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11. 新たな仲間たち、そして灰色の聖域へ

こんにちは、作者です! 第11話での華やかな夜会から一転、今回はいよいよ「聖域」再建に向けた本格的な動きが始まります。


王国の「問題児」たちを集めるハルトのカリスマ性と、彼に振り回される(?)個性豊かな仲間たちの掛け合いをお楽しみください!



領地「聖域」へと旅立つ前、俺は自分を補佐する精鋭メンバーを自ら探しに出た。 平凡な人材では、あの死の地を蘇らせることはできない。


俺は、王国が持て余した「天才的な問題児」たちをスカウトすることに決めた。


最初に訪れたのは、王立刑務所の最下層、光さえ届かぬ深淵の独房だった。 カビの臭いが立ち込める暗い廊下を通り、重い鉄扉を開けると、冷たい石の床に背を預け、無気力に横たわる一人の女がいた。


彼女は両手両足に魔力抑制用の鎖を幾重にも繋がれたまま、ぼんやりと天井を見つめていた。 銀色のショートヘアが汚れた床に散らばり、俺へ向けられた冷徹な碧眼は、感情の枯れ果てた湖のように静かだった。


ルナ。 かつて王国最高の聖女候補でありながら、今は大逆罪人として拘束された女。


「……伯爵様? 私を殺人鬼だと指差しに来たのですか? それとも、治してくれと縋りに来たのですか?」


彼女は体を起こそうともせず、鎖が触れ合う金属音だけを小さく響かせ、冷笑的に呟いた。


俺は横たわる彼女を見下ろし、聖域の地図を広げてその隣に放り投げた。


「あそこは魔気に汚染された死の地だ。お前が心ゆくまで研究できる魔物と負傷者が溢れている。おまけに、王国で誰も干渉してこない唯一の場所だ。お前のやり方を非難しない唯一の主君になってやろう. どうだ?」


その時、ルナの瞳が奇怪に輝き始めた。 彼女は鎖を引きずりながら、ゆっくりと身を起こした。 拘束されたままでも、彼女が放つ気配は刃のように鋭かった。


「……興味深いですね。条件があります。治療中、患者がどんなに悲鳴を上げても、絶対に干渉しないでください」


「いいだろう。約束する」


鎖が解かれる音と共に、ルナは立ち上がり、乱れた髪を掻き上げた。


彼女は冷ややかな碧眼を光らせ、口角を上げた。その冷たい微笑は、魅惑的でさえあった。


「完璧ですね。この退屈な監獄生活も今日で終わりです。私の新しい実験場よ、待っていなさい」


どこか狂気に満ちた学者の目をした彼女は、こうして俺の第一の仲間となった。


二人目は、都心の古びた賭博場だった。 埃っぽい酒の臭いと博徒たちの怒声が入り混じる場所で、赤いポニーテールをなびかせ、男たちと飲み比べをしていた女。 彼女の名はアーシャ。


小麦色の肌は健康美に溢れ、胸元が大きく開いた軽甲冑の下から覗く引き締まった腹筋は、彼女がいかに鍛えられた戦士であるかを物語っていた。


片目には黒い眼帯をしていたが、もう片方の目は燃え上がる炎のように強烈だった。


東方の武家出身だが、弓に風魔法を纏わせて軌道をねじ曲げる変則的な技術ゆえに、王国騎士団から「根性なしの邪道」と追放された女だ。


彼女は俺の登場にも構わず、最後の一杯を飲み干した。


「かぁーっ! やっぱり酒は野郎どもと飲むに限るぜ! あ、あんさんは何用だい? こんな薄汚い場所まで来るとは思わなかったがね」


俺は彼女が飲んでいたテーブルの上、空の杯に金貨を一枚投げ入れた。 チャリン、という音に彼女の目が大きく見開かれる。


「聖域だ。あそこは四方が敵だ。お前の変則的な矢でなければ貫けない奴らがうようよしている。あそこへ行けば、思う存分弦を引けるぞ」


アーシャは眼帯を直しながら俺をじっと見つめ、やがて豪快に笑い声を上げた。


「聖域か! 聞いただけで血が騒ぐねぇ! いいぜ、あんさん。いや、主殿! 伯爵様がお望み通り、あたいの矢の味を見せてやろうじゃないか。代わりに、月に一度は浴びるほど飲める酒と喧嘩の場を用意してくれよ!」


