー数。
一万、二千、三百……
昨日より、
-1。
一瞬、見間違いかと思う。
もう一度、更新する。
変わらない。
-1。
たった、ひとつ。
それだけ。
でも、
胸の奥が、きゅっと縮む。
なんで。
どうして。
誰が。
理由なんて分からない。
ただ、減った。
それだけ。
なのに、
心のどこかが、
一緒に削れた気がする。
学校。
黒板の文字が、
今日はやけに遠い。
ノートを開いているのに、
頭に入らない。
机の下で、
こっそりスマホを開く。
変わっていない。
増えていない。
減ってもいない。
止まっている。
どくん。
自分の鼓動が、うるさい。
「マリン」
美月の声。
「聞いてる?」
「え、あ、ごめん」
笑ってごまかす。
でも、視線は机の中のスマホに引っ張られている。
昼休み。
つばさからメッセージ。
《どうした?元気ない》
驚く。
画面越しでも分かるのか。
《ちょっとだけ減った》
送ってから、
恥ずかしくなる。
《一人だろ?》
すぐ返信。
《気にすんな》
軽い。
当然のように。
「一人だろ」
その言葉が、
やけに大きく響く。
一人。
たった一人。
でも、
その一人が、
わたしを離れた。
放課後。
河川敷。
さとるがカメラを下ろす。
「今日、上の空」
「そんなことない」
強めに返してしまう。
空気が少し固まる。
「……悪い」
さとるは視線を外す。
マリンの胸がちくりとする。
本当は、当たるつもりなんてなかった。
ただ、
余裕がない。
たったひとつ減っただけなのに。
「減ったの?」
さとるが静かに聞く。
マリンは答えない。
代わりに、
「別に、大したことない」
と、言う。
声が少しだけ、尖る。
さとるはしばらく黙って、
「お前は減ってない」
と言った。
「え?」
「フォロワーが減っただけだろ」
まっすぐな目。
でも、
その言葉は、
いまのマリンには届かない。
頭では分かる。
でも、
心が納得しない。
夜。
ベッドの上。
もう一度確認する。
まだ、-1のまま。
変わらない。
増えない。
減らない。
止まっている。
画面を閉じる。
また開く。
閉じる。
開く。
「たったひとつ」
そうつぶやく。
でも、
たったひとつが、
こんなに重い。
胸の奥で、
何かが、かすかに軋んだ。
ひとつ
へっただけ
なのに
胸のなかが
すこし
さびてしまう
わたしは
減ってないはずなのに
心がすこし
かけたみたい




