第5話 ひそひそ
朝の教室は、いつもより少しだけ静かだった。
静か、というより、
まとまっていない感じ。
マリンが入ると、
何人かがちらりと見る。
目が合うと、
すぐ逸らされる。
「おはよ」
美月がいつも通り声をかけてくれる。
その声の明るさに、
少しだけ救われる。
「昨日のコラボ、やばかったね」
「……見た?」
「そりゃ見るでしょ」
笑いながらも、
美月は少しだけ周囲を気にしている。
マリンも、感じていた。
空気が、変わっている。
二時間目の休み時間。
後ろの方から声が聞こえた。
「昔から目立ちたがりだったよね」
小さな声。
でも、わざと聞こえる距離。
「ね。急に有名人気取り?」
くすくす笑い。
マリンの耳に、
ちゃんと届く。
胸の奥が、ひゅっと縮む。
目立ちたがり。
そうだっただろうか。
ただ、踊るのが好きで、
動画を撮っていただけなのに。
「別にさ、調子乗ってるわけじゃなくない?」
別の声。
擁護。
「だって、何も変わってないし」
「でもさ、つばさとコラボって勘違い」
「それは仕事でしょ」
「高校生で仕事ってなに」
空気が、割れる。
教室の真ん中に、
見えない線が引かれる。
マリンは、机の上の教科書を見つめた。
文字が、入ってこない。
放課後。
廊下で、
見知らぬ一年生に声をかけられる。
「写真、いいですか?」
笑顔で応じる。
スマホを向けられる。
「ありがとうございます!」
きらきらした目。
その後ろで、
同じ学年の女子がこちらを見ている。
無言。
表情が読めない。
帰り道。
さとるが隣を歩く。
「今日、静かだったな」
ぽつりと言う。
「……そう?」
「割れてた」
簡潔な表現。
マリンは苦笑する。
「人気者は大変だな」
からかいではない。
ただの観察。
「人気者じゃないよ」
思わず強く言ってしまう。
さとるが少しだけ驚く。
「……悪い」
マリンは首を振る。
「違うの。なんか、違う」
うまく言えない。
嬉しいはずなのに。
褒められているはずなのに。
なぜか、
胸の奥がざらついている。
拍手の音が、
少し遠い。
その代わりに、
ひそひそが近い。
夜。
コメント欄を開く。
ほとんどは好意的。
でも、
《調子乗ってない?》
《つばさの力でしょ》
《昔からああいう子だよね》
ほんの数行。
でも、
目がそこに止まる。
指が、スクロールを止める。
「……気にしない」
そうつぶやく。
でも、
完全には消えない。
拍手とひそひそ。
どっちも、本当。
どっちも、音。
マリンはスマホを伏せた。
天井を見上げる。
光は、あったかい。
でも、
その光の後ろに、
影ができている気がした。
教室の
まんなかに
見えない
線が
ひかれてる
ぱちぱち
きこえる
そのうらで
ひそひそ
ちいさな
こえがする
どっちも
わたしを
向いている




