第16話 平穏な日常
カチャカチャとカトラリーの鳴る音が響く。
今夜は家族全員で、ドレスコードのある店にディナーに来ていた。
俺のメニューは、ローストビーツと胡桃のサラダ、アスパラガスのグリルにスモークサーモンのタルタルなどと、実にヘルシーな料理になっていた。
きっと前世を思い出す前の俺では、考えられなかっただろう。
最近はロイドと共に訓練場に通い、師範代として訓練生達を日々鍛え上げている。彼には毎日顔を合わせるせいで、勝手に親友だと思われているようだった。まぁ、悪い気はしない。
健全な運動に、ヘルシーな食事を心がけた俺は、ますます健康的な少年へと育っていた。
健康的な食事のおかげで肌はツルツル。家族仲も良く、実に充実した生活を送っていた。
「そういえばエミリオ、またグレイソン家の跡取りから手紙が来ていたぞ」
父上が食べる手を止め、懐から手紙を差し出す。受け取ると、それはエドからの遊びの誘いの手紙だった。
エドワルドは、昨年歴代でも指折りの好成績を出し、無事グレイソン家の跡取りになっていた。
どうやら新しい定理を発見したとか……。流石攻略対象、と言いたいところだが、ゲーム内にそんな描写はない。
つまりこれは、全て彼の努力の結果だ。手紙でその事を聞かされた時は、彼をどうお祝いしようかと幾つものダジャレを考えたものだ。
今回の手紙には、「びーまおの劇場を一緒に見に行かないか」という内容が綴られていた。
最近は週に1度、エドとびーまおやその他の小説の聖地巡りをしている。
そのため、このようによく手紙が送られてくるようになったのだ。
嬉しい限りである。彼とは今後もこの関係を続けていきたい。
――また、レオナルド殿下との関係にも変化があった。
殿下はどうやら公務で忙しいようで、中々俺に会いに来ることはなかった。
そのためお茶会の誘いもなくなり、俺としては万々歳なのだが……幸か不幸か、毎日熱烈な手紙が送られてくるようになったのである。
その内容は必ず最後に「君に会いたい」といった趣旨が書かれており、見る度にゾッとしていた。更には、どこから聞きつけたのかエドとの関係に嫉妬し、「その男と離れろ」なんていう脅迫文が送られたこともあった。
もちろん俺は無視を決め込んでいる。しかし公爵家という立場上、殿下には返事をしなければならないので、「ありがとうございます」という1文の定型文だけを送り返していた。
まぁそんなこんなで、俺は順調に攻略対象と関係を築いていた。
ロイドやエドワルドとは程よい距離感で会えているし、殿下も……まぁ手紙という健全な距離では関わっている。
このままいけば、もし断罪されても減刑くらいはしてくれるだろう。
我ながらよく頑張ったと思う。
そんなことを考えながら、スープを口に運ぶ。すると母様が深刻そうな表情で話し始めた。
「この場で話すのもどうかと思ったのだけれど……。最近、城下町の魔獣の出没が絶えないそうなのよ」
「!」
母様は頬に手を当て、悲しそうに言った。
「そのせいで、親戚の方がお亡くなりになってね。あぁ、世界はどうなってしまうのかしら……」
その言い方に、俺は聞き覚えがあった。
この話――城下町に魔獣が多数出没という話は、ゲームの1番初め、イントロで流れてくるナレーションである。
つまり、この世界はゲームの通りに進行しているのだ。
「やはりか……」
ぼそっと独り言を放つ。幸い、俺たちが学園に入るまで、魔獣関係で目立ったようなことはない。
だから時間の猶予はまだまだあった。
しかしゲームには今、俺のせいで多少の歪みが生じている。つまり、ここからゲームがどのような展開になるのか、全くもって予想できないのである。
「エミリオお兄様?どうしたの?」
考え込む俺を、サリーが不安そうな顔で見つめる。
大丈夫。俺は絶対君を悪役令嬢になんかさせない。
世界。ゲーム。運命――――
抗ってやろうじゃないか。最後まで。
足掻ききってやろうじゃないか!
破滅が来るその時まで!
「さぁさぁ、ケーキが運ばれてきたわ」
「では……」
「「「エミリオ (お兄様)!14歳の誕生日おめでとう!」」」
今日、俺は14歳になった。
学園入学まであと一年。
最後まで、やれることをやってやる――――!!
ここまで読んでくれた方々、本当にありがとうございます!
これにて幼少期編は〆となります。
次話からは軽く青年期編が始まり、その後学園編へと続いて行きます。
ここまで暖かい目で見守っていただき、本当にありがとうございます。
今後も楽しんでいただけたら幸いです。
恐縮ですが、〆の記念ということでポイントを頂けると、私が大変喜びます。




