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第12話 面倒くさいお方

「いやぁ、良かったよ。てっきり体調でも悪くしたのかと。それがただ、“忘れていただけ”だったなんてね」


殿下の放つ言葉が、俺の心にグサグサと刺さる。俺は内心血反吐を吐きながら、なんとか公爵家長男としての挨拶を終わらせることができた。



レオナルド殿下は案の定、大変不機嫌になっていた。顔には爽やかな笑顔が張り付けられていたが、足がとんとんと小刻みに揺れている。


まずい。これは、レオナルドがガチギレしている時の仕草なのだ。ゲーム内ではこれを、サリーと出会う時に必ずやっていた。


TRUE LOVEガチ勢にしか分からない、“小ネタ”である。


そうなったレオナルドはとにかく怖い。画面越しですら背筋が凍るのに、生で見ると更に恐ろしい。その貼り付けられた笑顔の下で、一体何を考えているのか。考えるだけで寒気がしてきた。


「あの……レオナルド殿下、挨拶遅れて……本当に申し訳ございませんでした」


とりあえず謝らねばと、深々と頭を下げる。しかし殿下はまだ怒っているようで、足踏みが鳴り止んでいなかった。


「エミー」


圧の籠った、冷たい声色で名前を呼ばれる。怒られるのを覚悟して、恐る恐る頭を上げる。

しかし、殿下はにこりと笑い、胸ポケットから何かを取り出した。


そしてそれを俺の前にずいと出し、顎でくいと指した。見ろ、という合図である。


「……紙、ですか?」


それは、謎の紙の束だった。ご丁寧に紐で括ってあり、様々な色の紙が挟まっている。

殿下はまた口に弧を描き、俺にそれを押し付けた。なんだろうか、魔獣関係の何かか?


少しソワソワしながらそれを受け取る。

しかし期待とは裏腹に、殿下は実に楽しそうな表情で言った。


「これはね、今後開かれるお茶会の招待状だよ」

「は」

「僕は王太子だから、こうやって沢山の誘いが来るんだ」

「え、はい」

「だからね――――エミー、君も一緒にこれに出席して欲しいんだ」


(はぁ゛ぁ゛ぁぁ!?)

心の中で吐血しながら叫ぶ。殿下は稀に見る嬉しそうな表情で、そわそわと俺の返事を待っていた。


お茶会の招待状?冗談じゃぁない。俺はそんな暇では無いのだ。コネ作りや人脈作りは、こういう大きなお茶会の場でやりたい。

それになによりも、公爵家として人前でニコニコしながら挨拶とか、凄く“面倒くさい”。


「で、殿下……それは一体どういう……?」


眉をぴくつかせながら聞く。殿下はまるで、面白い玩具を見るような目で俺のことを見ていた。


「言葉の通りだよ。そこにある32通のお茶会に、一緒に来て欲しいんだ」


「な、何故、私なのでしょうか」


なんとか笑顔を張り付けながら答える。

殿下はニコッと笑って「分からないかな?」と俺のおでこをピンと弾いた。


「痛っ」

「これで今日のは許してあげる。でももう1つは――これからのお茶会で精算してね」

「……?……!?」


突然のでこぴんに理解が追いつかない。

今日のは許す?でももう1つはお茶会で精算?

……これが罰だと言うのなら、原因のもう1つの方はなんなんだ?


もう1つというのが思い当たらず、思わず首を傾げる。するとそれに気づいた殿下が、頬に手を当てながら悲しそうな顔で、ご丁寧に説明を始めた。


「エミー、僕は君に2回も約束を破られているんだよ?僕、君に何か嫌なことをしてしまったのかな?」


「約束――――あぁ!」


そうか、それか!図書館の約束か!

思わず口から納得の声が溢れる。殿下はそれを見て一瞬笑顔になったが、直ぐにまた悲しそうな顔に戻ってしまった。


「僕はその日、何時間待ったと思う?」

「……」

「6時間!半日だよ」



……。


――――申し訳ないが、さすがに怖すぎる。

いや、6時間?何となく予想はしていたが、6時間?……つまり、約束の時間よりも随分早く待っていたという事か?


全身の鳥肌が止まらない。今までの行動で少し薄れていたが、流石はネチネルドだ。執着力が凄い。


そして今ので1つ、分かったことがある。

どうやら俺は、彼の“1度手に入れたもの”――言わばお気に入りの玩具に認定されていたらしい。


どうりで、ただの公爵令息にここまで突っかかるわけである。


「はぁぁーー……」


大きなため息を一つ漏らす。

もう観念するしかない。この方に目を付けられたらどうなるかなんて、俺が1番分かっていることじゃないか。


「……その節は、申し訳ありません」

「うん、それで?」

「っく……お茶会、ご同行させていただきます」

「うん、よろしい」


図書館で出会ってしまったのが運の尽きだ。仕方ない、こうなれば最後まで付き合ってやろうではないか。


にこやかに笑う殿下の横で、俺はひっそりと涙を流していた。




そんなこんなで気がつけば、お茶会も閉会式の直前となっていた。殿下はとっとと俺と別れ、閉会の辞を述べている。


隅の席で、俺は1人俯き項垂れていた。

今後、お茶会によって失われる時間のリスクはとても大きいだろう。


育ち盛りの8歳。やらねばならないことはまだまだある。そろそろ魔王が頭角を現す時期だし、剣術を更に鍛えることも必須だろう。


それに、今回やっと出会うことのできたエドワルドにも話しかけられないまま終わってしまった。

小説好きだと分かったのだから、早く仲良くなって断罪リスクを減らしたいところなのに。


「はぁ……」


その大切な時間がお茶会によって奪われるのは、何とも納得し難いことだ。とりあえず、やれることだけを全力でやろう……。


俺はため息をつきながら、愛する妹と共に帰路へつくこととなったのだった――――。


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