第15話 初めての
「ふぅ…………」
ひとしきり笑い終わり、エドワルドが深呼吸する。しかしまだ思い出し笑いして、悶えているようだった。
俺はといえば、予想以上に笑ってくれたエドワルドに対し、少しだけ“庇護欲”というものが生まれていた。
もしかしたら、茶会であんな悪態をついたのも、本当は仲間に入りたかっただけなのでは?とさえ思う。
確か、ゲーム内で彼の笑顔が見れるのは、エドワルドルートの隠しイベントだけだ。それも、主人公が“ユーモアステータス”をカンストしていないと見れないという、中々にハードな条件である。
俺はそれを、3日かけてクリアした思い出があった。
確かこのイベントでは、エドワルドが自分が感情をどうしても抑えてしまうことや、感情を素直に出せる、君のようになりたいと弱音を吐くシーンがある。
そこで主人公に、「あなたの笑顔、私は好き」というようなことを言われ、初めて触れた優しさに絆され、惚れてしまうのだ。
正直このイベントは、涙無しでは語れないほど奥が深い。俺がエドワルドを好きになったのも、少なからずこのイベントが関係している。
だから彼の初めての笑顔を見れて、大変満足だ。
「ゴホン、バーンデッド子息。君のそのギャグ……もしや“びーまお”を知っているのか」
エドワルドは咳払いをして、少し照れながらそう言った。
そうだ、この言葉を待っていたのだ。
俺は息を吸って、腰に忍ばせていた“びーまお”の最新刊を取り出した。
「っそれは!」
「びーまお最新刊……サイン付き!」
「なっ!先着10名にしか配られないという、伝説のあの……!?」
ふふふ、食いついてる食いついてる。
この、「びーまお最新刊サイン付き」は、もちろん俺のものではない。びーまおの熱狂的大ファンである、執事長の持ち物だ。
執事長には、友達と見ると教えると快く貸してくれた。という訳で、今回はこれを存分に利用させてもらうことにしよう。
「そう。同類なのだよ、私たちは!」
「……っ!」
エドワルドはタジタジになりながらも、同類=仲間という言葉に目を輝かせていた。
そこで俺は、エドワルドが嬉しくなるであろう提案を更に畳み掛ける。
「エドワルド殿、もしよかったら、同じギャグ好きとして友達になりませんか?一緒にびーまおの舞台とか行ったら楽しそうだし」
「なっ!こ、断るぞ!」
あら、断られてしまった。
しかし、エドワルドが顔を赤面させている様子から見るに、恐らく友達という言葉に対して照れているだけだ。もう少し押せば、彼ならばコロッと行くだろう。
しかしそれだと、俺がグイグイ行く派だと思われてしまう。それは駄目だ。俺は元来インドア&大人しめだと自負している。
だからここは、押してダメなら引いてみろ、だ。
「そうですか、それは残念。ではまたの別の機会に――」
「っ……」
エドワルドが口をはくはくとさせる。本心では友達になりたかったのだろう。しかしここで押したら、頑固な彼はまたしても誘いを断るだろう。
だから、心を鬼にしてもう少し引いてみる。
「ではお茶会会場に戻りましょうか」
「……ちょっと待て!」
来た。エドワルドが、退場しようとする俺の手を掴む。そして顔を上げ、その光る眼鏡の奥で顔を赤面させながら言った。
「と……友達に……なってやっても、いい」
(キターーーー)
嬉しい叫びを押し殺し、心の奥でにんまりと笑う。もちろん俺の返事はOKだ。
俺はすぐさま彼の手を取り、目を見て言った。
「本当か!ありがとう、じゃあ今から俺たちは友達だな!」
「友達……」
「俺のことはエミリオと呼んでくれ」
「え、エミリオ……」
やはり友達という存在に慣れていないのか、エドワルドは若干まごついているようだった。
オウム返しばかりで、まるで地に出たばかりの赤ん坊のようだ。
「イカってイカしてるよね」
「ぶはっ」
もちろん、間にダジャレを挟むのも欠かせない。
エドワルドはまた声を上げて笑ってくれて、俺にはそれが心の底から嬉しかった。
「エドワルド、やっぱり君は笑っている方がいいよ」
「……僕が?」
「あぁ。君の笑ってる顔、最高にイカしてる」
「…………」
エドワルドはまた赤面して黙ってしまっていた。まぁ、褒められ慣れていないのだから仕方ないだろう。
さて、もうそろそろ茶会も終わる頃合いだ。戻らなければ、何処に行っていたのかとどやされてしまう。
俺はエドワルドに庇護欲を感じながらも、彼の手を引きお茶会会場まで戻ることにした。
その間、彼がずっと無言で赤面していたのは言うまでもない。
◇◇◇
「本日は御足労頂き誠に――」
グレイソン宰相の閉会の辞を聴きながら、俺はエドワルドとサリーの3人で異国の珍しいお菓子を食べていた。
サリーは頬を膨らませながら「美味しいですわ!」と次々と口に詰め込んでいる。
それを見ながら、俺とエドワルドは笑みを零していた。
◇◇◇
「そういえば、外にあったグレーのヒヤシンス。あれ魔法だろ?一体誰が作ったんだよ、凄すぎる」
閉会式が終わり、お茶会も解散。俺たちはエドワルドに案内されながら馬車に乗り込んでいた。
馬車の中から、最後に気になっていたことを聞く。するとエドワルドはまたもや赤面しながら答えてくれた。
「あれ……作ったの、僕だ。その……“属性”が緑だから……」
「えぇ!?」
これには俺も驚きを禁じ得なかった。
前世の記憶で、彼が緑属性だということは知っていたが、まさか花の色を変えるなんて高等な魔法が使えたなんて。
ゲーム内にはなかった設定に驚愕しながらも、彼なら出来そうだという納得の思いもあった。
「じゃあ今日はありがとう。また手紙を出すよ」
「楽しかったですわ!」
サリーと一緒に、エドワルドに挨拶をする。
馬車がゆっくりと動き出した時、エドワルドは少し顔を逸らして言った。
「ぼ、僕のことは“エド”と呼んでくれ……友達、なんだろう?」
「!」
やっぱり可愛いヤツめ。
俺は首を上下に振り、「もちろんさ!」と笑いかけた。それにエドも、嬉しそうに手を振る。
「エド!あんなクズたちに負けるなよ!君は強い!」
「ふっ……クズって、兄上達のことか?心配いらないさ。次会う時には、僕が跡取りになってる」
おぉ、流石は頭脳派攻略対象。冷淡で、それでいて熱く強い。その言葉には、本来のエドワルドという人物が垣間見れた気がした。
きっと彼ならこの言葉通り、やり遂げることだろう。これで彼の性格が曲がることは、今後ないと、少なくとも今はそう思う。
――――こうして、波乱のグレイソン家お茶会は幕を閉じたのだった。
幼少期編、次話で区切りです。




