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7. 死神の覚醒:蹂躙された禁忌

「守れなかった過去の亡霊が現在を襲う時、人間は初めて死神となる。」


皆様, こんにちは! ついにハルトの堪忍袋の緒が切れました。


大切な存在であるエリシアに手を出しただけでなく、ハルトの最も深い傷である『ユユ』を侮辱したセドリックと腐敗した貴族たち。


彼らに残されたのは凄惨な破滅のみです。圧倒的な力の差を見せつける今回、どうぞお楽しみください!

王宮地下牢の静寂を破ったのは、悲鳴でも破壊音でもなかった。それはまるで空気が切り裂かれるような、微かな振動だった。


僕は壁に預けていた体を起こした。【心眼】を通じて伝わっていたエリシアの魔力反応が、瞬時に遮断されたのだ。


何か巨大で陰湿な力が彼女を飲み込んだ。胸の奥底から、ユユを失った時と同じ、ひどい不安感とめまいが突き上げてきた。


この異世界で、唯一僕に優しくしてくれた彼女。エリシアの気配が城内から消えた。


「演劇は……ここまでだ」


僕は手首を拘束していた魔力抑制の手錠を見下ろした。


並の騎士なら魔力を封じられ無力化しただろうが、僕は体内の魔力を、細胞の一つひとつが悲鳴を上げるほど極限まで圧縮し始めた。


あまりにも高密度に凝縮された魔力は、手錠の吸収回路ですら許容できず、オーバーロードを引き起こす。


――ガガギギッ、ドォォォン!


単純な破壊ではない。凝縮された力が爆発し、鋼鉄の手錠は塵となって霧散した。


僕はその反動を利用し、指先を鉄門に突き立てた。


魔力で強化された筋力が非現実的な力を発揮し、分厚いかんぬきを紙屑のように握りつぶした。


通路へ躍り出た僕を阻んだのは、看守たちではなかった。騒ぎを聞きつけて駆けつけた国王の側近貴族と、その私兵たちだった。


「こ、この男! よくも脱獄したな! やはり貴様が犯人だったか!」


「宝はどこへ隠した? 吐け! あれさえ見つかれば、我が家門は国王陛下から絶大な信頼を勝ち取れるのだ!」


王女が行方不明という危急の事態にあっても、彼らの目にあるのは功績と強欲だけだった。貴族たちは互いを押し退けながら叫んだ。


「どけ、侯爵! この功績は我が家門のものだ! 異邦人の分際で……しもべとして直接連行してやる!」


「王女殿下の安否はどうでもいいのか? 今、セドリックが彼女を……!」


僕の低い声は、彼らの怒声にかき消された。貴族の一人が剣を抜き放ち、僕の前を塞いだ。


「黙れ! どこの馬の骨とも知れぬ傭兵風ぜが口を利くな。大人しく縛り上げられねば、ここで即刻処分して――」


「その汚い口、二度と利けないようにしてやろうか」


僕の声が廊下に響いた瞬間、温度が急激に氷点下まで下がったかのような錯覚が起きた。


瞳は理性を失った獣のように冷たい眼光を放ち、背後に揺らめく殺気は形を成して、巨大な死神の影を創り出した。


「な、なんだ……この気配は……!」


怯えた貴族が後ずさりしたが、僕はすでに彼らの間合いの内側に踏み込んでいた。


――ドスッ! バキッ!


