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女はどうみても40代。シワ一つない美しい顔をしている。

唖然としている私の代わりに鈍感王子が答えてくれる。


「90代には見えないね」


「そうでしょう?人の念をすわせた呪物を身につけることで私は若返る手法を編み出しのたよ」


「はぁ」


何を言っているか分からず私は唖然としたまま頷いた。


「そんなことできるの?」


私を見つめてユーリ王子は聞いてくるがわかるはずがない。


「さぁ?でもあの女の話が本当ならできる可能性はあるわね」


「で、おまえさんはその気分が悪くなる鏡をどうしたんだ?」


騎士団長が聞くと女は笑う。


「この鏡の怨念を吸って若さを維持するだけよ。ただそれだけ、決してこの呪物を解放して人を殺そうとか思っていないから大丈夫」


「大丈夫って貴女が作った呪物で人が悲しい目に遭っているのよ」


私の言葉に女は美しく微笑んだ。


「呪物はきっかけよ。おまじないのアクセサリーが無くても彼女たちは何かしていたわよ」


「呪物がなければしなかったわ」


ユーリ王子に隠れている私を鼻で笑って女は鏡に向き直った。


「さぁ、私に永遠の若さを与えてちょうだい」


両手を広げた女性のもとに鏡から出ていた黒いモヤが吸い込まれていく。

ユーリ王子が盾になってくれているとはいえ鏡から出てくるラヌシス王の殺意を強く感じる。


「あんなもんを吸い込んで大丈夫なのか」


騎士団長も鏡から出ている念にの強さを感じて体が辛そうだ。

ユーリ王子は何が起こっているのかわからないようで私を振り返る。


「何も見えないし感じないんだけれど。あの女は両手を広げて何をしているの?」


「鏡の怨念をあの女が吸い込んでいるの。すごい念の塊よ!」


私が説明してもユーリ王子はポカンとしている。


「鈍感王子ならいけるだろう、あの女を捕まえて、変な鏡を封印しちまえ」


剣を構えながらも騎士団長が辛そうに言った。


「そ、そうね。私は鏡を封印するわ」


ユーリ王子の背を押して、私は頷いた。


「わかった」


ユーリ王子が合図を送ってくる。

私は頷いて封印の紙を握りしめた。


女は黒い煙を吸収し終わったようで優雅に微笑む。


「この鏡子を壊されると困るけれど、また次を見つけるわ。せいぜい頑張ってね」


手を降って走り出そうとる女性をユーリ王子が飛び出して捕まえようと手を伸ばした。

ユーリ王子の手をヒラリとかわして女性は塔の窓へと向かう。


「飛び降りるつもりか」


騎士団長も重い空気の中でなんとか動き出す。


「私ぐらいになるとこれぐらいの高さなんでもないの」


優雅に飛び降りようとしたその瞬間女性の目が見開かれる。

口も大きく開けた女性のから低い悲鳴が漏れる。


「うぅぅ、そ、そんな」


小刻みに震える女性の穴という穴から黒い煙が出てくる。

獣のような低い唸り声をあげ女は床に倒れ込んだ。


様子を見守っている私たちを見上げた女性の顔はシワシワの老婆に変わっていた。


「ひっ……」


あまりの変わりように悲鳴をあげるてしまう。

女はゆっくりと自分の両手顔の前に持ってきてシワシワの皮膚を見て絶望的な声をあげる。


「どうして、私の若さを奪うの……」


「きっと、器に収まりきらなかったのよ……」


私がいうと女性は絶望的に目を見開いた。


「そ、そんな……」


その一言を残してガックリと動かなくなる。


「し、死んだのかしら」


ユーリ王子に近づいて彼の背中越しに私は誰ともなしに聞いた。

誰も答えてはくれなかったが、明らかに女性は生きていなさそうだ。


「その鏡、明らかに女の黒い煙も吸ってやばそうだぞ」


騎士団長の声に私とユーリー王子は鏡を振り返る。

確かに、念が強くなりこれが外へ漏れ出したら大事になるだろう。


「俺は何も感じないし見えないけれど、これがどうヤバいの?」


私はユーリ王子を見上げる。


「もし外に漏れれば最悪、飢饉とか、国の中で争い事が起こるとか、殺人が多くなるとかあるかもしれないわ。師匠が言っていたけれど、実際大きな念はそこまで起こすことができるらしいわ」


