第2話 可愛い子豚ちゃん
「……」
目の前にあるディナーの品々を見て、俺は愕然とした。
「ぼっちゃま、こちらカモシカのステーキにフォアグラとトリュフの贅沢パテ盛り合わせ、バターたっぷりのロブスターのテルミドール風にぼっちゃまが大好きなチーズフォンデュにございます」
なんだ……この激高カロリーの料理は――!?
少なくとも、今日頭を怪我をした病人に食べさせるような物ではなかった。
まぁでも、この料理を出した意図は理解できる。
なぜなら俺は、豚並にでぶっちょだからだ。
目が覚めて前世の記憶が戻って――俺はがっかりした。
なぜ、なぜよりにもよって、このデブでブスな男なのだろう、と。
自分ながらに酷いと思うが、このエミリオ・バーンデッドという男は生粋の醜男なのだ。
ふくよか、なんて可愛らしい言葉では表せない。もはや肉塊。脂肪の塊が歩いているようなものだった。
スプーンで自分の顔を見る。
「うぇっ」
おっと、思わず嘔吐いてしまった。これは、痩せなければ好かれるものも好かれない。
悪役令嬢であるサラリスは美少女だというのに……酷い差である。
「どうしたんだエミリオ」
「いえ、なんでもございません。しかし父上、今日は体調が優れないので失礼します」
「そうか」
俺は唯一カロリーの低そうなポタージュだけ口にし、部屋へと戻って行った。
勿体ない、という言葉が過ぎるが、俺は知っている。バーンデッド公爵家では食べられなかった料理を、数多いる家畜に上げているのだ。
だから多分、大丈夫だろう。
「ふぅー……」
部屋の端に置いてあった鏡を見る。
その細い鏡には全身が収まりきらず、やはり太っていることが伺えた。
「……まずは、ダイエットだ!」
「アン、動きやすい服装あるかな?少し庭を歩きたいんだ」
さらっと嘘をつき、動きやすい作業着を用意させる。ヒラヒラとしたレースが付いていて中々に派手だが、まぁいいだろう。
「じゃあちょっと行ってくるよ」
アンにそう言い残し、俺は外の広大な土地を駆け巡っていった。
◇◇◇
――――3ヶ月後。
俺は見違えるほどに細くなっていた。
あのでっぷりとした脂肪の塊はほとんど落ち、手足が細く、顔は美少年とまでは行かないが、中々に健康的な少年になっていた。
使用人たちはそんな俺を見て、おかしくなったのかとカロリーの高い料理を運んできたが、痩せたいのですと一蹴すると直ぐに仲間についてくれた。
今や屋敷中の使用人が俺のダイエットを見守っていると言っても、過言ではないだろう。
「……お兄様、薔薇が綺麗ですわ」
「そうだね。この薔薇の花言葉は愛情、情熱、美、だよ。君にピッタリだ」
「やだわ……お兄様ったら」
サリーの微笑みは俺の心にクリティカルヒットしていた。
あれからというものの、俺はダイエットのついでにサリーの部屋へ通っていた。
毎日、俺から他愛のないことを話しかけては終わる、といった感じだったが。
しかし努力の甲斐あってか、今はサリーと共にお茶を飲むことまで出来るようになっていた。
ついでに父上との誤解も解いておいたらとても驚いた顔をしていたので、我ながらいいことをしたと思う。
「じゃあそろそろ剣術の時間だ。また来るよ」
「が、頑張ってください!お兄様!」
ギュンッと胸が打たれる。
妹にそんなことを言われたら頑張るしかないというものだ!
――――それから2ヶ月。俺はついに、剣術をマスターした。悪役令息で、しかもモブ同然だというのに、どうやら俺には剣術の才があったらしいのだ。
もし路頭に迷ったら騎士団に入団するのもありかもしれない。
「参りました……エミリオ様、貴方にナイトの称号を授けます」
「え」
しかし、ちょっとこれは――想定外である。
まぁ貰うに越したことはない。俺は潔く剣士の誓いを受け取り、無事騎士のの一員へと昇進したのだった。
◇◇◇
「そういえばお兄様。最近、城下町で魔獣が出てるらしいですわ」
「魔獣……?」
三時のおやつ。サリーと共にお茶菓子を嗜んでいると、そんな話題が出てきた。
曰く、最近城下町に魔獣が出てきて、大変困っているのだそう。
しかもその魔獣はなにやら黒いモヤを纏い、普段よりも格段に強くなっているのだとか。
「それは……怖いね」
「んもうお兄様!お兄様なら、なにか解決できると思って相談しましたのに」
「ははは……少し調べてみるよ」
妹にここまで頼られるとは……兄冥利に尽きるな。
しかし黒いモヤ……もしかしたら、世界滅亡の原因の一つである、“瘴気”に関係するものかもしれない。
「魔獣、か……。調べる価値はありそうだな」




