第10話 人脈オールスターズ
「お兄様!こっちこっち!」
12月。辺りが白銀に染まりきった中、俺たちバーンデッド公爵家は馬車に乗り、王都へと来ていた。
サリーが楽しそうに声を弾ませる。母様たちは、久しぶりの逢瀬はどこに行こうか、なんてことを話していた。
とても――かなり気が重いのだが、俺はこれから王宮にて、レオナルド殿下主催のお茶会に参加しなければならない。
しかもそのお茶会というのが、“子供のみ”という条件付きで、俺は父上に代わりサリーのエスコートをすることになっているのだ。
父上の代わり、ということはとどのつまり、殿下や国王陛下への挨拶も俺がするということ。
この日のために、俺は執事長の地獄のしごきに耐えてきた。
今の俺は、正に完璧。貴族の所作のみならず、騎士精神も宿している。
今なら何があっても怖くない――――!
かかって来いよ貴族ども――!!
俺はそんな風に、密かに心を燃やしていたのだった。
◇◇◇
「ではエミー、サリーをよろしく頼みますよ」
「エミリオ、俺の代役をしっかり務めるんだぞ」
母様と父上はそう言うと馬車を降りていった。手を繋ぎ、仲睦まじく歩く二人の背を見送る。久しぶりの夫婦水入らずの時間だ。是非楽しんで頂きたい。
――さて。
「お手をどうぞ、お嬢様」
俺は紳士らしく、サリーの手を受け取った。サリーはエスコートされるのに慣れていないのか、顔を真っ赤にしている。可愛いものだ。
「バーンデッド公爵家長男、エミリオ・バーンデッドです」
門番にそう言って、バーンデッド公爵家の紋章入りのボタンを見せる。
ちなみにだが、我が家の紋章は猛々しく燃え盛る青薔薇である。さすが悪役令嬢の実家だ。紋章まで悪役っぽい。だが俺は、そんな紋章を密かに気に入っている。
門番はボタンの紋章を確認すると、警戒を解き中へと入れてくれた。
サリーの手を引きながら庭園の中を通る。庭は綺麗に手入れされていて、美しい花々が咲き誇っていた。
「あれはピオニー。仄かに赤く綺麗だろう?」
「えぇ、綺麗ですわ」
道すがら軽く花の解説をしながら、お茶会の会場まで向かう。
サリーはいつも楽しそうに俺の話を聞いてくれる。どうやら仲良し大作戦は順調なようだ。というかそれよりも、我が妹が可愛すぎて困る。
俺は無意識にニマニマしながら廊下を進んでいった。そして数分後、無事何事もなく会場へと着くことが出来た。
扉をギイッと開き、中へ入る。室内は煌びやかな飾り付けが施されており、既に何人かの令嬢・令息達が席に着いていた。
「お隣失礼」
隣の侯爵令息に挨拶をし、なるべく端の席に目処をつける。椅子を引きサリーを座らせたあと、俺は席に着いた。
今回俺が易々と、このお茶会に来たのには理由があった。それはもちろん、殿下による圧で強制的に行くことになったのもあるが、なによりも、圧倒的な“コネ作り”のためである。
そう、殿下主催のお茶会なんて、上流貴族の集まりと決まっている。現に隣も前も、侯爵家や伯爵家の子息ばかりで……。とにかくこのお茶会は、人脈のオールスターが勢揃いなのである。
俺はチャンスをみすみす逃したりはしない。サリーにある程度の菓子を見繕ってやると、俺は殿下が来るまで他貴族にとにかく話しかけた。
「ご機嫌ようマーティス侯爵子息。昨年のお茶会以来ですね」
「……?」
「私です。エミリオ・バーンデッドです」
「……!?……え!?」
隣に座るマーティス侯爵子息に話しかけると、彼は驚きのあまりに目を見開いていた。その俺の自己紹介に、マーティス子息だけでなく、周りの貴族子息達が全員驚愕する。
令嬢たちに至っては、ひそひそと何かを話しているようだった。
「昨年は大変横暴な態度を取ってしまい……本当に申し訳ありませんでした。お詫びと言ってはなんですが――――」
「……え?……えぇ!?」
