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20/24

最悪なスタート

更新が遅れ、誠に申し訳ございません!!

今後も少しづつ更新していくので、どうか生暖かい目で見守っていただければ幸いです。

「……あの方が?」

「えぇ。確かエミー、といったかしら」

「なんだ男性じゃない。安心したわ」


登校初日。俺は教室の隅の席で、顔を机に突っ伏していた。昨日あの殿下(バカ)がやらかしたことで、学園の話題は“エミーという人物の正体”で持ち切りとなっていた。


殿下にあれほどの顔をさせる人物は一体誰なのか、主に殿下ラブな令嬢たちが朝から話していたのだ。


俺は平民貴族合同クラス、通称・Cクラスになった。知り合いで同じクラスなのは、隣の席のエドと、最近小説を書いているというマーティス子息だった。


また、このクラスには5人目の攻略対象である、例の音楽系ヒーローもいる。これは嬉しいことだ。



「朝から人気者だな」


隣に座るエドが、冷笑しながら皮肉混じりに言う。事実、殿下のせいで一躍時の人となっているのだから、笑えない。


別に噂になるのはいいのだ。ただ、その上がったハードルを、俺の容姿性格では乗り越えられないわけで……。令嬢たちが俺の顔を見ては、何故こんなのが、と不思議そうな顔をするのだ。


それは俺も思う。ただ平和な学園生活を望んでいただけなのに……と、俺が一人心の中で泣いていることなど、誰も知らなかった。



「席に着きなさい」


チャイムが鳴り、キツめな女教師・Mrs.マダムス先生がピシッと指揮棒を振る。それに応じて、生徒たちはガタガタと席に着き始めた。


「朝から殿下だなんだと騒々しいですわよ。全く――」


Mrs.マダムスははぁとため息を吐いて指揮棒を振る。その言葉に反応し、ちらちらと俺の方へ生徒の視線が送られる。


「まぁいいです。まずは皆さん、学園入学おめでとうございます。私の名はマダムス・スミス。貴方々の担任です。さて、モットーは時間厳守。さっさと自己紹介いたしましょう」


