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10. 踊る死神と約束の旋律

こんにちは、作者です!いよいよハルトが伯爵として初の公式行事である夜会に出席します。


自分を蔑んでいた貴族たちへの、幼稚ながらも痛快な復讐と、エリシア殿下との眩いワルツまで!


第10話では、ハルトの人間的な魅力と領주としての真摯な抱負を詰め込みました。


華やかな夜会の夜へ、皆様を招待します。

王国の公式謁見が終わった後、華やかな宴の場はただ一人、「聖域の守護伯爵」ハルトを中心に回っていた。


高い吹き抜けの宴会場は、数千もの水晶魔導具が放つ光で昼よりも眩しく輝き、


精교な銀皿の上には王国南部から届いたばかりの珍味や最高級のワインが絶え間なく満たされていく。


弦楽合奏団が奏でる軽快な旋律が、空中に漂う甘い香水の香りと混ざり合い、

ここが少し前まで反逆の恐怖に震えていた場所だという事実を忘れさせていた。


宴の興奮が絶頂に達した頃、音楽が止み、玉座から立ち上がった国王が杯を高く掲げた。


場内の貴族たちは一斉に息を呑み、王の唇に注目した。


「親愛なる王国の民よ! 今日、我らは闇の中で王冠を守り抜いた真の英雄を迎えた。試練に屈することなく、聖域を護るという使命を受け入れた者!」


国王の威厳に満ちた視線が僕に向けられた。その慈悲深くも力強い声が宴会場に響き渡る。


「王国の新たな盾であり、聖域の主であるハルト伯爵に――乾杯!」


王の宣誓が終わるやいなや、数百人の貴族が一斉に杯を掲げ、雷鳴のような歓声を上げた。


「ハルト伯爵に栄光あれ!」「守護伯爵閣下のために!」


数千のグラスが触れ合う澄んだ音が響き渡り、盛大な喝采はハルトの輝かしい前途を祝福するように鳴り止まなかった。


華やかなドレスを纏った貴族の令嬢たちは、扇の陰で熱心に囁き合いながら僕の様子を伺い、


中年貴族たちは杯を手に僕の周囲をうろつきながら、公然と媚を売る機会を狙っていた。


「伯爵様、こちらのカナッペも召し上がってみてください。絶品ですよ」


エリシアが小さなフォークでサーモンのカナッペを掬い、僕の口元に運んでくれた。


僕は自然にそれを受け取りながら、もぐもぐと呟いた。


「美味しいですね。ところで殿下、さっきからあそこの隅にいるバルトール伯爵の顔、見ました? 今にも泣き出しそうですよ」


僕の言葉にエリシアが視線を転じ、床ばかり見ているバルトールを確認すると、「ぷふっ」と小さく吹き出した。


「本当ですね。先ほど国王陛下の前で謝罪した時よりも顔色が悪くなっています。ハルト君、あからさまに笑いすぎじゃないですか?」


僕の図々しい返答に、エリシアは僕の腕をパチンと叩いて睨んでみせた。


だが、彼女自身も楽しんでいるのか、口元には笑みが絶えなかった。


シャンパングラスを手にした貴族たちは、表向きは追従を述べながらも、背後では冷ややかな笑みを浮かべて囁き合っていた。


「聖域? 聞こえはいいが、あそこはセドリックの魔手が伸びた死の地ではないか」


「王も残酷なことを。反逆者を討ったからといって、そのまま死地へ追いやるとはな」


彼らの嘲笑混じりの陰口は【探知】にすべて引っかかっていたが、僕はむしろ心の中で快哉を叫んでいた。


実は、あの地は僕がエリシアを通じて国王に直接要望した場所だったのだ。


『魔力が豊富で、適度に危険があり、僕の剣の糧が溢れている場所』。


エリシアは僕の頼みを聞き、父である国王に

「ハルト君はもっと強くなりたいと願っています。彼に相応しい試練の地を与えてください」

