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ふたつの私、ひとつの星 ――ティックトッカー女子高生の揺れる放課後――  作者: カトーSOS


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第3話 さとるの距離

挿絵(By みてみん)



放課後の屋上。


風は昨日より弱い。


「撮るよ」


さとるが、いつも通りの声で言う。


スマホを構える角度も、

立つ位置も、

昨日とほとんど同じ。


なのに。


わたしの中だけが、少し違う。


「ちょっと待って」


わたしはスマホを取り出す。


フォロワー数を確認。


昨日より、また増えている。


コメントも増えている。


“次も楽しみ”

“今日も投稿するよね?”


期待。


数字の向こうから、

何かが押してくる。


「まだ?」


さとるの声。


「うん、今」


スマホをポケットに戻す。


音楽が流れる。


体が、少しだけ硬い。


昨日までは、

ただ楽しかった。


今日は。


ちょっとだけ、

“ちゃんとやらなきゃ”って思っている。


右足、左足、ターン。


振りは間違えない。


でも。


最後の笑顔が、

少しだけ遅れた気がした。


「どう?」


撮影が終わる。


さとるは画面を確認する。


「いいんじゃない」


いつも通り。


「ほんと?」


「うん」


それだけ。


「なんかさ」


わたしは、フェンスにもたれながら言う。


「ちゃんとやらなきゃって思っちゃう」


「何を」


「動画」


さとるは少し考えてから言う。


「いつも通りでいいだろ」


簡単に言う。


「でも、みんな見てるし」


「見てるだけだろ」


その言い方は、

昨日と同じ。


変わらない。


わたしの中では、

少しずつ何かが動いているのに。


「さとるはさ」


「ん?」


「気にならないの? 数字」


さとるは首をかしげる。


「別に」


「増えてるよ?」


「知ってる」


「嬉しくない?」


少しだけ、

意地悪な聞き方をしてしまった。


さとるは、

画面から目を離して、

わたしを見る。


「マリンが楽しそうなら、それでいい」


それだけ。


その言葉が、

風よりも静かに、

胸に落ちる。


わたしは、笑う。


自然に。


さっきより、ちゃんと。


「変なの」


「何が」


「さとる」


「どうも」


ぶっきらぼうな返事。


でも、

その距離は、変わらない。


帰り道。


わたしはまたスマホを開く。


フォロワーが、

ひとつ増える。


嬉しい。


でも。


さっきのさとるの言葉が、

それよりも、

少しだけ温かい。


“マリンが楽しそうなら、それでいい”


数字じゃなくて。


わたし。


動画じゃなくて。


わたし。


見られるわたしと、

見られていないわたし。


その間にいるのが、

さとる。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


この距離が、

好きかもしれないと思った。





となりは


静かで


なにも

言わないのに


ちゃんと


ここにある



あったかい


目がある


それだけで


ちゃんと


立っていられる



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