「好きにしろ。どうせあそこでは毎日が戦場だ」


彼女は勢いよく立ち上がり、弓を手に取った。 その堂々とした態度と自由奔放な気概は、どんな制約も拒む野火のようだった。


三人目は、王宮外郭の貧民街だった。


戦争で孤児となった子供たちが集まるボロ家の前で、2メートル近い巨漢の男が小さな針を持ち、子供たちに熊のぬいぐるみを作ってやっていた。 彼の名はバルガス。


体中に傷跡があるその姿は、人間というより動く城壁に近かった。


彼は元騎士団長だったが、剣の代わりに巨大な鉄扉のような盾を両手に持つ独特の戦い方のせいで「鈍重なデクの坊」と騎士団を追われた。


だが、俺には彼が誰よりも頼もしい「壁」に見えた。 険しい顔立ちに似合わず、子供たちに向ける眼差しはひどく穏やかだった。


「バルガス。子供たちに与える人形の代わりに、この地の民を守る盾を持て」


俺の言葉に、彼は顔を上げた。深い瞳の中に、諦念と悔恨が通り過ぎた。


「……私の盾は重い。耐えられますか? 王国騎士団ですら私を捨てたというのに」


「俺が浄化する地より重いものか。お前の盾が必要な場所がある。あそこには、お前が守るべき子供たちが数えきれないほどいる。俺の領民を守る最後の砦になってくれるか?」


彼はしばし沈黙した後、手に持っていた人形を子供に手渡し、立ち上がった。 彼が落とす巨大な影が俺を覆う。


「……命令ですか、伯爵様。私の主君よ」


「そうだ。命令だ」


「承知いたしました。私の盾の後ろへは、誰も通しません。命に代えてお約束しましょう」


心優しい巨漢バルガスは、こうして三人目の仲間となった。


最後のメンバーは、エリシアが直々に連れてきた少年だった。


「ハルト、この子はノアよ。私が探し回って見つけた宝物のような子なの」


王宮の演武場でエリシアの手を引かれて現れたノアは、まだ十六歳ほどに見えるあどけない美少年だった。


黒髪を整え、左目にモノクルをかけたその姿は人形のように可愛らしいが、顔には緊張の色が隠せなかった。


ノアは王立アカデミーを主席で卒業し、次期会計総長の最有力候補だった天才だ。


しかし、あまりにも内向的な性格ゆえに同僚の嫉妬と嫌がらせに耐えかね、辞職願を出したばかりだった。


「あ、あの……伯爵様! 殿下が仰るから来ましたが、本当に僕がお役に立てるでしょうか? 僕は臆病で声も小さいし……数字以外は何も知らないので……」


ノアは帳簿を胸に抱え、俺と目を合わせることもできず、もじもじとしていた。 しかし、エリシアは俺の脇腹を小突いて囁いた。


「信じて、ハルト。この子は帳簿の数字だけで敵の補給路を割り出し、隠された横領を暴く天才よ。領地再建にこれほど完璧な子はいないわ」


俺はノアの前に立ち、視線を合わせて腰を曲げた。


「ノア、お前の数字が、この地の飢えた人々を救うんだ。俺を助けてくれるか? お前の能力がどうしても必要なんだ」


ノアはモノクルをいじりながら躊躇ったが、やがて決然とした表情で頷いた。


「はい……! 伯爵様がくださった予算、一クーパーも無駄にしないよう……僕が守り抜きます!」


精鋭メンバーの招集とガリオンの合流を終えた翌日、俺たちは王城を後にした。 揺れる馬車の中、沈黙を破ったのはアーシャだった。


「おい、ガキんちょ。領地に着いた途端、魔物の声を聞いて泣きながら逃げ出すんじゃねえぞ?」


「ひいっ! ど、殿下が推薦してくださった人材なんですから! 逃げたりしません!」


ノアが帳簿を抱えて叫んだが、ルナが青白い手でノアの手の甲を撫でながら追撃した。


「心配しないで、ノア君。逃げる途中で足が折れても、私がすぐに繋いであげるから。麻酔はもったいないから、生で我慢してもらうけど」


「……伯爵様! お願いです、この姉さんたちをどうにかしてください!」


俺もこの面々の勢いに巻き込まれたくはなかった。 俺は少し狼狽しながら視線を逸らし、ぶっきらぼうに言った。


「……ノア、耐えてくれ。それからルナ、薬草の保管状態を確認しろ。アーシャ、お前は矢でも磨いておけ」


一週間の旅路を経て、ついに荒廃した領地「聖域」がその姿を現した。


「到着した。さあ、みんな降りろ」


ガリオンは休息を勧めたが、俺はそれを断固として拒否した。 城門の内側の光景は、外から見るよりもずっと凄惨だったからだ。


「いや、城よりも領民たちの住処が優先だ。ノア、お前は直ちに住民名簿と備蓄物資の現状を把握しろ。ルナは村の西側の簡易収容所から患者をチェック。アーシャとバルガスは俺に同行し、周辺警戒と危険区域をマーキングしろ」