マダムス先生はそう捲し立てると、1番前に座っているマーティス子息を指揮棒でピシッと指名した。


どうやらここから自己紹介が始まるらしい。俺は、オドオドしながら話す生徒たちを見て、何を言おうかと考えていた。



「…――次、アーベント・ヴァイゼ」


しばらく経った頃、聞き覚えのある名前が耳を触る。もしやと思い顔を見れば、その予感は確信に変わる。


「……伯爵家長男アーベント・ヴァイゼです。よろしくお願いします」


冷たく放たれるその氷のような声に、俺は聞き覚えがあった。

ちらり、と気付かれない程度の視線を送る。


この地方では珍しい白髪の美青年。髪は後ろで一つに纏められており、より一層そのご尊顔を垣間見ることが出来た。


“アーベント・ヴァイゼ”。攻略対象の一人である、音楽系ヒーローだ。

彼のルートでは、俺たち公爵家は1番悪くても国外追放。


つまり、そこまで警戒する必要は無い。

まぁ仲良くなれたらなっておこう、くらいに留めておくことが吉である。


彼は凛とした佇まいで着席した。次の自己紹介が始まり、着々と俺の番が迫り来る。その間も、アーベントは至極つまらなそうに髪を弄っていた。


彼も聡明で優秀。本当は、殿下のような高位貴族しかいないA組に行きたかったのかもしれない、なんてことを考える。



――そしてついに俺の番となっていた。


「次、エミリオ・バーンデッド」


「はい」


ふーっと息を吐く。ここで殿下との仲を弁解すれば、後々妙な噂は立たなくなるだろう。これはチャンスだ。


俺はもう一度咳払いしてから、丁寧に自己紹介を始めた。


「バーンデッド公爵家長男、エミリオ・バーンデッドです。何やら妙な噂が立てられていますが、全て殿下のお戯れ。気にしないで大丈夫ですよ」


どうだ、これでもういいだろう。

そうにこっと笑顔を貼り付ける。


その言葉に、生徒達――特に殿下ラブな令嬢達は、ほっと胸を撫で下ろしたように安堵のため息を吐いていた。


「好きな物は小説です。よろしくお願いします」


そう言って着席すると、辺りからパチパチとまばらな拍手が送られる。こうして俺は、目立ちすぎず陰りすぎずの、理想の地位を獲得した。


「それでは次――――」


Mrs.マダムス先生が次の生徒を呼ぶ。その間、ちらりとアーベントの方を見れば、彼は相も変わらずつまらなそうにペンを弄っていた。


将来的に西の国の重鎮となる彼にとっては、この学園での生活というものは大層つまらない、とでも感じるのだろう。


公爵家長男の俺のことなんて、気にも留めないだろう――――だがそれでいい。今は刺激しないことが大切だ。


俺はふっと息を吐き、アーベントから目を逸らす。そして昨日の寝不足もあって、他生徒の自己紹介をぼんやりと聞き流していたのだった。



◇◇◇



自己紹介が終わると、今日は入学初日ということで早々解散となった。


エドがソワソワとした様子で俺の元へ駆け寄る。俺は机の上のバッグに魔導書類を詰めながら、そんなエドに目をやった。


「エミリオ、“倶楽部”はどうするつもりだ?」


目をキラキラとさせながら話すエドに、なんだそんなことか、とバッグを肩にかける。


エドの言う通り、この学園には“倶楽部”なるものがある。要は前世で言う部活のようなものだ。

ちなみに俺は入るつもりはない。学園で目立つような事をするより、一人ひっそりと好きなことをする方がよっぽど気楽だからだ。


しかしその旨をエドに伝えると、彼は咳払いを一つし、何やら話を捲し立て始めた。


「エミリオ、お前がそう言うことは想像がついていた。しかしな、僕は心配なんだ」

「心配?なにが?」


俺が首を傾げる前に、エドがずいと何かを渡す。


「エミリオ。お前は時々、どこか遠くを見ているような顔をする」

「はぁ」

「まるで未来を見ているような……そんな、不安になる表情をするのだ」


もしかして、TRUE LOVE(この世界)について考えている時のことを言っているのだろうか。不安にさせてしまったとは申し訳ない。しかしあのエドが、そこまで俺を見ていてくれたとは、と一人感動する。


しかし嬉しむ俺を他所に、エドはとんでもないことを口走った。


「僕はお笑い倶楽部なるものを立ち上げようと画策しているのだ」


「……………………は?」


たっぷりと間を空け、7秒間。俺は疑念の声を発した。


お笑い倶楽部?いやいや、エド。お前は見る専だったのでは?


しかし困惑する俺を置いてけぼりに、話はトントン拍子に進んでいく。気がつけば、話は俺がお笑い倶楽部の副部長になるという所まで飛躍していた。


「……待て待て待て。エド……、お前はお笑いがしたいのか?」

「あぁ。いつかやってみたいと思っていた」


額に手を当て空を仰ぐ。あぁ……また解釈違いが勃発した。そう悲嘆する俺に、エドは容赦なく入部届を突きつけた。


「入ってくれるな?」

「いや、待って?俺の意思はどこにいったの?」


嫌だと言い張る俺に、エドは何故入ってくれないとでも言いたげに眉を顰める。


倶楽部は一人一つまでだ。そしてそれは、一つのことをやり遂げるという学園目標に則り、卒業まで変えることは出来ない。


俺としては、流石にお笑い一本はきつい――!という事なのである。


「エド……あー……」

「なんだエミリオ」


エドの今までにないくらいの瞳の輝きを見て、罪悪感が押し寄せる。

しかしここは心を鬼にして断る他ない。でないと、俺は学園のお笑い要因として確実に陽ムーブを求められることになる――――……。



「エドワルド……あー、悪いんだけどその」

「なんだ?」



「……実はその、入りたい、倶楽部があるんだよね〜……」



……俺は、こんな楽しそうなエドを前に、お笑い倶楽部が嫌だということだけは言えなかった。

代わりに吐いた嘘が、入りたい倶楽部がある、なんて我ながらしょうもない嘘だ……。


申し訳なさと、何かの倶楽部に入らなければという不安に苛まれながら、ちらりとエドを見る。


彼はどんな顔をしているだろう。悲しそうだったらすぐにでもお笑い倶楽部に入部してしまうかも。しかし予想とは裏腹に、エドは嬉しそうな声色で言った。


「そうか。エミリオにもやりたい事があったのだな。仕方ない、部員は他を集めるとする」

「え」

「じゃあまた寮で」


キョトンとする俺を置いて、エドはそそくさと教室を後にしていった。

入部届まで用意していた割にはあまりの軽さ。そこで俺はハッとし、口を手で覆った。



――もしかしたらエドは、俺が一人になるのを心配してくれたのでは?


そんな仮説に思い至る。

彼自身、一人でいることが多かった身だ。孤独の辛さは誰よりもよく知っているだろう。


これは俺の思い上がりかもしれない……が、もしそうだとしたら、とても嬉しい。


「……アイツ、素直じゃないなぁ」


ふっと笑みを零す。全く、俺もエドも似たもの同士だ。


本当は、俺がどこかの倶楽部に誘う予定だったのに。


「さて、帰るかぁ……倶楽部、どうしよ」


そんな独り言を漏らし、俺は寮に踵を向けたのだった――――。



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