3 騎士団の呪われた剣
「ロゼッタお嬢様が本物と見込んで、騎士団の練習場の現象を解決してほしい」
ロベール団長がいうとユーリ王子も頷いている。
「あそこか。練習場で怖くて近づきたくないという騎士たちが多くでているんだ」
2人の説明を聞いて私は頷いた。
「なるほど、よくある話ね。そこに案内してちょうだい」
偉そうにいう私に気を害した様子もなく2人は頷いた。
薄暗い廊下を歩き、城の裏へと回る。
裏庭を歩き、離れた場所に古びた石造りの建物が建っていた。
絡まっている蔦がまた辛気臭い雰囲気を醸し出している。
「騎士団の練習場はそこだ」
「暗い雰囲気ね」
私がいうと、騎士団長は先頭を歩きながら大きな声で笑った。
「木々に囲まれて日が当たらないからなぁ。ジメジメしていて冬は寒いし、最悪だ」
「確かに寒いわね」
足から冷えてくる感覚に私も頷く。
ギギッと古びた音を出しながら団長がドアを開けた。
入るように促されて私は建物の中に入った。
背筋がぞくっとして思わず身震いをする。
「凄い呪物がありそうね。勝手に歩き回っていいかしら?」
私が聞くと騎士団長は頷いた。
「もちろん。ご自由にどうぞ、俺らは後からついていくから」
「ありがとう」
呪物がある特有の重苦しい空気を感じながら嫌な気配をする方へと探りなが向かう。
特殊な能力がなくても薄暗い室内はジメジメしていて嫌な感じだ。
騎士団長とユーリ王子は私の後ろを少し離れてついてくる。
私を値踏みしているような2人の視線を感じる。
呪物鑑定士としての能力を疑っているのだろう。
現場ではよくあることなので私もあえて詳しくは聞かない。
頼れるのは自分の能力のみだ。
修行をしたおかげで呪物の元へと迷わずたどり着くことができる。
廊下を歩いてたどり着いたのは剣の練習をする広場だ。
室内の練習場は広く、壁際に練習用の剣と盾が綺麗に置かれている。
嫌な気配はこの辺りから感じるが、騎士達が練習用に使っている剣や盾ではないようだ。
練習場の壁に飾られている大きな太い剣が目に入った。
目を凝らして見つめると、黒い霧が渦巻いているのが見える。
呪物独特の見え方だ。
「あれだわ。あの壁に飾られている剣がこの部屋で起きる怪奇の正体ね」
私が指を刺すと騎士団長とユーリ王子が目を合わせる。
「そうだ。よくわかったな」
驚いているユーリ王子に私は顎を上げる。
「わかるわよ。黒いモヤが見えるわ。ま、2人が私を試しているのはわかっていたわよ」
「試していた訳ではないが、原因が俺にもわからないからな」
ユーリ王子は爽やかに笑う。
「みんなそうなのよ。偽物の呪物鑑定士にやられた後だと私も怪しいと思うわよね」
「あの剣が原因なのか?」
「間違いないわ。凄い禍々しいのよ、これ年代がかなり昔なのかしら……」
壁に飾られている大剣に近づくとユーリ王子も一緒についてきた。
呟く私にユーリ王子は頷く。
「ここに飾られた経緯も何年前のものかもよくわからない」
「なるほど」
私は頷いて剣を観察する。
ユーリ王子が持っている剣の倍はありそうな大きな剣は黒い霧に覆われている。
私が近づくと小刻みに動き出し軽い金属音が響いた。
後ろで見ていた騎士団長が低い声を出す。
「おい、勝手に動き出しそうだぞ」
「そうね」
剣からは明らかな攻撃性を感じて私は眉を顰めた。
誰かの念というよりは大きな怒りと同時に殺されるかも知れないという恐怖を感じ思わずユーリ王子の背後に隠れた。
「どうしたんだ?」
ユーリ王子は不思議そうに私を振り返る。
「この剣怖いわ。凄い怒りを感じる。剣が襲いかかってきそうな気配を感じるわ」
「……怒り。ロゼッタ嬢にはどうにもできないということか?」
「できないことはないけれど、完全に呪物の封印は難しいと思う」
禍々しい怒りは私の手に負えそうにない。
はっきりと言う私に後ろで見ていた騎士団長が眉を顰める。
「できれば完全に現象を無くしてほしいんだが、変な現象が起きて騎士たちが怖がって練習に身が入らないんだ」
きっとその騎士たちは感じやすいのだろう。
剣が動くのを見たり、もしかしたら剣を持っていた持ち主の亡霊を見たものがいるかも知れない。
残念ながら私が今目を凝らしても黒い霧ばかりで何も見えない。
「私は呪物鑑定士だからこれが呪物ですっていうのは判断できるの。でも、なんの霊や念がついてるのかまでは判断できないのよ」
「それは毎回なのか?」
ユーリ王子に聞かれて私は肩をすくめた。
「見える時もあるけれど、それはかなり調子がいい時ね。ほぼ見えないと思って、だって私は呪物鑑定士ですからね」
念を押すように言うとユーリ王子は笑う。
「確かにそうだな。それで、ロゼッタ嬢ができることは?」
「そうね、とりあえずこの呪物を治めるわ。そうすればしばらく現象は無くなるから安心してちょうだい」
私はカバンから小さなガラス瓶に入った水を取り出した。
瓶の蓋を外して大剣に振りかける。
小さく小刻みに震えていた剣は小瓶の水がかかると大きく音を立てて何度が上下に揺れ始める。
大剣から大きな怒りを感じて私はユーリ王子の影に隠れながら鞄から一枚の紙を取り出した。
「ちょっとこれを剣に張り付けたいんだけれど。剣に殺されてしまいそうなぐらい強い怒りを感じるからこのまま前に進んでもらえるかしら」
王子を盾するなどと怒られるかと思ったが、彼は素直に頷いて私を庇うように前に立ってくれる。
「……剣が俺たちに襲ってくることはないのか?」
思い出したように聞かれて私は首を傾げた。
「私の経験からすると呪物が物理で襲いかかって来ることはほとんどないわ」
「ほとんどということはあるということか?」
涼しい顔をしていたユーリ王子も一瞬眉を顰める。
「あるけれど、ふわっと浮いて落ちるぐらいよ。この大剣はすごい怒りを感じるし規格外な呪物だから念の為に気をつけて」
「なるほど」
ユーリ王子は頷くと剣を抜いた。
後ろで見ていた騎士団長も慌ててやってくるとユーリ王子の前に立つ。
「剣に襲われるのは先が読めないから嫌だな」
そう言いながらも私たちの前に立ってくれる。
2人が剣を抜いたのを確認して私は手に持っていた紙を広げた。
細長い紙には異国の文字が縦書きに書いてある。
私が修行をした時に習った呪物を封じる呪文が書いてある紙だ。
「これを貼り付ければしばらくは大丈夫よ。いい?貼るわよ」
2人が頷いたのを確認をして私は手に持っていた紙を握りしめた。