剣を抜くまでもなかった。魔力を凝縮した拳と蹴りが、貴族と私兵たちをなぎ倒した。


慈悲などない。彼らの骨が砕け、悲鳴が上がったが、僕は止まらなかった。


先ほどまで権威を振りかざしていた者たちが、床に這いつくばり、嘔吐しながら恐怖に震えていた。


「これ以上邪魔をするなら、次は首だ」


廊下の先には、すでに騎士団長ガリオンが数十人の騎士と共に控えていた。


彼の眉間には深い皺が刻まれ、その周囲には華美な絹服を纏った貴族たちが犬の群れのように群がり、騒ぎ立てていた。


「ガリオン団長! 我が家の魔導兵団が到着するまでは、絶対に出発してはならんと申したはずだ! これは我が侯爵家の手柄なのだぞ!」


「左様だ! セドリック公爵を生け捕りにするのは我ら騎士団の誉れであるべきだ。宝物『アステリアの涙』を取り戻した者が、次期宰相の座に一歩近づくのではないか?」


ガリオンが胸を叩いて一喝した。


「この愚か者どもめ、正気か! 私が把握した公爵の潜伏先は計三箇所だ! 今すぐ戦力を分けてエリシア殿下を救出に向かわねばならんのだ! 時間がない!」


「ふん、三箇所のうちどこが本命かも分からぬのに兵力を浪費しろと? もし我が兵が空振りに終われば、その損失は誰が補償するのだ?」


「そうだ! 作戦を練り直し、一度で確実に仕留めるべきだ。まずは、誰が指揮権を持つか決めようではないか」


王女の安否よりも家門の利益と報酬を優先する者たち。その醜い声が廊下に充満していた。


「こ、この卑怯者どもが……っ!」


ガリオンが剣の柄を握り、悔しさに身を震わせた時だった。


廊下の奥から、重く冷ややかな足音が響き渡った。貴族と騎士たちの視線が一斉にそちらへ向く。


「あ、あの男は……!」


手錠を粉砕し、牢の鉄門を引き剥がしたハルトが、堂々と歩んできていた。


逃亡者の姿ではない。それはまるで戦場を支配する君主のような威圧感を放ち、貴族たちの前に立った。


「セドリックの居場所は?」


ハルトの短い問いに、貴族の一人が鼻で笑って進み出た。


「はっ! 脱獄囚がどの面下げてここへ来た。貴様がセドリックと共謀していないという保証もないのに情報をよこせだと? 狂うのも大概にしろ」


「異邦人の分際で王女殿下を救って一旗揚げようという魂胆だろうが、夢を見るな。貴様のような下賤な剣客は、この国の安寧より自分の命を心配するんだな」


ハルトは彼らの暴言を無視し、ガリオン団長が広げていた地図を一瞬のうちに【心眼】で走査した。


三箇所の潜伏先のうち、ただ一点。


そこからセドリックの陰湿な魔力反応と、エリシアの微かな鼓動が感じ取れた。


(――西の、廃教会の跡地か)


位置を特定するや否や、ハルトが身を翻そうとした。


その時、最も傲慢そうに見えた公爵家の次男がハルトの前を塞ぎ、卑屈に笑った。


「おい、異邦人。そんなに王女様が心配か? ああ、侍女から聞いたぞ。


死んだ貴様の昔の女だかに顔がそっくりなんだってな。


その死体の代わりに王女殿下の体でも抱きたいんだろうが、貴様のような獣に相応しいのは、冷たい牢の床だけだ」


――その瞬間、廊下の空気が止まった。


ガリオン団長の顔色が変わった。彼はハルトの目から理性が蒸発し、その後に深くて暗い深淵が入り込むのを見た。


「……今、なんて言った?」


低く響くハルトの声に貴族はたじろいだが、周囲の私兵を盾に虚勢を張った。


「あ? 何か間違ってるか? 死んだ女が忘れられなくて、王女様に媚びを売る――」


――グシャッ!!