と、可愛らしい(?)圧力をかけたのだという。


その時、バルトール伯爵が汗を拭いながら、高価そうな宝石箱を手に近づいてきた。


「は、伯爵……! いえ、ハルト卿! 先ほどは誠に失礼いたしました。この、些少ながら貴重な宝石で、どうか私の謝罪を……」


僕は彼が差し出した箱をじっと見つめた後、わざと指先で箱を「ツン」と押し返した。


「伯爵、これは何ですか? まさかこんな石ころ数個で、僕の機嫌が直るとでも思っているんですか?」


「い、いや、これは王国でも数少ない……」


「おや、がっかりだな。聖域の伯爵領にはこんなの、道端に転がっていますよ? あ、もちろんあそこは危険ですから、伯爵のような方には拝むこともできないでしょうが」


僕は肩をすくめ、「べー」とでも言いそうなほど幼稚に口角を上げてみせた。


狼狽してしどろもどろになる彼の姿は、まさに格好の笑い草だった。


横でその光景を見ていたエリシアが、僕の脇腹を小突いた。


「ハルト君、あまり子供っぽく振る舞わないでください。見ている人が多いんですから」


「でも殿下、あの人の顔を見てくださいよ。本当に傑作じゃないですか」


「ふふ、本当に仕方ない人……。でも、そうですね。バルトール伯爵のあの情けない顔は、私も少しだけ愉快ですわ」


エリシアは扇で口元を隠して優雅に笑ったが、その瞳には悪戯心が満ちていた。


彼女もまた、自分を生贄に捧げようとした者たちを弄ぶこの状況が嫌いではないようだった。


「殿下、見ましたか? 僕がどれだけこの人たちを無視しても構わないということを」


「はいはい、伯爵様の仰せのままに。その代わり、後で領地に行っても私に生意気な口を利いちゃダメですよ? 分かりましたか?」


エリシアが目を細め、先ほど見せた「王族のオーラ」を、僕だけが感じ取れる程度にごく僅かに放った。僕は本能的に姿勢を正し、ニヤリと笑った。


「もちろんです。王女様の命とあれば、地獄の果てまでお供する覚悟ですよ」


二人の会話を伺っていた貴族たちは、僕たちが何か恐ろしい結託でもしているのではないかと勘繰り、震えながら散っていった。


エリシアは僕を宴会場の中央ホールへと導いた。


その時、床に頭を擦りつけているバルトールたちを背景に、美しい旋律が流れ始めた。


「伯爵様、私と一曲、踊っていただけますか?」


彼女が先に、優雅に手を差し出した。


目の前の白金色のドレスの裾が軽やかに揺れた瞬間、僕は見惚れたようにその手を取った。


数多の貴族の視線が僕たちに注がれたが、今この瞬間だけは、彼らの突き刺さるような視線すら祝福の拍手のように遠く感じられた。


僕はこれ見よがしにエリシアの腰を優しく抱き寄せ、宴会場の真ん中へと進み出た。


「わあ、みんな僕たちを見てる。あの貴族ども、羨ましくて死にそうだな」


「ふふ、ハルト君は時々、本当に子供みたいですね」


彼女が小さくくすくすと笑い、僕の肩に手を置いた。


だが、軽快なワルツの導入部が響き渡ると、僕たちはどちらからともなくリズムに身を任せた。


悪戯っぽい会話は止み、代わりに柔らかな呼吸と優雅なステップがその場を満たし始める。


――スッ、サカッ。


滑らかな大理石の床に、靴の踵の音が心地よく響く。


エリシアはまるで蝶の羽ばたきのように、軽やかでしなやかに僕のリードに従って身を翻した。


彼女が一回転するたび、華やかなドレスの裾が花びらのように幾層にも広がり、その間から覗く彼女の晴れやかな微笑みは、宴会場のどんな宝石よりも眩しく輝いていた。


「でも……今は存分に威張っていいわよ。その資格、十分にあるんだから」


彼女が僕の肩越しに囁いた。


