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「この櫛が原因だと思うわ」


城の客間に帰ってきた私たちはお茶を飲んで一息つく。

ユーリ王子は私の掌に乗っている櫛を見つめる。


「普通の櫛に見えるが……」


「私の目には黒い霧が渦巻いて見えるわ」


背中がゾクゾクして身震いをしている私を見てユーリ王子が聞いてくる。


「呪物ということか?」

「そうよ。明らかに悪意の念を感じるわ。持っているだけで気分が悪いわ」


顔を顰める私にユーリ王子が手のひらを差し出してきた。


「俺が持っていよう。すぐに封印をするのか?」


これだけの悪意の念がある櫛を王子に持たせて良いものかと一瞬悩んだが、鈍感だから大丈夫だろう。

投げるようにユーリ王子の掌に櫛を乗せた。

ユーリ王子は珍しそうに櫛を眺めている。


「本当に何も感じないの?」


「普通の櫛だと思うが」


「送った友人が術を施すと思えないのよ。念というか呪物になっている、知識がある人がこれを作ったと思うのよね」


「どういうことだ?」


「演習場にあった剣は殺された人の念が入っていたのよ。だからすごく怒っていた。近づくやつはみんな殺してやるぞってね。あれはもう死んでいるから封印をすれば大丈夫なんだけれど、これは厄介ね」


ため息をつく私に、ユーリ王子は掌で櫛を転している。


「厄介とは?昨日のように封印の紙を貼ればいいのではないか?」


「これは明らかに誰かが呪っているのよ。それも今生きている人が、私はこの仕事できないわ」


「……できない?呪物鑑定士なのだろう?」


「鑑定士は呪物かどうか判断するだけでもなれるのよ」


強がっていう私をユーリ王子の青い瞳が見つめてくる。

どうしてできないのかと青い瞳が言っているような気がして私は強がりながら言葉を続けた。


「人が呪っている物を正常に戻そうとすると、呪っていた人に返るのよ……」


「それは、仕方ないことじゃないのか?」


当たり前のように言われて私は両手を強く握り込んだ。


「……私もそう思っていたことがあったわ。人を呪っていたんだから、当たり前だろうって。覚悟でやっているんだろうってね、でも呪っていた相手にどう返るかはわからないのよ。……どの呪物鑑定士もわからないと思うわ」


「そういう経験があるということか?」


ユーリ王子に聞かれて私は唇を噛んだ。


「言いたくないわ」


嫌な記憶が蘇りそうになりぎゅっと抑え込む。

2度と思い出したくない辛い記憶。

あんな思いをするなら、私は呪物鑑定士なんてやりたくない。



「誰にでも言いたくないことはあると思うが、ただこの櫛が気になる。もし町で売られている物だとしたら他にも体調不良になっている人がいるということだろう」


「そうかもしれないわね」


「呪物をどうするかは決めなくていいから、この櫛がどうやって売られているのか調査したい。協力してほしい」


ユーリ王子にお願いされて断れるはずもなく、私は頷いた。


「……わかったわ」


渋々頷いた私にユーリ王子は優しい笑みを浮かべた。


「ありがとう。早速、明日調査をしてみよう」


ユーリ王子の笑顔に昔の思い出で傷ついた心が癒やされた気がした。




翌朝、いつもと変わらない黒い騎士服でユーリ王子は我が家にやってきた。

王子自ら迎えにきてくれたことで父親と母親は平然を装いつつもかなり驚いているようだ。

笑顔で私たちの様子を見ている。


いつも通りのドレス姿の私を見てユーリ王子は顎に手を置いてじっと見つめてくる。


「貴族感が出過ぎているから少し街を歩いてもおかしくない服装をしてくれないか」


「街を歩くの?呪物を探しに行くってこと?」


侍女の親友に話を聞きに行くのかと思ったらまさかの街歩きのようだ。

驚く私にユーリ王子は頷く。


「とりあえず調査してから櫛を送った友人に話を聞きに行こう」


「わかったわ。街に出てもおかしくないような洋服に着替えるわ」


王子様に逆らえるはずもなく私は頷いて部屋に戻った。

なるべく控えめな洋服に着替えてユーリ王子の元へと戻る。


「どうかしら?」


顎をあげて嫌味っぽくいう私にユーリ王子はしっくり来ないようだ。


「ロゼッタの顔が美人すぎるから、洋服を変えても貴族感は消せないな」


「褒められてるのかしら」


複雑な気分になっている私にユーリ王子は腕を差し出してくる。


「もちろん。今日は、ただの騎士である俺がロゼッタにこれと同じ様な櫛を送りたいという設定だ。目をつけている店を当たりたい」


ユーリ王子は上着から呪物化した櫛を取り出した。

嫉妬や恨みのような薄暗い人の念を感じて私は身を引く。


「うわ、ポケットから出さないでよ。すごく嫌な感じだわ」


「取り出さなければ平気なのか?」


ユーリ王子に言われて私も首を傾げた。


「確かにそうね。呪物のありかはどうしたって存在を感じるのにユーリ王子がポケットに隠し持っていると何も感じないわ」


普段なら離れている場所にあっても呪われた物は発見できる。

それなのにユーリ王子と腕を組んでも嫌な気分にならなかった。


「ポケットにしまっておこう」


ユーリ王子は上着に櫛を入れると櫛から漂っている嫌な存在は感じなくなった。

不思議なこともあるものだ。


「……もしかして、ユーリ王子が鈍感だから呪物も効力を発揮しないのかしら」


ポッリと呟いた私の言葉を父親が嗜めた。


「ロゼッタ、ユーリ王子になんてことを言うんだ」


「だって、本当のことだもの」


ツンとして言う私を見てユーリ王子は笑った。



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