表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/10

第6話 ドタキャン

「きゃぁぁぁ!誰かぁー!!」


魔獣に襲われそうになり、ルルは悲痛な叫び声をあげた――その時だった。


ザッ

「もう大丈夫だ。頑張ったな」

「だ……れ……?」

「俺か?俺は……ロイ。ただのロイさ」


ロイと名乗るその少年は、声を張り上げながら魔獣へと刃向かっていく。そして――――



ザシュッ


魔獣はモヤを吹き出しながら倒れていった。

ルルの目の前には、太陽に照らされる王立騎士団の制服をまとった少年が立っていた――――。





――――(そうか……これは、前世の記憶か)


俺は真っ暗闇の中、何かの映像を見ていた。

それは、前世の自分が乙女ゲーム・TRUELOVEをプレイしている姿だった。


これは、可愛らしい平民の主人公ヒロイン、ルル・ミラージュの、幼少期の思い出。

攻略対象の一人である騎士団長の息子、ロイド・ダントスのルートに入ると見れる、みんな大好き「昔実は会ってたんだよ」系シナリオである。


目の前に見えるこれは、そのスチルと大まかなシナリオだった。


そして俺は、この魔獣と彼女に見覚えがある。

そして、ロイドのボイスにも――聞き覚えがあった。



◇◇◇



「――〜で、――ですから」


何やら騒がしい声が聞こえる。侍女長だろうか……誰かに何かを説明し、止めようとしているようだった。


「うー……ん」


その騒々しさに目が覚める。ゆっくりと目を開けると、目の前には泣き腫らしたサリーの顔があった。


「サリー……?」

「お兄様!? アン!お兄様が目を覚ましたわ!」


サリーは顔をぱっと輝かせ、アンを呼ぶと、また涙をボロボロと流し始めた。

そのサリーの言葉に、アン以外にも沢山の使用人が集まってくる。


「坊っちゃんが目を覚まされたぞ!」

「医者を呼べ!奥方様も!」


静かなはずの寝室が、バタバタとまた騒がしくなる。父上達は数分もしないうちに駆けつけ、俺の周りはまた一層うるさくなっていた。


「あぁ愛しいエミリオ、おかしな所はない?」


涙をしとしとと流しながら俺の手を握る母様。父上は目が充血していて、遅くまで起きていたことが伺えた。


医者によると、どうやら俺は、普段慣れない瘴気に当たり、なかなか目を覚まさず眠り続けていたらしい。

最近図書館に籠るばかりで、鍛錬を怠っていたことが祟ったようだった。


そこでハッとする。俺は一体、どのくらい眠っていたのだろう。体感的にはそんなに経っていないが、万が一ということがあるかもしれない。


ばっとアンの方を向き、声を荒らげて聞く。


「アン!俺は何日眠っていた!?」


アンは少し驚いたような表情をしていたが、すぐに「6日間程ですかね」と辛そうな顔で答えた。


「6日間!?」


まずいまずいまずい。

ということは、今日がレオとの約束の日なのだ。

今は何時だろうかと時計を見る。鳩時計の短針は5、長針は6を指していた。


午後5時半。約束の時間はとっくに過ぎていた。


顔からサァッと血の気が引く。相手はあの殿下だ。人をネチネチ責めるのが大好きな、あのお方なのである。


それにあの人は、平気でこの時間まで待っているだろう。そういう人なのである。


前世、TRUE LOVEにはこんな話があった。

ある日、我が妹サリーによるイジメで、主人公ヒロインが殿下の約束に遅れてしまう。約束は昼だったのに、もう夕方――殿下はいないだろうと思いながらも、急いで約束の場所まで行くのだ。



――そこに、殿下は“居た”。

しかもにこやかな笑顔で、主人公ヒロインのルルを迎え入れたのだ。


ひとつ言おう。

怖い。とても怖いのである。


最早ストーカー――前世でなら訴えられてもおかしくない。レオナルドがネチネルドと言われるようになった、要因の一つである。


そう、あの方は重度の粘着気質なのだ。メンヘラと言ってもおかしくはない。一度手に入れたものは絶対に離さない。そういう人だ。


俺がその“一度手に入れたもの”に入っているかどうかは分からないが、万が一ということがある。

そう、あくまで万が一だ。百万分の1くらいの確率だ。


あの人は、待っている可能性がある。

今、この瞬間も。


「ヤバい……事情が事情でも、約束をドタキャンとか――やばい」


「どうされました?ぼっちゃま」


一人でぶつぶつ喋っていると、侍女長が不思議そうに見てくる。

俺はそんな侍女長を安心させるように、笑顔を張り付けながら言った。


「ありがとうマリサ。少し、湯浴みがしたいな。それに人が多くて、また疲れが溜まってきた。少し一人にしてくれないか?」


儚げボイスでそう言うと、侍女長マリサはすぐに頷き、部屋にいる人々を外へと追いやってくれた。もちろん、サリーと両親と、俺付きの侍女のアンもだ。


ついでに湯浴みの準備もお願いしたから、侍女たちは当分この部屋へ来ないだろう。



「失礼します」、と侍女たちが部屋を出て、あんなに騒々しかった自室はすぐに静かになった。


ふと隣に目をやると、街で買ったクッキーが置いてる。クッキーは全て袋の中で綺麗に保管されていた。どれも傷一つない。アンに感謝だ。


俺はその袋を手に、ベッドからのそりと起き上がった。


「ぐっ……」


身体中が痛い……。バキバキと骨が鳴る感覚がする。しかし、こんなのより“あのお方”を怒らせる方が何倍も怖いのだ。


それは前世で何度も、彼のサリー含む悪役に対する報復を見ているから知っている。

彼の断罪方法はとにかく惨いのだ。


彼はここでも、最悪の粘着質を発揮する。首を切るだけでは飽き足らず――想像もしたくない嫌な方法で――とにかく、王太子らしからぬ方法で断罪をするのだ。


そんな殿下を怒らせたらどうなるか――想像にかたくない。


叫ぶ体を抑え、こっそりと廊下に出る。そして人がいないことを確認すると、一目散に玄関へ駆けていった。


「ぼ、ぼっちゃま!?」


ちっ……一人の侍女に見つかったか。さて、ここからどう図書館へ向かおう。


ばたんと重い扉を開け、外へ出る。外は夕焼けが辺りを赤く照らしていた。


「あ、お前!生きてたか!」


……?右側から大変元気そうな声が聞こえる。ふと横を見ると、そこには見覚えのある顔があった。


「ロ、ロイド!?」


思わず声を出す。彼はロイド・ダントス。攻略対象の一人であり、あのイベントをするはずだった少年である。声の大きさは相変わらずだ。


ロイドは、なぜ名前を?という顔をしながらも、俺の手を強く握る。


そしてブンブンと振り、イベントの際、どのくらい俺がかっこよかったかを語り始めた。


「君、強いんだなぁ!当たり前か、ナイトのバッジをつけていたもんな!それにしてもバーンデッド公爵家の嫡男だったなんて!見違えたぞ!」


とにかく大きな声で喋るロイドに、なんだなんだと使用人が集まってくる。


まずい、このままだと連れ戻されてしまう。


俺はロイドに軽く感謝を述べてから、馬車に乗せてくれと頼んだ。

ロイドは不思議そうにしていたが、何か事情があると知りすぐに了承する。


二人で馬車に乗り込むと、侍女長はもうすぐそこまで来ていた。


「どこまでだ?」

「王立魔法図書館まで!」


こうして、俺の短い逃避行が始まった――――。

マリサが止めていた人というのはロイドです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