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「その紙を貼ればこの剣が起こす異変は起きないのか?」


警戒しながら言う騎士団長に私は頷く。


「私を信用してちょうだい」


そう言いながらも剣が今にも襲ってきそうなぐらいの怒りを感じる。

押しつぶされそうな重苦しいエネルギーを感じてまたユーリ王子の背後に隠れた。

心配そうに王子が振り返る。


「大丈夫か?」

「盾になってくれれば直接エネルギーを感じないからいけそうよ」

「わかった」


王子は頷くと私を庇いながら前に進んでくれる。

手に届く距離まで大剣に近づく事ができた。

近づけば近づくほど大剣から怒りのエネルギーと殺してやるという明らかな殺意を感じる。

恐ろしいほどの殺意に私は思わずユーリ王子の服を握りしめた。


ユーリ王子が心配そうに振り返る。


「この大剣から凄い殺意を感じるわ」


剣が見えないようにユーリ王子の背後に隠れる。

ユーリ王子が間にいるおかげで殺意の念が少し薄れて気が休まる。

なかなか紙を貼り付ける様子のない私の手をユーリ王子が掴んだ。


「この紙を貼ればいいのか?」


「そうだけれど、私がやらないとダメなのよ」


修行をした呪物鑑定士が直接貼らないと効果はない。

ユーリ王子は新たな提案をしてくる。


「なるほど、このまま俺が誘導をして剣に貼ればどうだろうか」

「そ、それなら大丈夫よ。お願いするわ」


封じの紙を手にしている私の手首をユーリ王子が力強く握る。

不思議とユーリ王子の体温を感じ、安心感が広がってくる。

先ほどまで感じていた恐怖が薄らぎ体を動かす事ができるようになった。


それが伝わったのかユーリ王子は私の顔を覗き込んでくる。


「こうしていると安心するだろう?このまま紙を貼ろう」

「……ありがとう」


美形の王子に手を握られている事が急に恥ずかしくなってくるが、不思議なことに安心するのだ。

守られているような不思議な感覚に陥る。

私の手をぎゅっと握ってユーリ王子は大剣に近づける。

そのまま私は現象が治るように念を込めて大剣に封じの紙を貼り付けた。


ガタガタと音を立てて小刻みに震えていた大剣は封じの紙が貼られると動きを止めた。

それと同時に大剣から発せられていた殺意も消える。


「成功したわ。しばらく大丈夫よ」


ホッとしながら私が言うと、団長は頷く。


「確かに、空気が軽くなったな」


剣を鞘に戻しながら騎士団長は大きな声で笑った。

ユーリ王子も頷いて爽やかに微笑んだ。


「この演習場は空気が重苦しかったが今は清々しい。これで騎士たちも練習に身が入るだろう」


「それはよかったわ」


ちゃんと封じる事ができほっとする。

ここまで殺意がある呪物に出会うのは初めてだ。


ユーリ王子の手が離れていることに気づき少しだけ寂しくなる。


「たまに様子を見にきて封印し直すわ」


大剣に異変がないか確認しながら言う私にユーリ王子が爽やかに微笑んだ。


「その時は俺も付き合う。1人だと不安だろう」


あまりに爽やかに言われてユーリ王子が眩しく見える。


「ありがとう。助かるわ」


不思議とユーリ王子が共にいればなんでも乗り越えられるような気がして私も微笑んだ。




城の中の客間へユーリ王子は私を案内してくれた。

場所を移した私は緊張していたのか疲労を感じてソファーに座り背もたれに体重を預ける。


「すっごく疲れたわ」


「助かったが、まだ城の中の異変があるんだ」


だらしなく座っている私に苦笑しながらユーリ王子が言った。


「わかっているわ。まだ城の中は重苦しい空気が漂っているもの」


大剣が原因かと思った重苦しい空気は、まだ続いている。

どんよりとした重苦しい空気。

何か大きな呪物がどこかにありそうな気配だ。

浮かない顔をしている私にユーリ王子は侍女が置いていったお茶とお菓子を進めてくれる。


遠慮をする事なく私は美味しそうなお菓子を手に取って頬張った。

疲れた体に甘いものが染み渡る。

頭の回転も戻ってきたような気がして、私は王子に視線を戻した。


「それで、お城では他に何があるんだっけ?」


「そうだな、義姉の侍女が体調を崩して寝込んでいる事。夜、どこからとも泣く女性の鳴き声が聞こえてくると言うことだ」


「ユーリ王子は確かお兄様がいらっしゃったわよね」


聞くまでもないが、私が言うとユーリ王子は頷いた。

ユーリ王子はお兄様が1人いる。

イグナート様だ。

一度遠目でお見かけした事があるが、ユーリ王子に似た金髪の男性だったと記憶している。

ユーリ王子は爽やかな優しい雰囲気だが、イグナート様は時期王として期待されているだけあって少し気難しそうな感じがした。

無表情であるイグナート様の奥さんがユリアナ様だ。

ユリアナ様は儚い美人というイメージがある。


拙い記憶を思い出している私にユーリ王子は頷いた。


「そうだ。ここ最近ユリアナ様も様子がおかしいが……」


ユーリ王子は腕を組んで小さくため息をついた。

彼らしくない行動に私は首を傾げる。


「それも呪物系なのかしら?」

「いや、夫婦仲の問題かもしれないからなんとも言えない。そちらも一度様子を見てほしい」


「夫婦問題?」


幼少期から決められた結婚相手だった気がするが、気が合わないのだろうか。

それ以上聞くのも悪いと思い私も頷いておく。


「そう言うのもあるわよね。結婚していないけれど」


わかったように言う私に、ユーリ王子は微笑んだ。


「ロゼッタは少し変わっているな」


「そうかもね。呪物鑑定士になるぐらいだから普通じゃないと思うわ」


冷静に言ったが、微笑んでいるユーリ王子の顔が眩しい。

大剣の殺意から盾になって守ってくれた安心感と優しい仕草そして、美しい顔。

胸がドキドキする高揚感を感じてそっと息を吐いた。


これは間違いなく、ユーリ王子に恋をしているかもしれない。

でも違うかもしれないきっと勘違いに違いない。

そう言い聞かせている私をユーリ王子が不思議そうに見つめてくる。


「体調でも悪いのか?」


「大丈夫よ。ただ、今日は疲れたから明日また調査でもいいかしら」


「そうだな。今日は助かった」


ユーリ王子に見送られて私は家路についた。



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