僕はその言葉に答える代わりに、彼女の手を握り直し、より深くステップを踏んだ。


音楽が絶頂に向かうにつれ、僕たちの動きはより完璧に噛み合い始めた。


周囲の騒音は背景音のように霞み、ただ腕の中から伝わる彼女の温もりと、柔らかなラベンダーの香りだけが鮮明に刻まれていく。


地獄のような濡れ衣の時間、血生臭い戦場の記憶が、この優雅な旋律の中に洗い流されていく気分だった。


僕たちは人目を気にすることなく、ただこの瞬間の愉悦と、互いの存在だけを共有した。


華やかな照明の下で共に踊るこの時間が、永遠に続くかのように感じられるほどに。


音楽の最後の旋律が止まり、僕たちが互いの目を見つめて恭しく一礼すると、宴会場には天井を突き破らんばかりの拍手喝采が降り注いだ。


嫉妬していた貴族たちも、この圧倒的な美しさの前では口を閉ざすしかなかった。


パーティーはこうして、王国の歴史に残るほど華やかで平穏に幕を閉じた。


宴の喧騒が遠のいた、月明かりの下の庭園。冷たい夜風が火照った頬を冷ましてくれる頃、僕はエリシアと二人きりでベンチに座った。


周囲に誰もいないことを確認した僕は、服の締め付けを少し緩め、ゆったりと身を預けた。


同じく周囲を確認したエリシアが、僕の手にそっと自分の手を重ね、堪えていた問いを投げかけた。


「ハルト、もう教えて。どうして私に、父様にあの危険な『聖域』を頼んでくれなんて言ったの? あそこは魔王軍の侵攻路であり、呪われた廃墟じゃない。あなたが望めば、もっと豊かで安全な地を得られたはずなのに」


心配に満ちた彼女の褐色の瞳を見つめ、僕は穏やかに微笑んだ。僕は彼女の手を軽く握り直し、口を開いた。


「エリシア。あそこはこの世界の『闇』が最も深く溜まった場所なんだ。僕が持つ魔力を高め、この世界と日本について知る魔王に近づくためには、あそこ以上の場所はない。それに、何よりも……」


僕は一度言葉を切り、遠くを見つめた。


「あそこに残された人々を、放っておけなかったんだ。誰もが諦めた地で死にゆく人々を救えるのは、残念ながら勇者である僕くらいだからね」


エリシアは僕の答えに一瞬呆然とした表情を浮かべたが、やがて僕の肩に頭を預け、小さく囁いた。


「ええ、それこそがハルトらしい答えね。ごめんなさい、あなたを信じていなかったわけじゃなくて、心配だったの。その代わり、約束して。あそこで必ず生き残って、あなたが言ったその素敵な領地を私に見せてくれるって」


僕は頷き、彼女の約束を心に刻んだ。 彼女は顔を上げ、僕の目をまっすぐに見つめて悪戯っぽく笑った。


「私たちの旅路、必ず成功させましょうね。いい、パートナー?」


僕も彼女を愛おしげに見つめて言った。


「ああ、必ず」


こうして、宴の夜は更けていった。

エリシアと交わした最後の約束、


「パートナー」という言葉がとても胸をときめかせますね。華やかな王城を背に、ハルトはいよいよ最も危険な地「聖域」へと向かいます。


そこで彼を待ち受ける試練とは何でしょうか?そして、彼と共に歩む新たな仲間たちはどのような姿をしているのでしょうか。


今回の第10話、甘く爽快な展開を気に入っていただけましたら、ぜひ「ブックマーク」と「評価」をお願いいたします!皆様の応援が、死神が聖域を楽園へと変える旅路の大きな支えになります。

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『死んだ恋人と瓜二つの王女を、今度こそ逃がさない』
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