第6話 心拍
夜。
部屋の電気は消しているのに、
スマホの光だけが、白く浮いている。
マリンはベッドに寝転びながら、
自分のアカウントを開いた。
フォロワー数。
一万、二千、三百……。
昨日より、増えている。
胸が、ふっと軽くなる。
安心。
理由はない。
でも、確かに安心する。
「……よかった」
誰に言うでもなく、つぶやく。
通知がひとつ鳴る。
コメント。
《今回も好き》
《つばさとの相性いい》
《雰囲気ほんと唯一無二》
スクロールする。
指が止まらない。
止められない。
もっと見たい。
もっと確認したい。
増えているかどうか。
ちゃんと、上に向いているかどうか。
次の日。
授業中。
ノートの端に、小さく数字を書く。
昨日のフォロワー数。
今日のフォロワー数。
差。
+43。
ほんの少し。
でも、その「+」に目が吸い寄せられる。
心臓が、どくんと鳴る。
増えてる。
わたしは、増えてる。
そんな気がする。
昼休み。
つばさからメッセージ。
《伸びてるな》
短い。
でも、自信に満ちている。
《もっといける》
マリンの胸が熱くなる。
もっと。
その言葉は、甘い。
もっと見られる。
もっと知られる。
もっと、光に近づく。
放課後。
河川敷。
さとるがカメラを構える。
「最近、確認多くない?」
「え?」
「数字」
さらっと言う。
責めるわけでもなく、
ただの事実として。
「別に……」
マリンは目を逸らす。
「気になるだけ」
「ふーん」
さとるはそれ以上言わない。
でも、
視線が少しだけ長い。
「見すぎ」
ぽつりと落ちる。
軽い言葉。
でも、どこか重い。
マリンは笑う。
「だってさ、増えたらうれしいじゃん」
「減ったら?」
その問いに、
一瞬だけ、間が生まれる。
「……減らないよ」
言い切る。
根拠はない。
でも、言い切る。
さとるは何も言わない。
夜。
もう一度、確認する。
フォロワー数。
変わらない。
増えていない。
ほんの数時間。
それだけなのに。
胸の奥が、ざわっとする。
さっきまで安心だったのに。
「なんで」
誰も減らしていない。
ただ、止まっているだけ。
でも、
止まることが、
怖い。
心臓の鼓動みたいに。
増えていれば、生きている気がする。
止まれば、不安になる。
スマホを胸に押し当てる。
どくん。
本物の心拍が、そこにある。
でも、
画面の数字のほうが、
大きく響いている気がした。
とまるだけ
へってないのに
とまるだけで
息が
浅くなる
わたしは
なにで
呼吸してるの?
くらい部屋で
いちばん
あかるいのは
わたしの
顔じゃなくて
数字