俺の指示に、四人の仲間が一斉に散った。 俺はその日からさらに一週間、領地の隅々まで、一寸の隙もなく調べ始めた。


「……思ったより深刻だな。土壌の浄化が急務だ」


俺は古びた扉の隙間から、怯えた瞳で俺を見ている子供たちと目が合った。


膝を突き、子供たちと視線を合わせると、彼らは獣のように隅へと身を隠した。 俺は静かに手を伸ばし、寒風が吹き込む壁の亀裂に触れた。


「毎晩、寒かっただろうな。この壁の裏で地下水が逆流している。だから床がいつも湿っていたんだ」


俺は手帳を取り出し、補修計画を細かく書き留めた。


「北西の壁面、魔力遮断材の補強が必要」


「子供たちのための防寒用羊毛布団、最低20枚を優先配分」 具体的かつ実質的な内容だ。


調査三日目、村の広場の中央にある井戸には、絶望적인 沈黙が漂っていた。 住民たちは紫に汚染された水を見て溜息をついていた。


「この水を飲んではいけません。毒気が深く入り込んでいます」


俺の言葉に、一人の老人が自暴自棄に笑った。


「領主様、我々も分かっています。ですが、この水がなければ今夜も越せません。干からびて死ぬか、汚染されて死ぬか、同じことでしょう?」


俺は無言で井戸へ近づき、黒い剣柄を握った。 そして、俺の中に眠る深淵の魔力を精密にコントロールし、井戸の底へと放った。


チィィィーッ!


黒い霧が水の中を突き進むと、腐った水の中から悲鳴を上げるような紫色の蒸気が立ち上った。 やがて井戸の底から、透明で澄んだ湧き水がこんこんと溢れ出した。


「……水が、綺麗になった!」


老人は震える手で水を一杯掬って飲むと、俺の裾を掴んで嗚咽した。俺はその痩せた肩を軽く叩いた。


「心配いりません。俺がいる限り、少なくとも喉의 渇きでこの地を去ることはさせません」


一週間にわたる大遠征のような調査が終わった。 俺の足の裏は肉刺まめでボロボロになり、服は土埃まみれだったが、俺の手帳には領地のすべてが刻まれていた。


夕暮れ時、城の領主室のバルコニーから、沈みゆく赤い夕日を眺めた。


『エリシア、見ているか? お前がくれたこの機会を、絶対に無駄にはしない』


俺はこの灰色の地を王国最高の楽園であり、最も堅固な要塞へと変えてみせる。 俺を信じて花を一輪差し出してくれたあの子供と、澄んだ水に涙したあの老人を守るために。


俺は四人の仲間を振り返り、断固として命じた。


「調査は終わった。ノアは明日から直ちに物資配給体系を整備しろ. ルナは大掛かりな浄化キャンプを設置する. アーシャとバルガスは領地外郭の魔物を掃討し、防衛線を構築しろ」


俺の眼差しに、四人の精鋭はそれぞれの笑みを浮かべて頷いた。 その気勢に押され、部屋の隅で所在なげに立っていたガリオンが肩を震わせた。 王国騎士団のエリートだった彼も、この異質で強力な「問題児」たちの前では、ただの平凡な騎士に過ぎなかった。


俺は肩を落とすガリオンの肩に、そっと手を置いた。


「ガリオン卿、そう気を落とすな。あんたももう、俺の大切な仲間なんだ。これからやるべきことは山積みだ、頼むぞ」


俺の意外な励ましに、ガリオンが感激したように目を見開いた。


「は、伯爵様……! はい、承知いたしました! このガリオン、命を賭してお仕えいたします!」


忠誠心を燃やすガリオンを見てアーシャがニヤつき、ルナは興味深そうに唇を舐めた。 その光景を見ながら、俺は小さく微笑んだ。


この灰色の地を、王国最高の楽園かつ要塞に変える準備は、すべて整った。

第11話をお読みいただき、ありがとうございます! ついにハルトの「精鋭部隊」が集結しました。


異端のヒーラーに風変わりな弓使い、そして心優しい盾使いと天才会計士……。


一癖も二癖もある彼らが、ハルトの指揮下でどう化けるのか、私も書きながらワクワクしています。


特に、汚染された井戸を魔力で浄化するシーンでは、ハルトの領主としての覚悟を感じていただけたのではないでしょうか。


「この灰色の地を、最高の楽園に変える」 その第一歩を踏み出したハルトたちの活躍を、これからも見守っていただければ幸いです。


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