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第11話 解釈違いです

「……エミリオ様、気にすることないですよ。あいつ、いつもあんな感じなんです」


マーティス子息がキッと睨みつける。周りの様子を見るに、どうやらエドワルドは子息達にあまりよく思われていないようだった。


令嬢達もひそひそと影で何かを話している。その節々に、“妾腹”という言葉が聞こえてきた。



――――彼、エドワルド・グレイソンは、聡明と名高い宰相家の三男坊である。

彼は噂の通り愛人との間の子供で、周りから冷やかな目で見られながら幼少期を過ごしてきた。


そのせいで、このように少し捻くれた性格になってしまったのだが……。そこはゲーム内の設定なので仕方がない。


彼は努力の天才だ。妾腹の子と疎まれ、孤立しても尚彼は諦めなかった。必死に勉強し、王立魔法学園へ特待生で入学。学園での成績は常にトップを誇っていた。


そして最終的に、彼はグレイソン家の跡を継ぎ、有望な宰相として名を轟かせることになる。


家族に蔑ろにされ続けても尚、諦めず努力し自身の地位を獲得する――前世の俺は、そんなエドワルドが大好きだった。


だからこそ、このように疎まれているエドワルドを見て、どこか胸が締め付けられるような思いがしたのだ。


「さ、エミリオ様、話の続きを聞かせてください!」


マーティス子息はすぐにこちらを向き、また目を輝かせながら話を待ち始めた。

それに感化され、周りの子息達も俺の方を向く。先程の嫌な空気は一瞬にして終わることとなった。


俺としては良かったのだが、エドワルドがなぜ先程あんな幼稚な茶々を入れてきたのか疑問に思う。


ゲームの彼は、あんな風に人を見下すような事はしないのに――――。



◇◇◇



「――そこでね、主人公が颯爽と現れるんだよ」

「うぉぉ!熱い展開ですね!」

「そうだね。でもここからは自分で読んでみることを勧めるよ」

「ぐ……お父様に頼もう……!」


俺は子息達に、最近流行りの冒険小説のあらすじを聞かせていた。空賊が世界中を旅する物語で、まさに男のロマンが詰まっている作品だ。


どうやら、貴族の子息達は小説を読むということがあまりないそうで、彼らは始終興味津々に話を聞いてくれていた。


そのうちの何人かは、絶対に小説を読もうと意気込んでいる様子だった。これを機に、素晴らしい小説たちが広まってくれれば万々歳だ。


「はい、おしまい。俺はサリーに構わなきゃ」


“意外と”楽しい時間はあっという間に過ぎ、お茶会はいつの間にか終盤となっていた。

俺は話を切り上げ、むくれるサリーの方へ足を運ぶ。その途中、ちらりとエドワルドの方を見た。


――――彼は相変わらず難しそうな本を読んでいた。IQが高い彼には、このようなお茶会は合わなかったのだろうか。


しかし勉強に励む者として、なんの本を読んでいるのか気になる――――。

俺はサリーの元へ行く前に、少しエドワルドの後ろを通ることにした。


そーっと、バレない程度に背後から近づく。案の定、彼は気配にすら気づくことはなかった。運動音痴な彼なら仕方ないだろう。


そしてなんとか、読んでいる本の内容を盗み見ることができた。


「――っ!?」


(なんっだあれ……!)

必死に声を押し殺す。バレる前にすぐにその場を離れ、俺は部屋の隅でやっと息を吸った。


――――見間違いだろうか。その可能性を踏まえて、もう一度彼の方を見る。


しかし眉間に皺を寄せる彼を見て、それは確信に変わった。あぁ、見間違いではない。

エドワルドは感情を堪える時、幼い頃からの影響でそれを押し殺す癖があるのだ。そしてその時、彼は必ずと言っていいほど眉間に皺を寄せる。


そして先程、俺が何を見たかというと――。



最初に言うと、彼は貴族に珍しく小説を読んでいた。それもシリーズ物の人気作だ。

ここまではいい。聡明で視野の広い彼らしいと言えるだろう。


しかし、だ。問題なのはその内容なのだ。



――――彼が読んでいたのは、“重度のギャグ小説”だった。


それも、アマチュアにしか分からないようなギャグばかりで、笑える人が居ないとまで言われる、(別の意味で)有名な小説である。


そんな小説を読み、眉間に皺を寄せているということは即ち、彼は笑っているのだろう。

必死に笑いを堪えているから、あの顔なのだ。


しかもあのキラキラとした深緑の表紙――あれは最新刊の表紙だ。


俺は匠の話術を身につけるため、公爵家にある大体の小説は網羅している。そしてその中には、誰が好きなのか……何故かあの小説「びーよんの笑劇場〜魔王たちの珍道中ショートショート〜」が置いてあったのだ。


「びーまお」の最新刊は、それまでの巻を読んでいなければ内容すら読めない鬼畜小説!この俺でさえ、その内容を完全に理解することは出来なかった……。ちなみにカールソンは腹を抱えて笑っていた。


それを読んで、しかもあれ程笑いを抑えているということは――エドワルドは、かなりの漫才ヲタクだと推測できるのである――。


(嘘だろぉぉぉぉ……?)


俺の中の、完璧なエド様像が今、大きな音を立てて崩れ始めていた。

あの聡明で冷徹なエドワルドが――漫才ヲタク。前世の俺なら腹を抱えて笑っていたことだろう。


しかし今はそんな悠長な事を言ってられない。

もちろん、彼のルートにも俺の破滅エンドは存在する。しかもそれは、冷徹な彼らしい“実に合理的な”断罪方法なのである。


(い、いやだ……首ちょ○ぱだけは絶対に避けなければ――)


彼が漫才好き&小説好きだと分かれば、後は交流をする他ない。

少しでもコネを作って仲良くなっておこう。そうすれば断罪時、国外追放くらいには減刑してくれないだろうか。


そうと決まれば、このお茶会が終わるまでに話しかけるぞ――――!


片腕をあげ、そう意気込んでいる時のことだった。



「エミー?何してるんだい。こんなところで」


ぞくり、と背中に冷や汗が走る。妙に圧の籠ったその爽やかな声色は、とても聞き覚えがあった。


「レ、レオナルド殿下……」

「エミー、随分余裕そうだね。せっかく心配していたのに」

「え?」


余裕そう?心配していた?何を言っているんだ。俺は絶賛、最悪の解釈違いで精神をごりごりと削られているんだぞ。


しかしもちろん、そんなこと殿下には分からない。

殿下はあの貼り付けられた笑顔で、一気にこちらへと詰め寄ってきた。そして、恐ろしく美しい声で言い放った。


「僕、まだ君に挨拶してもらっていないのだけれど?」


(あ、やばい)

ひゅっと息を呑む。

俺はコネ作りに夢中になり、すっかり父上の代わりを務めるのを忘れていた。

……公爵家の嫡男が、殿下と国王陛下への挨拶を忘れたのだ。


これはやばい。どのくらいやばいかと言うと、たけのこの里が販売中止になった世界くらいやばい。おっと、余りの衝撃で「びーまお」の世界観が出てしまった。


「ひ……」

「……エミー、“分かっているね?”」

「ひ、は、ひぃ」


凍るような視線に送られ、俺はそんな情けない声を出しながら殿下に手を引かれていったのだった――――。



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