第2話 学校に知られる
朝、教室のドアを開けた瞬間、
空気が、少しだけざわついた。
ほんの少し。
でも、確実に。
「マリン!」
いちばん最初に声をかけてきたのは、美月だった。
いつもより少し早足で近づいてくる。
「昨日の動画、見たよ」
その言い方は、騒ぐ感じじゃない。
でも、目はちゃんと笑っている。
「……うん」
「すごいね」
短い一言。
大げさじゃない。
でも、ちゃんと祝福。
そのあとで、まわりがざわっと動く。
「やばくない?」
「めっちゃ回ってるよ」
「トレンド入ってるって」
男子が後ろから言う。
「有名人じゃん」
軽い調子。
笑い半分。
でも、スマホは向けられている。
ひそひそ。
ちらり。
教室のあちこちで、
わたしの動画が再生されている。
屋上で笑ってる、わたし。
あの時は、
ただ楽しかっただけ。
「写真いい?」
廊下に出たら、知らない学年の子に声をかけられた。
「え、あ、うん……」
肩を寄せて、カメラが近づく。
フラッシュ。
一瞬、まぶしい。
「ありがと!」
そのまま走っていく背中。
廊下に残されたわたしは、
なんだか、少し浮いている気がした。
嬉しい。
たしかに、嬉しい。
でも。
落ち着かない。
視線が増えた。
いままで、
ただの背景だった目線が、
全部、意味を持ち始めたみたい。
昼休み。
わたしは、美月の隣に座る。
「なんかさ」
「うん?」
「変じゃない?」
美月は、わたしの顔をじっと見る。
「何が?」
「みんなの感じ」
少しだけ間を置いて、
美月は言った。
「増えただけでしょ」
「なにが」
「見る人」
どこかで聞いたような言い方だ。
でも、美月の声はやわらかい。
「嫌だったらやめればいいし、
楽しいなら続ければいいんじゃない?」
それだけ。
簡単な言葉。
でも、
胸の奥が少しだけ軽くなる。
放課後。
教室に残っていると、
後ろの席から声がする。
「昔から目立ちたがりだったよね」
小さな声。
でも、聞こえる距離。
笑い声。
「別に悪いって言ってないよ?」
別に悪いって言ってない。
でも、ちょっとだけ、
刺さる。
わたしは、
目立ちたがりだった?
そうだったのかな。
屋上で踊ったのは、
ただ楽しかったから。
それだけ。
スマホを開く。
フォロワーは、また増えている。
数字が上に動く。
安心する。
でも。
数字が増えるほど、
教室のわたしは、
少しずつ居場所がずれていく気がした。
動画の中のわたしは、
笑っている。
教室のわたしは、
少しだけ、背筋を伸ばしている。
「……なんか、変」
つぶやくと、
隣で美月が小さく笑った。
「変じゃないよ」
それだけ。
理由も、
理屈も、
ない。
でも、その一言で、
わたしは今日を終えられそうだった。
きのうまで
ただのわたしだったのに
きょうは
だれかの目の中に
いる
ひかりが
まぶしい
ちゃんと
目をあけていないと
見えなくなりそう




