第14話 炎上余波
配信を、切る。
画面が暗くなる。
コメントの流れが、止まる。
急に、音がなくなる。
さっきまで、あんなに速かったのに。
静か。
スマホを握ったまま、
わたしは動けない。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
息が、うまくできない。
炎上してから、
一度も泣かなかった。
怖くても。
眠れなくても。
数字が減っても。
泣かなかった。
でも。
いま、
涙が、落ちる。
止まらない。
肩が震える。
声にならない。
さとるは、横で見ている。
ただ、そばにいる。
少しだけ間を置いて、
言う。
「よくがんばった。」
その一言で、
堰が切れる。
わたしは、泣き崩れる。
スマホを握ったまま。
声を出さずに。
ただ、嗚咽だけが響いた。
――
朝。
スマホを開く。
フォロワーの数字は、少し戻っていた。
でも、全部じゃない。
減った分が、きれいに戻るわけじゃない。
コメント欄を開く。
応援もある。
質問もある。
でも、まだ残っている。
「偽善」
「どうせ計算」
完全には消えない。
画面を閉じる。
胸は、昨日より軽い。
でも、完璧じゃない。
学校に行く。
廊下の空気が、少し違う。
ひそひそは、ある。
でも、前みたいな刺さる感じじゃない。
視線が合う。
逸らされない。
美月が、いつも通りに声をかける。
「昨日、見たよ」
それだけ。
特別なテンションでも、
持ち上げるでもない。
「……どうだった?」
「普通」
少し笑う。
「マリンだった」
胸の奥が、やわらぐ。
教室の空気も、昨日より落ち着いている。
全員が味方になったわけじゃない。
でも、敵でもない。
放課後。
通知を見る。
フォロワーは、ゆっくり戻っている。
でも、戻らない人もいる。
ゼロにならないアンチ。
消えないコメント。
それでも。
昨日みたいに、
何度も更新しなくなった。
画面を伏せる。
さとるが隣にいる。
何も言わない。
ただ、いる。
つばさからメッセージが来る。
『波は越えたな』
短い。
『でも油断するな』
相変わらず合理的。
わたしは、返信する。
『うん』
それだけ。
夜。
ひとりでベッドに横になる。
静かだ。
昨日は、
世界中が敵みたいだった。
今日は、
少しだけ、
世界が静かだ。
全部は戻らない。
でも。
わたしは、減らない。
ぜんぶ戻らなくても、
わたしは減らない。
はじめて、
安心、って思った。
泣いたあと
世界は
少しだけ
静かだった
なくしたものも
ある
でも
わたしは
まだ
立っている




