表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたつの私、ひとつの星 ――ティックトッカー女子高生の揺れる放課後――  作者: カトーSOS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

第10話 炎上拡大

挿絵(By みてみん)



通知が止まらなかった。


最初は、少し驚いただけだった。


「バズったのかな」


軽い気持ちでアプリを開く。


でも、そこに並んでいたのは、

いつもの「かわいい」ではなかった。


「陰キャ見下してる?」

「学校バカにしてるよね?」

「本音出たな」


同じ言葉が、何度も何度も並んでいる。


引用動画が回っていた。


――「わたし、学校ってちょっと窮屈なんだよね」


その一言だけが、切り抜かれている。


笑い声も前後の会話もなく、

真顔の一瞬に、

《本音出た?》

という文字が重なっている。


再生数が跳ねている。


コメントが増えていく。


マリンは、スクロールを止められなかった。


DMが荒れている。


知らないアカウント。

長文の批判。

短い罵倒。


「調子乗ってる」

「性格悪そう」

「消えて」


指先が冷たくなる。


フォロワー数を見る。


減っている。


ほんの少し。


でも、はっきりと。


更新する。


また減る。


更新。


また減る。


胸の奥が、

じわじわと削られる。


わたし、

そんなつもりじゃなかった。


元動画を開く。


たしかに言っている。


でも、あの空気じゃない。


わたしの声なのに、

わたしじゃない顔をしている。


削除しようかと思った。


でも、やめた。


わたしは確かに言った、それを消したくなかった。



翌日。


学校でも、空気が違った。


ひそひそ。


スマホを見せ合う姿。


笑い声。


教室の真ん中に、

見えない線が引かれているみたいだった。


美月は何も言わない。

でも、いつもより静かに隣にいる。

あたる肩があたたかい。


さとるが、小声で言った。


「大丈夫か。」


わたしの顔を覗きこむ。


「大丈夫じゃないな。」


私は、へらっと笑う。


「こういうの、あるよ」


でも、声が少しだけ揺れる。


昼休み。


また数字を見る。


減っている。


さっきより、はっきり。


呼吸が浅くなる。


夜。


ベッドの中で、

何度もアプリを開く。


やめようと思う。

でも、開いてしまう。


通知。

通知。

通知。


フォロワーが、減っていく。


ただの数字。


なのに、

自分の輪郭が削られていく気がする。


「……わたし、そんなに悪いこと言った?」


スマホを伏せる。


部屋は暗い。


でも、いちばん明るいのは、

画面に残る数字の残像だった。


そのとき、メッセージが届く。


さとるからだ。


『気にするな』


短い。


すぐに通話がかかってくる。


「なあ」


さとるの声は、いつもと同じだ。


「減ったな」


マリンは、黙る。


「……うん」


少し間があって、さとるは言う。


「だからなんだよ」


マリンは、顔を上げる。


「お前が楽しくてやってたんだろ」


「……うん」


「今、楽しいか?」


答えられない。


さとるは、淡々と言う。


「しんどいなら、やめればいい」


フォロワーの話はしない。

再生数も言わない。


「俺は、数字なんかどうでもいい」


少しだけ声が強くなる。


「お前が笑ってるなら続ければいい。

 泣くくらいなら、消せばいい」


それだけだった。


マリンは、スマホを見る。


減っていく数字。


止まらない通知。


でも。


さとるの声は、

変わらない。


外では嵐が広がっている。


知らない人たちが、

知らない顔で、

わたしを語っている。


ことばは、

わたしの口から出たのに、


帰ってくるときは、

刃みたいになっている。


通知音が、また鳴る。


マリンは、

すぐには手を伸ばさなかった。

消せば

静かになるかも


消したら

ほんとうに

なかったことになる?


わたしは

言った


それは

消したくない


消えていくのは

わたしの

輪郭


さわってもいないのに

すこしずつ

かすれていく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