言葉が終わるよりも早かった。ハルトの手が貴族の顔面をそのまま鷲掴みにした。


悲鳴を上げる暇もなく、ハルトは彼を床へと叩きつけた。


「ガリオン団長」


ハルトは床で痙攣する貴族を踏みつけ、地図から目を離さぬままガリオンに告げた。


ガリオンはその圧倒的な殺気に気圧され、唾を飲み込んだ。


「廃墟へ行く。あのゴミ共は、団長が片付けておいてくれ」 「ハ、ハルト! 一人では危険だ! セドリックはすでに人間ではないかもしれん!」


ハルトは答えずに背を向けた。彼が一歩踏み出すたび、大理石の床に深い足跡が刻まれた。


「危険なのは僕じゃない。……あいつだ」


彼はすでに、人間としての忍耐を捨てた。


ユユを侮辱し、エリシアを脅かす全てのものを引き裂くため、死神が跳躍を開始した。


血に染まった廊下を抜け、僕は真っ直ぐに王城近くの廃墟を目指して跳躍した。


【心眼】が指し示す場所。そこでセドリックの不快な魔力がうねっていた。


廃墟となった教会の重厚な門に辿り着いた時、僕は床に散らばったエリシアの記録用紙を見た。


くしゃくしゃになった紙に残った、彼女の指のインク跡。震える筆跡。


それを見た瞬間、僕の中の何かが鋭く断ち切れた。


「セドリック……!!」


僕が廃墟の中へ飛び込んだ瞬間、そこはもはやこの世の場所ではなかった。


祭壇があるべき場所には、巨大な紫色の亀裂が虚空を引き裂いて口を開けており、その中心、魔力の鎖に縛られたまま宙に浮くエリシアの姿があった。


「エリシア!」


彼女がまだ生きていることに心臓が跳ねた。だが彼女はすでに意識を失い、亀裂の間へと徐々に吸い込まれていく。


魂まで侵食されそうな不吉な光景に、僕は剣の柄を壊れんばかりに握りしめた。


「おや、思ったより早かったな。ドブネズミらしく嗅ぎ回るのだけは得意なようだ」


セドリックの声は、もはや人間のそれではない。何重もの声が重なり合う奇怪な共鳴音。


彼の背後で影が異常なほど膨れ上がり、粘つく黒い液体のようなものが彼の肌を覆い始めていた。


「殿下を放せ」


僕は右手の【残光】と左手の【深淵】を抜き放った。


銀と黒の鋭い光が、暗い廃墟を切り裂いた。


「放せだと? この女はすでに『鍵』なのだ。偉大なるあの方がこの地に降臨するための、最後の供物なのだよ」


エリシアを生贄に捧げるというその卑劣な言葉が、僕の理性を切り刻んだ。ユユを守れなかったあの日の無力感が憤怒となり、全身を焼き尽くす。


「……その傲慢な口を、ここで引き裂いてやる。覚悟しろ、セドリック。貴様に許された慈悲はない」


僕の宣言に、セドリックが失笑した。


「覚悟? ハハハ! 貴様ごときが? 一介の間に合わせの力で『あの方』の加護を受ける私に勝てると思っているのか!」


セドリックが咆哮すると、彼の胸の中央から脈打つ紫色の眼球が突き出した。


彼の体は歪み、背中から骨の翼が生え、廃墟全体を揺るがす圧倒的な圧迫感が放たれた。


それは単なる高位魔族の気配ではない。


遥か深淵から世界を見下ろす絶対的な悪の欠片。


(この気配……まさか、魔王か?)


「クハハハ! 感じるか? これが貴様ら異邦人には決して手に入らぬ、真の力だ!」


覚醒したセドリックの体から放たれた紫色の衝撃波が、教会の巨大な石柱を一瞬で粉々に砕き、夜空を露わにした。


血のように赤い月光が、怪物と化したセドリックを照らし出す。


僕は剣の柄を強く握りしめた。セドリックの背後にいる『存在』が誰であろうと関係ない。


目の前の敵を切り裂き、エリシアを取り戻す。死神の本能が冷徹に覚醒した。


「力の差……? 見せてやるよ。貴様が呼ぶその怪物ですら捉えきれない速度を」


僕は身を低く沈めた。空気すら避けて通る、死神の跳躍が始まった。

セドリックの背後に潜む巨大な悪の片鱗、そしてそれを嘲笑うかのように爆発するハルトの速度!


果たしてハルトは魔王の力を借りたセドリックを切り伏せ、エリシアを無事に救い出すことができるのでしょうか。


「貴様の呼ぶ怪物ですら見ることの叶わぬ速度を」という最後の一言、鳥肌が立ちましたね! 次回は目では追うことすら不可能な死神の剣舞が本格的に繰리広げられます。


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『死んだ恋人と瓜二つの王女を、今度こそ逃がさない』
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