第8話 茶会への招待状
目が覚めると、そこは見覚えのある天井だった。
この豪奢な飾り付けは――間違いない。エミリオの自室だ。
しかし身体が痛く、起き上がることができない。俺は何とか声を絞り出し、隣でうたた寝しているアンを呼んだ。
「……アン?」
「――!ぼっちゃま!!」
アンは大変驚いたような顔をし、すぐに廊下を駆けていく。そして数分後、医者や侍女長が慌てた様子で駆け込んできて、部屋は騒々しくなっていった。
かかりつけ医の先生は俺の身体を調べていく。
「――ふむ。魔力値も異常なし。ほとんど怪我は治っています。あとはお腹の傷が塞がるまで絶対安静にしてくださいね」
一同がほっと胸を撫で下ろす。先生が部屋を出ていくと、侍女長は涙を流しながら俺のことを叱った。
曰く、俺は七日も寝たきりだったそう。腹の傷が開き、そこから浄化しきれていない瘴気が入り込んでしまったのが原因だとか。
そして案の定、殿下のことについてもガミガミと怒られた。気づいていたなら何故言わなかったのだ、あのお方だと知っていたら、すぐに連絡したのに――、と。
いや、殿下は俺の怪我を踏まえても尚、図書館に居たんだけどな、なんて考える。
侍女長は息をつく暇もなくお説教を並べて言った。なによりあの後、ロイドや殿下からのお見舞い依頼が殺到し、公爵家はそれを断るのに大変苦労したのだとか。
「さすがに瘴気に侵されている方を、王族の皆様に会わせる訳にはいきませんでしたの」
侍女長に代わり、サリーが頬杖をつきながら説明する。サリーは目を真っ赤に腫らしていて、一晩中泣いていてくれていたのだと分かった。
「断ってくれてありがとう。あの人たちが来ていたら更に胃に穴が開いていたよ」
「まぁっ!」
サリーが驚いたような表情で、顔を綻ばせる。実際、あのネチネルドと元気いっぱいなロイドが来ていたら、俺の疲労は更に大きくなっていたことだろう。
だから、断ってくれた屋敷の者には感謝しかない。
しばらくサリーと歓談し、俺は久々に穏やかなひと時を過ごした。サリーは淑女教育の為、すぐに部屋へ戻ってしまったが、推しとの有意義な時間が過ごせて大変満足だ。
俺は横になったまま、窓から外を眺めた。
庭には何台か王宮の馬車が止まっていた。そこには見覚えのあるロイド家の馬車もある。そしてどの馬車からも使用人達が降り、なにやら箱を渡していた。
見舞いの品だろうか。全く、貴族社会は情報が広まるのが早い。
そんなことを考えながら紅茶を飲んでいると、案の定、執事長が真っ青な顔で部屋に駆け込んできた。
「どうしたんだ、カールソン」
「ぼぼぼ坊っちゃま!大変ですぞ!」
執事長・カールソンはあたふたしながら、話し始める。
「お茶会のご招待が来たのです!」
「茶会?断ってくれ」
どうせまたお母様の企画した、お茶会という名の友達作りの場だろう。俺はその旨を軽く一蹴したが、カールソンは生唾を飲んだ表情で言った。
「それが……そうもいかない相手なのでございます。こちらを」
カールソンが上質な紙でできた封筒を差し出す。俺はそれを受け取り、中を見て絶句した。
そこには、今一番見たくない名前と、最悪な内容が綴られた手紙があった。
「……レオナルド殿下からの、茶会の招待状?」
それは王宮の紋様が入った、王太子直々からの手紙だった。要約すれば、近々王宮で大規模な茶会を開くので、バーンデッド公爵家も是非参加して欲しい、と言った内容である。
俺は大きくため息を吐き、空を仰いだ。
殿下は一体何を考えてらっしゃるのか、思考が読めない。どっちにしろ王宮直々の誘いを断ることは出来ないし、お茶会には出席せざるを得ないのだが。
「はぁ……胃が痛い」
もう胃がキリキリとしていた。隣ではアンと執事長が顔を青ざめさせながら、服装はどうしようか、なんてことを話している。
俺はまた、外を眺めながらため息を吐いたのだった――――。