「それは大変だね。封印しないとね」


ユーリ王子は呑気にいう。


「私にできるかしら。大きな念すぎて不安だわ」


師匠クラスの呪物士ではないと手に負えない代物だ。

不安になる私の手をユーリ王子が握る。


「大丈夫だよ。俺も手伝うから、一緒にとりあえず封じてみよう」


さわやかに微笑むユーリ王子と目が合った。

青い瞳を見ているとなんでもできるような勇気が出てくる。

力強くユーリ王子に手を握られて私は頷いた。


強烈な殺気が鏡から発せられる。


「人を殺してやりたいという強い意志を感じるわ」


恐怖で身震いする私の手をユーリ王子は引っ張って鏡の前まで連れて行く。

ユーリ王子に触れていても鏡から発せられる殺意に体が壊されそうだ。

鏡に近付いただけで吐き気と頭痛が襲ってくる。

倒れそうな私の体をユーリ王子が背後から支えてくれる。


彼の体温を背中に感じ、恐怖がおさまった。

彼がいれば大丈夫。

そう言い聞かせて、大きく息を吸って鏡と向き合った。


大きな鏡は黒いモヤで覆われている。

禍々しい雰囲気に私は息を呑んだ。


「大丈夫だよ」


ユーリ王子は微笑むと封印の紙を持ってる私の手を握りしめる。

背後からユーリ王子の体温を感じながら決意を決めて封印の紙を鏡に近づけた。


鏡の周りに漂っていた黒い霧が一瞬大きくなり、私たちに襲ってくる。


身を守ろうとする前にユーリ王子のロケットペンダントが大きく輝いた。

ギィンという音と共に、金の光が私たちを包んだ。


「すごいわ」


金色の光が私たちを守ってくれているのか黒い霧は弾かれて近づけないようだ。

感激している私にユーリ王子は私を覗き込んでくる。


「どうしたの?」


さすが鈍感王子だ。今何が起こっているのか全てわからないのだろう。

ユーリ王子を見上げる。


「ロケットペンダントが私たちを守ってくれているわ。今ならできる」


私の言葉にユーリ王子はわからないながらも頷いてくれた。

ユーリ王子と手を重ねてゆっくりと鏡に封印の札を貼る。


黒い霧はゆっくりと鏡の中に吸い込まれていく。

凶々しい怒りにも似た念も収まり、鏡はピキッと音を立ててヒビが入った。



静かになった室内で騎士団長が後ろから声をかけてくる。


「終わったな」


「ユーリ王子のお母様のおかげね」


後ろに立っているユーリ王子を見上げるとキョトンとした顔をしている。


「母上のおかげ?」


「見えなかったのね……」


美しい金色の光が見なかったなんて、勿体無い。

がっかりする私にユーリ王子は頷いている。


「何もわからなかった」


「お母様が守ってくれたのよ。理由は聞かないでね、わからないから」


私たちの様子を見て騎士団長は疲れたように大きく息を吐いた。


「めんどくさい後片付けがあるな。この呪物の鏡は収まっているようだが、念のためにロゼッタ嬢のお師匠さんに確認を取ろう」


「そうしてくれると、ありがたいわ。師匠ならなんでもわかるから」


私は頷いてユーリ王子の胸に体重を頭を乗せた。

彼の体温はいつでも感じていたいのだ。


「どうしたの?」


少し驚きながらも避けることなく聞いてくるユーリ王子に私は微笑んだ。


「別に、ただこうしたかっただけよ」






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