第11話 三者の分岐
放課後。
空き教室の窓から、校庭が見える。
炎上は、まだ止まっていなかった。
通知は減ったけれど、
引用は続いている。
フォロワーも、少しずつ減っている。
わたしは、スマホを机に伏せた。
コンコン、とドアが鳴る。
振り向くと、つばさが立っていた。
どうやって入ったのかは分からない。
ただ、そこにいる。
その背後に、女子生徒が何人も見えた。
ざわざわとした空気。
「え、あの人……」
小さな声。
つばさは、軽く手を上げた。
それだけで、みんな静かになった。
「待ってて」
やわらかい声。
ぞろぞろとついてきた子たちは、
廊下の向こうで止まった。
不思議なくらい、
素直に。
ドアが閉まる。
急に、空気が変わる。
つばさは、まっすぐわたしを見る。
「状況、把握してる」
怒っていない。
焦ってもいない。
分析している目だ。
「切り抜き型だな。典型的」
わたしは、うなずく。
「謝罪動画を出せ」
即答だった。
「ちゃんと説明する。
誤解を整理する。
一回、流れをこっちに戻す」
「流れ……?」
「今は注目が最大化してる。
ここで動かないのは、損だ」
損。
その言葉が、胸に小さく刺さる。
つばさは続ける。
「炎上は波だ。
止めるな。作れ」
そのとき、ドアがまた開く。
さとるだった。
空気を一瞬で読む。
つばさを見る。
わたしを見る。
目の下を、少しだけ気にする。
「……大丈夫か」
わたしは、へらっと笑う。
「まあね」
つばさが言う。
「今は感情で動くな。
これは構造だ」
さとるの声は、低い。
「やめろ」
つばさがわずかに眉を上げる。
「……誰だ?」
「誰でもない。やめろって言ってんだ」
空気が張る。
つばさは冷静なまま。
「逃げるのか?」
「違う」
さとるは、わたしだけを見る。
「お前、今楽しいか?」
答えられない。
つばさが言う。
「フォロワーが減ってる。
このままだと立場が崩れる」
「だからなんだよ」
さとるは、即答する。
「数字なんかどうでもいい」
つばさの目が細くなる。
「それは理想論だ」
「違う」
さとるの声は、静かだけど強い。
「マリンが笑ってるなら続ければいい。
しんどいなら、消せばいい」
フォロワーの話はしない。
再生数も言わない。
「傷つくくらいなら、やらなくていい」
つばさは、わたしを見る。
「消したら、何も残らない」
さとるは、すぐに言う。
「残るよ」
間。
「マリンは残る」
静かになる。
廊下の向こうで、
待っている気配がする。
外の世界と、
今いるこの教室。
わたしは、ふたつの目に挟まれている。
つばさの目は、
未来を見ている。
さとるの目は、
今を見ている。
どっちも、わたしを思っている。
でも、方向が違う。
同じ炎上でも、
見えている景色が違う。
伸ばすか。
守るか。
逃げるか。
戦うか。
わたしは、まだ選べない。
「……わたし」
声が、少しかすれる。
どちらの言葉も、刺さる。
どちらの言葉も、優しい。
でも。
逃げるのも、戦うのも。
どっちも、わたしじゃない気がする。
わたしは、まだ答えを出さなかった。
見えている
景色がちがう
未来を見る目と
今を見る目
どちらも
あたたかい
わたしは
どこを
見ればいい
わたしの
ため
なのに
どっちも
わたしじゃない
気がする




