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ユリアナ様が療養しているお屋敷に入る。

空気が澄んでいて気持ちがいい。

白を基調とした室内には至る所に大きな観葉植物が置かれている。


「空気が気持ちいぐらい浄化されているわ。このお屋敷がいいのか、それとも観葉植物のおかげかしらね」


大きく息を吸い込んでいる私にユーリ王子は肩をすくめた。


「俺にはそういうのよくわからないんだ。実を言うと城の重苦しい空気感というのも理解できない」

「羨ましいわね」


なにも感じない方が人生が楽に違いない。

人の念を感じられる能力はいいことなんてない。

毎回人の醜い気を感じて嫌な気分になるのだ。


ユーリ王子は頭をかいた。


「そうか?騎士団の連中にも鈍感すぎると言われまくったが……」


「……きっと騎士団の人たちは感覚が鋭い人が多いいのね」


お師匠さんが昔言っていたことを思い出す。

優れた騎士は感覚が研ぎ澄まされている分、呪物も感じやすいらしい。

感覚で悪い物や場所、人なども感じ取る能力が優れていると教わった。

ユーリ王子は騎士団に所属していると言っていたが、剣の腕は大したことがないのかもしれない。

なんとなく少しだけがっかりしてしまう。


「ここがユリアナ様のお部屋だ。面会の約束はしているから安心してほしい」


爽やかな笑顔のユーリ王子に私は冷たい視線を向ける。


「突然訪れたらユリアナ様も驚くわよ」


「ははっ、ユリアナ様は気にされない」


爽やかにいうユーリ王子に私は呆れて首を振る。


「私が気にするわよ。約束もしないで突然訪問したら呪物鑑定士だけでも評判が悪いのにもっと悪くなるわよ」


「ロゼッタの評判は良くないのか」


明るくいうユーリ王子に私は頷く。


「そうよ。ものすごく悪いわよ。下手したら呪物鑑定士って嘘をついていると言われているわよ」


「それは酷い言われようだな。昨日、騎士団の大剣を封印した能力は見事だった。間違いなく評価は良くなるよ」


「そうだと思いたいわね」


ユリアナ様が療養している部屋のドアが開いた。

侍女の女性が出てきてユーリ王子を見て慌てて頭を下げる。


「今、カウンセラーの方がいらっしゃっておりまして」


申し訳なさそうにいう侍女にユーリ王子は頷いた。


「時間をおいて出直そうか……」

「大丈夫でございますよ」


ユーリ王子が言い終わる前に侍女の方に続いて部屋から出て来た女性が声をかけてきた。

まっすぐな長い黒い髪の毛の美しい女性が軽く頭を下げる。

淡い色のドレス姿の美しい女性は優しい笑みを浮かべている。

年は30代後半だろうか。


「ユリアナ様のカウンセリングは終わりましたので。少し時間がをすぎてしまい申し訳ございませんでした」


侍女の方と私達に丁寧にお辞儀をするとゆっくりと去っていった。

花のような心地よい残り香が漂い、心が落ち着いていく。


「すごくお綺麗な方ね。落ち着く雰囲気といい匂いがするわ」


胸いっぱいに香りをかいでいる私にユーリ王子は肩をすくめる。


「そうか?あまり匂いもよくわからないな」


さわやかに笑うユーリ王子に私はまた冷たい目を向けた。


「……ねぇ、すごい鈍感とか言われない?」


「兄上と騎士団の連中にはよく言われるかもしれないが……」


「でしょうね」


もしかしたらこの鈍感力のおかげでユーリ王子は未だに婚約者がいないのかもしれない。

呆れている私にユーリ王子は部屋に入るように促してくる。

私は頷いてユーリ王子に続いてユリアナ様がいる部屋へと入った。


広い部屋には沢山の観葉植物が置かれており、大きな窓から太陽が差し込んでいた。

室内は明るく、ぽかぽかと暖かい。

ユリアナ様は体調が悪いと伺っていたが大きなソファーにゆったりと腰をかけていた。


「ユリアナ様、お久しぶりです」


ユーリ王子はにこやかに微笑んでユリアナ様の前に立って頭を下げた。

私も膝を折って挨拶をする。


「ユーリ王子、お久しぶりね」


ゆったりとした口調で微笑むユリアナ様は今にも壊れそうなほど儚さだった。

薄く微笑むユリアナ様に私はお辞儀をもう一度する。


「ロゼッタ・ウェントハースです」


「何でも呪物鑑定士の資格をお持ちなんですって?昨日は大活躍されたそうね」


上品に言うユリアナ様に私は苦笑いをしながら頷く。

あまり誇れる資格でもないので、褒められると困ってしまうのだ。

ユーリ王子は私に席に着くように進めて自らもユリアナ様の前に座った。

私もユーリ王子の隣に座る。


「はい」


私が頷くとユーリ王子が引き継いだ。


「騎士たちが嫌がっていた演習場をおさめてくれたんです。かなり信用ができます」


「そうなのね」


「このお屋敷は悪いものがないそうですよ。ロゼッタは空気が綺麗だと言っていました。良かったですね」


「そうね。ユーリ王子はこのお屋敷が怪しいと思っていたのかしら」


上品に笑うユリアナ様に私はハラハラしてしまう。

もし本当にお屋敷が呪物で汚されていたらユリアナ様は嫌な思いをするだろう。

ユーリ王子は気にすることなく、話を続ける。


「思いますよ。ユリアナ様のご体調が優れませんし、最近は侍女の方も寝込んでいると伺いましたから呪物系なのかと思いました」


「そうね。でも何も思い当たることはないのよ。ロゼッタさんは何か感じるかしら?」


当たり前のように私の能力を信用をされて戸惑いながらも頷いた。


「このお屋敷はとても綺麗な空気が流れていてお城とは大違いです」


私が言うとユリアナ様は上品に笑った。


「そうね。あの城は空気が重いもの」

「わかります」


私が頷くと、ユーリ王子は首を傾げる。


「俺は何も感じないが……」


「ユーリ王子が鈍感なのよ……」


私が呟くとユリアナ様はまた笑った。


「このお屋敷も何もなくて良かったわ。そうね、できれば寝込んでいる侍女も大丈夫か見てくれると嬉しいわ。もうすぐ結婚する予定なのにあの調子では無理そうなのよ……」


「わかりました」


私ではなくなぜかユーリ王子が頷いた。


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