9 街へ呪物探索
街のメイン通りをユーリ王子と歩く。
気になっている男性と歩くのは初めての経験で緊張してくる。
それを悟られないように偉そうに私は口を開いた。
「目をつけている店ってどこなの?」
「騎士団で見回りをしているんだが、怪しいそうな場所が何店舗かある」
そう言って大通りの道を曲がり細い道へと入ってく。
貴族御用達の店が多い大通りとは違い、値段が低い店が並んでいた。
店の前には籠に入った野菜や果物が並び、新鮮な魚が並んでいる。
店員さんが大きな声で客引きをしている様子は新鮮だ。
「すごいわね。活気があって、私こう言うところに来るの初めてよ」
思わず感激していうと、ユーリ王子は得意げだ。
「だろうね。貴族のお嬢様だと分かれば厄介なことに巻き込まれかねないから洋服を着替えてもらったんだが……」
私を見下ろしてユーリ王子は片眉を上げる。
「ロゼッタの顔がどう見ても貴族だよ」
「そうね。貴方も普通の騎士には見えないわよ」
ユーリ王子を上から下までみる。
金髪の髪の毛はサラサラで、整った顔、一般の騎士と言うには気品が漂い過ぎている。
私が言うとユーリ王子は嬉しそうだ。
活気のある店を抜けて、薄暗い通りへと入っていく。
ユーリ王子は微笑みながら私に注意をしてきた。
「ここから先は治安が少し悪いから絶対に俺から離れないように気をつけて」
「わかったわ」
薄暗い通りに一歩入っただけで空気が変わった。
活気だっていた店員の声も無くなった。
不自然なほど静かな通りに私たちの足音が響く。
店もなくなり、石の建物の横を歩いていく。
ザワザワとした嫌な感覚が背筋に走る。
「近くに呪物がある気がするわ」
ユーリ王子の腕をぎゅっと握っている私を青い瞳が見下ろした。
「やはりそうか。怪しいと思っていたんだ」
軽く言うと、ユーリ王子は私を引っ張るように歩き続ける。
呪物があると私の動きが鈍くなるのを理解しているようだ。
半ば強引に引っ張られて辿り着いたのは骨董屋と書いてある薄暗い店だった。
店先のガラス張りに見える棚には古い壺や髪留め、ブレスレッドなどあらゆるものが展示されている。
統一感がない店の商品だが近づくと私の背筋がゾクゾクとしてくる。
「間違いないわ。呪物ばかり置いてあるわよ」
頭痛がしそうな呪物の念を感じて低い声でいう私にユーリ王子は頷いた。
「やはりここか。骨董品なんだが普通に売ってくれない商品もある店らしい」
「どういうこと?」
「店先の物を売ってほしいと言っても断れると苦情が来ているんだ」
「そんなことまで騎士団に届くのね」
半ば呆れながら言うと、ユーリ王子は苦笑する。
「こう見えて街のことは意外と詳しいんだ。この店だろうな」
「そうね。呪物を集めるのが得意なのか、たまたま集まってしまったのか。それを意図的に売っているのかしら」
入りたくないが、調査のために入らないとと決意を決める。
誰かが呪っている呪物を呪物鑑定士としてどうにかしようと思わないが、そんな怪しいものがもし市場に出ているとしたら厄介だ。
いざとなったらユーリ王子を盾にしよう。
私の心の中が伝わったのかユーリ王子はかすかに口の端を上げた。
「覚悟は決まった?」
「行きたくないけれど、いくわよ。この借りは大きいわよ」
偉そうな私に気分を害することなくユーリ王子は頷いた。
ガラス張りのドアを開いて中へと入る。
埃っぽい空気と呪物の嫌な気配を感じて私は顔を顰めた。
ユーリ王子は平然とした顔で店の亭主に話かける。
「すまないが、少しお尋ねしたいことがある」
「なんでしょうか」
店の亭主は白髭を蓄えた老人だった。
少し耳が遠いいのか大きな声だ。
ユーリ王子はポケットから櫛を出して亭主に見せる。
「この櫛はここで売られたものですか?」
丁寧に聞くユーリ王子に亭主は頷く。
「あぁそうだよ」
「同じものはありますか?」
「いやぁ、これは一点物なんだよ」
櫛をじっと見つめて亭主が言った。
私はユーリ王子の影に隠れながら質問をする。
「ここにあるモノ全部そうなのかしら?」
「骨董品ばかりだけれど、その櫛は依頼されて置いているものだね」
「依頼?」
私とユーリ王子の声が重なった。
「売りにくる骨董品もあるが、自分で作った商品なんかも店で売っているんだ。ほら、その棚のアクササリーなんかはほとんどそうだよ」
亭主が指差した先の棚に手作りのアクセサリーが並んでいた。
何かを樹皮で固めたようなペンダントや、指輪。
小さい子供を模った人形も置いてある。
黒い靄は見えないが、呪物特有の嫌な感じがして私は商品を手に取った。
背筋がゾクゾクするが、それに耐えて商品を観察した。
「この棚全て呪物だわ。遺品ではなく、誰かが意図的に作っているものよ」
後ろから覗き込んできたユーリ王子に囁く。
「と、いうことはこれを買った人は体調が悪くなるということか?」
「少し違うわね。持っているだけでは寝込むほど悪くなるわけではないわ。呪物に念を入れると完成するようにできているようよ」
ユーリ王子は首を傾げる。
「だれかを呪う道具ということか?」
「間違いないわ」
私は作り笑顔を浮かべて亭主に向き合った。
「これは何か普通と違う雰囲気がするんだけれど、何かあるのかしら」
「さぁ、知らんが。一部の若い子には願いが叶うアクセサリーとか言われているらしいよ」
「願いが叶う?」
ユーリ王子と私は顔を見合わせた。
「それは有名なのか?」
ユーリ王子が聞くと亭主は肩をすくめる。
「若い子のことはよくわからん。ただ、そこの棚を買って行った人に渡す説明書がある。なんだか儀式?とかいっていた。今流行っているのかねぇ」
ぼやくように言う亭主に私は詰め寄る。
「その紙下さるかしら。私、あの棚のもの全部買うから!」
私の気迫に驚きながら亭主は頷いた。
「買ってくれるならいいよ。全員に渡しているから」
「ありがとう。お金はこの人が払うわ」
ユーリ王子の背を押した。




