第1話 最悪の運命
俺、エミリオ・バーンデッドが前世を思い出したのは、齢7つになるときの事だった。
大嫌いな乗馬で失敗し、足を滑らせ転落。
病室で起きた時には、既に前世の記憶が戻った後だった。
そうして俺は、この世界の真実と未来を知ってしまった。
まず初めに、ここは乙女ゲーム「TRUE LOVE」の世界である。所謂ヲタク男子であった俺が、前世で散々プレイしたゲームだ。
平民ながらも、聖女“光の乙女”に選ばれた美少女が学園に入学し、イケメン攻略対象たちと共に、恋をしながら世界を救う……といった、なんともありがちなシナリオである。
ここまではいい。ここまでは。
問題は、俺が悪役令息 (モブ)だという点だ。
それも物語一の悪役令嬢――サラリス・バーンデッドの、兄なのである。
さて、ここでシナリオを回想しよう。
光の乙女の少女が王立魔法学園に入学し、攻略対象達と共に世界を救う。少女は後に聖女となり、世界は平和に――――。
ここまでが大まかな話筋である。
しかし、一筋縄では行かないのが、この乙女ゲームの世界だ。
光の乙女は学園に入学し、学校生活を謳歌する時期がある。そして正にその時、少女は我が妹・サラリス公爵令嬢に虐められる、という描写があるのだ。
しかもその悪事は卒業パーティーの際に暴かれ、公衆の面前で婚約破棄&国外追放を言い渡される。
妹は婚約破棄され、路頭に迷うことになってしまうのだ――――!
そうなれば兄である俺もタダではすまないだろう。たしか、バーンデッド公爵家は肩身が狭くなり、辺境で暮らすことになっていたはずだ。
――――正直、それでもいい。貴族社会から逃れて辺境でまったり暮らすのも、悪くはないのだ。
しかし、このルートでは確実に俺は処刑されることになる。
なぜなら、我が妹はまたしても反乱を起こすからだ。それも、封印されし魔王と契約までし、世界を滅ぼすという――――恐ろしい未来が待っている。
そうなれば一族もろとも断罪&処刑まったなしだ。
「そんなのダメだ!」
「ヒッ……ぼっちゃま?」
ベッドから飛び起き、無意識に叫ぶ。震える侍女の様子から、俺の今までの横暴さが伺えた。やはり悪役令息ということがあり、幼い頃から“そういう”気質があったのだろう。
「あぁ……すまない。驚かせてしまったね。大丈夫かい?アン」
「ぼぼぼぼっちゃま――!?」
「なんだいそんなに慌てて」
いや、分かっている。つい先程までわがまま王子だった子供が、いきなりこんな紳士的になったら驚くだろう。
しかし、今はとにかく処刑ルートの種を潰さなくてはならない。
幸い、俺はまだ7歳。学園入学まで、十分な猶予がある。
「ごほん……サリーはどこかな?」
「サ、サラリス様なら、お部屋に籠られています……」
「そうか、ありがとう」
「あああありがとうですって――!?」
アンはあまりの衝撃で倒れてしまったようだ。
悪いことをしてしまったが、今は時間が惜しい。この隙に、サリーの部屋まで行くとしよう。
◇◇◇
サリー……もといサラリス公爵令嬢は、悲劇の悪役令嬢である。
そのいじめ行為の裏には、家族に愛されなかったという悲しい過去があるのだ。
サラリスは父上に、私がいいと言う男でないと婚約はさせない、と言った。
これは、父親として「可愛い娘たんはお嫁に行かせたくないっ!私が認める男じゃないとだめっ!」という真意が隠されているのだが……サラリスはこれを、自分は政略結婚の道具なのだ、と受け取ったのだ。
まぁまぁ酷い勘違いである。
反対に、俺・エミリオは親の寵愛を受けるサラリスを気に入らず、自分から話しかけるなどのスキンシップを一切してこなかった。彼女を愛するなんてこと、昔の俺ならもってのほかだった。
「はぁ……ほんと、俺どうにかしてたなぁ」
はぁ、と一つため息を吐く。
実は、俺の前世の“推し”は、サラリス公爵令嬢であった。あの気高く美しい彼女に一目惚れしてしまったのだ。
「あんなに可愛い妹を蔑ろにするなんて……」
推しを蔑ろにするなんて、前代未聞、最低最悪である。
そんな訳で、俺は絶賛ぶつくさ言いながら、サラリスの部屋の前に辿り着いていた。
扉を2回ノックし、返事を待つ。
「……だれ?」
おぉ、可愛らしい声が聞こえてきた。
「サリー、俺だよ。エミリオだ」
「エ、エミリオお兄様!?」
サリーは驚いたような声を出した。今まで話したこともなかったような兄が、突然部屋に訪問してきたのだから、このような反応も仕方ないだろう。
俺は続けて、今までの非礼を詫びた。
「サリー。馬から転落して、僕は気がついたんだ。一番大切なのは、元気で明るい家族だって。もちろん、そこには君も含まれているんだ」
「……」
返事はない。しかし続ける。
「だからね、今まで蔑ろにしてしまって……本当にごめん!もう絶対しないと誓うよ。だからね、少しお外に出て、散歩しないか?薔薇の花が綺麗に咲いているんだ」
「……」
やはり、反応は無かった。仕方ない、と思いつつも、やはり推しに無視されるのは辛い。
それから1時間くらい扉に向かって話しかけたが、サリーが部屋から出てくることは無かった――――。
◇◇◇
「ぼっちゃま、こんなところに!頭のお怪我は大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だよ。心配ありがとう」
侍女達がパタパタとこちらへ来る。
にこっと笑顔を貼り付けると、心做しか侍女たちの笑顔が引き攣ったような気がした。
心外だ。
「ふー…ぼっちゃま、もう少しでディナーのお時間です。早くお部屋に戻られてはいかがですか」
怒り心頭、といった表情の侍女長に怯えながら、自室へと戻る。
そしてゆったりとしたソファに腰をかけ、ボーッと空を眺めていた。
「乙女ゲームの悪役令息に転生しました……ってか」
ははっ、と乾いた笑みが零れる。
この先、俺はどうなっていくのだろう。やはりゲーム通りの展開になり、処刑ENDなのだろうか。
「……いや。まだ時間はある。それまでに、やれることをやろう」
やらなければいけないことは、沢山ある。
体力作りに護身術……世界を蝕む原因の瘴気なんかも研究してみようか。
でもまずは、愛しのサリーをたっぷり愛し、悪役令嬢なんかにならないようにしよう。
そのためにまずは、家族の親睦を深めるところからだ!
「ぼっちゃまー!ディナーのお時間です。当主様方がお待ちですよ」
「今行くよ」
アンにそう言葉を返し、俺はソファから降りた――――。