人が謝罪しているというのに、なぜ皆そんな変な態度を取るのだろう。
しかし無理もない、と一人で納得する。俺が“今の姿”で貴族社会に出たのは初めてなのだ。なんせ沢山のお茶会の誘いを、少しでも勉学に時間を費やすため、全て断っていたものだから……。
「あぁ、この姿ですか。いやぁ、あるきっかけで少し人生観が変わりましてね。今までの数々の非礼を、どうか詫びさせて頂けませんか」
当たり障りなく、あくまで人生観が変わり自分は変わったのだ、と周りに説明する。ここで前世がどうのと言い出したら、確実におかしくなったと思われるからだ。
マーティス子息達はしばらく空を見つめているような顔でフリーズしていた。しかし、俺の「人生観変わった発言」を聞き、なんとか我に返ったようだった。
「是非、これからもよろしくお願いしますね」
「……あ、あぁ。こちらこそ」
殿下が来るまであと少しもしないだろう。
俺はキリのいいところで話を切り上げ、むくれているサリーを構うことに専念した。
食べ終わっている皿に新たなお茶菓子を見繕う。さすがは王太子、どの菓子も1級品ばかりだ。
そうして俺達は楽しく談笑しながら、時が来るのを待っていた。
そして――――
「上流貴族の皆さん。今日はよく集まってくれましたね。嬉しい限りです」
頭上から、甘い爽やかな声が聞こえてくる。
見ると赤いカーペットの階段から、いつもより一層美しく着飾られたレオナルド殿下が降りてきていた。
(ぐはっ)
声を押し殺す。さすが攻略対象、顔が良すぎる。
殿下の後ろにはロイドが控えていて、彼もまた、攻略対象の顔面の輝きを誇っていた。
そこからは長々と、主催者である殿下の挨拶や開会式が行われた。その間も殿下は天下一の輝きを放っており、その光に俺含め貴族子息達は圧倒されていた。
現に令嬢の何人かが卒倒し、医務室へ運ばれていくのが見えた。……攻略対象、恐ろしや。
◇◇◇
殿下の言葉が一段落すると、子息達は紅茶を楽しみながら優雅に歓談を始めた。
俺はとにかくコネ作りに必死で、前世と今世で培った匠の話術を披露する。おかげで周りの子息たちは、あっという間に話の虜になっていた。
その間サリーはむくれていたが、すぐに令嬢たちの輪に入り楽しそうに話しているのが見えた。
これなら当分、悪役令嬢にはならなそうだ。我ながら大成功である。
「エミリオ様、もっとお話聞かせてください!」
マーティス子息は、俺の刺激的な話をお気に召したようだった。先程の気まずい空気など無かったかのように質問をしてくれている。
俺はにこやかな笑顔を張り付けながら、その期待に答えていた。
「うん、もちろんだよ。そうだな、次は最近話題の冒険小説の話を――――」
しかし、その平和な時間はすぐに乱れることとなった。
「ふん。実にくだらないな」
「――!」
どこからか、そんな言葉が飛んでくる。子息たちは全員その声の方向を見て、同時に口元を歪ませた。
「うわ……あいつグレイソン家の……」
「また嫌味吐いてんのか……“妾腹の癖に”」
子息たちが口々に文句を垂れる。
――皆が見る方向を見ると、そこには賢そうな、儚げな美少年が座っていた。
何やら難しそうな本を読み、眼鏡をくいっとしている。そこで俺は気がついた。
グレイソン家……そして妾腹という言葉――間違いない。
彼はエドワルド・グレイソン。TRUE LOVEの秀才キャラ――攻略対象の一人である。
なんと!10話まで書くことができました!
こんなに楽しく執筆できているのは初めてです。ここまで読んでくれた読者の方々……本当にありがとうございます。感謝してもしきれません!
今後とも楽しんで頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします( * . .)"




