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第18話 バーンデッドの夏

照りつける日照りが肌を刺すビーチ。俺はここ数日、家族と共に、避暑のため、遠くの領地へ涼みに来ていた。


折角の海ということで、父上は張り切りながら浮き輪に空気を入れていた。俺たちと、本気で泳ぎ遊ぶ気でいたのだろう。

しかしサリーが肌が焼けるのを嫌がったので、それは断念することとなってしまった。


代わりに今は、帽子とクリームで日焼け対策を万全にし、砂でお城を作っている。


「ルディ、君もどうだい?」


母様の横にピッタリと着いているルディウスの方を見る。ルディは恥ずかしながらも、母様に背を押されこちらへ来てくれた。



―――ルディが来てから早2週間。俺とサリーは、あの日から毎日のようにルディウスの部屋へ押しかけていた。

いつも他愛のないことを一方的に話しては、手作りのお菓子を置いていくだけだが……。


それでも、ルディとは少し距離が縮まった気がしていた。


「ルディ!これ私達よ!」


サリーが自分の“土属性”の魔法を使い、砂の人形を作る。それは確かに俺たち家族にそっくりで、ついふっと笑みを零してしまった。


ルディの方を見ると、口角を僅かに上げている。笑ってくれたのか……?

それを見て、サリーは嬉しそうに更に砂人形を作っていた。



◇◇◇



「子供たち、そろそろお昼の時間よ」


母様の声にハッと我に戻る。俺たちはいつの間にか、砂人形を数え切れないほど作っていて、建築物は城どころか城下町が誕生していた。


ルディはものづくりが好きなようで、実に楽しそうに砂の建物を作ってくれていた。それを見て、サリーも嬉しそうに目を細める。


こんなにも目を輝かせながら手を動かすルディを見るのは初めてだったので、俺はまた庇護欲がドッと湧き上がっていた。


「お兄様、少し風が強くなってきましたわ」

「そうだね。そろそろ行こうか」


母様に「今行きます」と返事をし、ルディとサリーに手を差し伸べる。初めにサリーが手を取り、次にルディが俺の手を取る―――その時だった。



ざぶっ

「うわぁっ―――!」

「―――ルディ!!」


突然の高波がルディの顔を覆う。そして、3mはあろうかというその高波は、何が起こったかを認識するより先に、あっという間にルディを連れ去ってしまった――――。


「え……」


思考が一瞬停止する。

目の前には既にルディの姿は見当たらない。隣には顔を青くしたサリーが立っていた。


心臓の鼓動が鳴り止まない。脳が警告アラームを出し続けている。


「サリー!母様と父上に報告!」


焦りながらも、声を荒らげサリーに指示を出す。

正直、額の汗が止まらなかった。


こんな時、攻略対象たちならどうする?

殿下なら、レオナルドなら……高波が来る前にルディを助けることができただろうか。


あぁ、こんな時にまで彼らのことを考えるなんて、皮肉にも程がある。


「お兄様はどうするのです!?」

「俺は…………」


……だめだエミリオ。こんな時にこそ、今までの積み重ねを発揮するんだ。俺は攻略対象じゃない。そしてこのイベントだって、俺がルディを誘った為にできた世界の“歪み”の一つだ。


確かに助けられるかなんて分からない。でもこれは俺が招いた種。やるしか、ない――――!


「俺はルディを助けに行く。サリーは早く父上のもとへ!」


俺はそう言って、顔を青ざめさせるサリーが走り出したのを見送ったあと、海の中へと飛び込んで行った――――。



◇◇◇



「……げほっ……うぇっ」


「エミリオ!」


目が覚める。ここはどこだろう、そう理解する前に、先程の事が頭をよぎっていった。


あぁそうだ。確か俺はルディを助けようとして、呆気なく溺れた。当たり前だ。泳ぐ練習など、前世も今世もしたことがなかったのだから。


「全く、馬鹿なことをした!」


父上はそう怒鳴ると、泣きながら俺のことを抱きしめた。母様も安堵の表情で俺を見ている。


そこでハッとして辺りを見渡す。ルディは、ルディは無事なのだろうか。俺が足手まといになったせいで、救出が遅れてしまったのでは――――。


しかし、そんな心配は杞憂だったようだった。

泣きじゃくる父上の後ろには――風呂に浸かったのであろう――バスタオルを頭に巻いた、ホカホカなルディの姿があった。


「ルディ!」


思わず口から名前が飛び出る。立ち上がり、ルディを抱きしめると、自然と頬に涙が伝っていた。


「あぁ、よかった。ルディ、怪我は無い?聞こえにくいとかは無い?俺がもっと早く波に気づいていれば……」


そうブツブツという俺に、ルディはぽかんとした表情をしていた。……やはり怒っているのだろうか。


しかし数秒経つと、ルディは首を凄い勢いで左右に振り始めた。


「……ど、どうしたの?」

「エ、エミリオ様は、謝ることなどありません……。むしろ……助けようとしてくれて……迷惑かけて本当にごめんなさい」

「ルディ……」


そう謝るルディの表情は悲しそうで、それでいて何かを思い出しているようだった。

俺は謝らなくていいのに、と思いながらルディを抱き寄せる。

そして、くしゃりと頭を撫でながら言った。


「ルディ、君が謝ることなんか一つもないよ。そういうときは、ごめんなさいじゃなくて、“ありがとう”、って言うんだ」

「……ありがとう、ございます」

「うん、よく言えたね。いい子だ。それに、助けるのは当たり前だよ。だって俺たちは家族だからね!」


にっ、と歯を見せ笑ってみせる。

それにルディも反射して、はにかむような笑って見せた。


その無邪気な笑顔に、心の奥がじんわりと暖かくなる。


「はぁ……相変わらず天使の微笑み……」


後にそう一人で呟いたのは、誰にも内緒である。



こうして、バーンデッド家の夏は幕を閉じていった。


色々あったが、この件でルディとは親交が深まり、やっと家族になれた気がする。

こうなるとあの時来た高波に少し感謝せざるを得ないな、なんておかしなことを考える。



気がつけば、学園入学まであと数ヶ月を切っていた。そろそろ本格的に、制服採寸や教科書の取り寄せなど、学園の入学準備が始まる――――。

無事、インフル完治しました。

今後もちょくちょくと書き進めていこうと思います

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