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第17話 新たな攻略対象

青年期編、開幕です

エミリオ・バーンデッド14歳。辺りは瑞々しい緑に染まり、蒸し蒸しとした暑さが続いていた。


この夏、俺はある目標を立てていた。

学園入学まで、あと一年足らず。それまでにやることはズバリ、残りの攻略対象3人と良い関係を築くことである。


乙女ゲーム「TRUE LOVE」の世界には、全員で6人の攻略対象がいる。


1人目は執着系ヒーロー、レオナルド。

2人目は騎士系脳筋ヒーロー、ロイド。

3人目は頭脳派冷徹ヒーロー、エドワルド。


今のところ、良い関係が築けていると言えるのは、この3人だけである。

では、残りの3人は一体どうすれば出会うことが出来るのか?それはもう決まっていた。


まず、3人のうちの1人は、学園入学まで確実に会えない。というのも彼は、遠くの国から来た伯爵貴族、という設定だからだ。この攻略対象を一言で表すならば、「音楽系ヒーロー」である。


もう1人は、会おうと思えば会える存在だ。この攻略対象は、王太子レオナルドの腹違いの弟――つまり、第二王子なのである。


彼はレオナルドを通じれば会えなくもないが……2人は確か折り合いが悪かったはず。

つまり、会うのにはかなりの困難を極めると言っていいだろう。


さて、最後の1人。彼には確実に“会える”。

なんなら、今日会う予定である――――。



「坊っちゃま、奥方様がお呼びですよ」


アンが扉を叩く。俺は勉強する手を止め、廊下に駆け出した。

廊下は使用人たちで忙しなく行き交っており、“彼”が来たのだ、と一目で分かった。


途中でサリーも呼びに行き、共に玄関前に着く。大広間には、母様と父上が神妙な面持ちで立っていた。


――――そしてその間。正確には、母様の足元に“彼”はいた。茶髪に美しい橙眼を持つ少年。

彼こそが――――


「エミリオ、サラリス。紹介しよう。彼は今日からお前たちの義弟となる、ルディウス・ニャータだ」


TRUE LOVE攻略対象の1人、“ルディウス・バーンデッド”である。



正直、彼と会うのはとても気が引けていた。

何故なら、彼は既に悲しい過去を背負っており、TRUE LOVEではヤンデレ&メンヘラ系ヒーローとして君臨しているからだ。


ヤンデレとなれば、その断罪方法もそれまた惨いわけで。傷心中の彼をいじめ、更に追い詰めたとされる俺たち公爵家は、総じて彼の手先に殺されてしまうのである。


更に、彼は作中で唯一のバッドエンドがあるキャラだ。

そのエンドは、主人公が死ぬルートに入ってから始まる。


彼は主人公を殺した世界を憎み魔王と契約。自らの手で全てを滅ぼすという……なんともヤンデレらしい最期を迎えてしまうのである。


だからこそ、俺は彼を愛する自信がなかった。そのルートのルディウスはとにかく怖い。ゲーム越しですら、その殺気迫る表情は俺たちプレイヤーに恐怖を与えていた。


しかしどうだろう。

実際に会ってみて思ったことは、“可愛い”。ただそれだけだった。


「ほらルディ。お義兄様たちに挨拶をなさい?」

「…………」


モジモジと母様の背中に隠れる姿は、まるでリスや鳥などの小動物のようで、俺は久しぶりに庇護欲が掻き立てられていた。


母様は困ったような顔で、ルディを前に出す。

しかし直ぐに後ろに引っ込んでしまっていた。


「……母様、来たばかりで緊張しているだろうし、少し1人にさせてはいかがでしょう。お部屋に案内しますよ」


困っている両親に助け舟を出す。母様はこくりと頷き、侍女長にルディを引き渡した。



「ごめんなさいね……ルディは、以前のお家で少し暴力を受けていたの……」


不安そうな表情のルディを見送りながら、母様がポツポツと話し出す。

その話に、サリーはかなり衝撃を受けていたようだった。


そう。彼、ルディウス・ニャータは末端貴族のニャータ侯爵家の一人息子だった。


しかし、彼のその珍しい橙の瞳が、ニャータ家の誰にも似ていないということで、彼の母親は不貞を疑われることになる。


そして彼は、心を病んだ実の母親に、日々酷い折檻を受けていたのだ。


実際は遠縁に同じ瞳の貴族がいたので、隔世遺伝だったのだが。そんなこと、知識のないニャータ侯爵は知ることすらしなかった。


そのせいで実の息子のルディウスが、段々心を病んでいくことに気が付かずに……。


「あの子が、少しでもこの家に馴染んでくれれば良いのだけれど……」


母様は悲しそうな表情でそう語っていた。

ルディウスは母様の家系の遠縁の親戚だ。母様的にも、なにか思うことがあったのだろう。


サリーはルディウスの過去を聞き、しゅんと落ち込んでいるようだった。

まだ13歳の彼女には少し刺激が強すぎたらしい。


「……後でルディにお菓子を持っていこうか」


俺はそう言ってサリーの頭を撫でた。サリーはその言葉にパッと目を輝かせ、厨房へと走っていく。

今日は彼女の手作りのお菓子が食べられるかな、なんて期待を寄せる。


ルディウスも、食べてくれるといいのだが……。



◇◇◇



「ルディー、お義姉ちゃんのサラリスだよ」

「ルディ、義兄のエミリオだ。お菓子を持ってきたよ。一緒に食べないかい?」


ルディウスの部屋の扉を叩く。大きな音が苦手なルディウスへの配慮か、部屋は屋敷の端の方にひっそりとあった。


話しかけ少し待つと、扉が開き、中から茶髪の美少年――ルディウスが現れた。


「……」

「ルディ、お菓子を持ってきたの。一緒にお庭で食べない?」

「……」


ルディウスは黙り込み、扉を閉めようとした。それに焦ったサリーが、扉を開こうと急ぐ。

しかしそれが仇となってしまった。


「ま、待ってルディ!」

「ひっ……ご、ごめんなさいごめんなさい」

「あっ、ち、違うの!あっ…………」


ルディウスは謝罪を繰り返し、部屋に閉じこもってしまった。きっと今までもこのような謝罪を要求されたことがあったのだろう。その様子に、サリーは今にも泣きそうな顔で俯いていた。


俺は、サリーを口説く時もこんな感じだったな、と懐かしむ。

しかしルディウスは、それとは背負っている重みが断然違った。


「……サリー、今日は2人で食べよう。大丈夫。ルディは緊張しているだけだから――」


そう言うと、サリーはポロポロと涙を流し始めた。その苦しそうな表情に、胸が締めつけられる。推しの泣く姿はこんなにも辛いのか。


いくら事情があるからと、サリーを泣かすことは許されない……。こうなったら、2人ともとことん愛して仲良し家族になってやる!


俺はそう気合を入れ、お菓子をつまみ食いしたのだった――――。


尚、私がインフルB型に罹ってしまったため、しばらく更新をお休みさせていただきます。

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