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ユーリ王子に引きずられるように円形の塔へと辿り着いた。

一見静かだが、騎士団長が入り口を指差した。


「入口の鍵が開いてやがる」


「……中にいるってことね」


私が呟くと騎士団長は嫌な顔をしている。


「入りたくねぇな。重苦しくて頭が割れそうだ」


「私は大丈夫だわ。ユーリ王子のお陰ね」


重苦しい空気は感じるが、重い症状は起こっていない。

辛そうな顔をしている騎士団長を見てよっぽど重い呪いがあるのだろうとわかる。


「それなら俺から離れないようについてきて」


ユーリ王子はそう言うとさっさと中に入っていく。

心の準備ができないまま塔の中へと踏み入れた。

中は薄暗く、鉄格子の窓から差し込む太陽の明かりでなんとか見える状態だ。

埃っぽい室内は広く、がらんとしている。

石の螺旋階段があり、私と騎士団長は上を同時に見上げた。


塔の上の方にかなり強い怨念を感じる。

ユーリ王子にくっついていても重苦しい殺意の念に押しつぶされそうになる。


「すごい怨念だわ。まさかと思うけれど、ラヌシス王が人を殺すために待ち構えているんじゃないかしら」


気を抜くと倒れそうになりそうだ。私がいうとユーリ王子は肩をすくめる。


「埃くさい塔ってだけで何も感じないな。……上で人の気配がする」


「さすがだな、鈍感王子。俺は人の気配を感じない代わりに怨念は感じる」


騎士団長は苦しそうに言って剣をサヤごと抜いた。

剣を杖代わりにして歩き出す。

騎士団長はよっぽどこの塔にいる怨念が辛いのだろう。

ユーリ王子のおかげで私はだいぶマシになっているのだ。


ユーリ王子は私を見下ろした。


「上に行くけど大丈夫?」

「一緒に行くわ」


私が頷いたのを確認してユーリ王子はゆっくりと階段を登り始めた。

気配を消しながら歩くユーリ王子に従って私もなるべく音を立てないように歩く。

後ろから騎士団長も剣を杖代わりにして歩いているが見事に気配が消えている。


息切れしそうなほど長い螺旋階段を登り一番上へと辿り着いた。

大きな念の気配を感じ、体が押し潰されそうだ。

しっかりとユーリ王子の腕に捕まり彼の背中に隠れながら部屋の中を覗き込んだ。


がらんとした広間にの奥で一人の女性が立っている。

薄い青色のドレスを着た黒髪の女性は後ろ姿でもユリアナさまのカウンセラーだとわかる。

女は私たちの気配にゆっくりと振り返った。


「早かったわね」


初めて会った時の優しい雰囲気はない。

勝ち誇った顔で微笑んでいる。


「何をしているの?」


目を凝らしている私に女は背後に手のひらを向ける。


「祭壇の最終調整していたの」


「祭壇?」


私たちの声が重なった。

女が示す祭壇は鏡と蝋燭が対で建てられている。

丸い鏡は禍々しい念を感じる。

鏡から黒い霧が漂っているのが見えた。


「あれは良くないな」


重苦しい空気の中で騎士団長が呟いた。

私は頷いてユーリ王子の背後に隠れる。


「鏡が呪物化しているわ」


「あれを壊せばいいのか?」


簡単にいうユーリ王子に私は首を振る。


「物理的には多分壊れないわ。一度封印してからじゃないとどうにもできないと思う」


ユーリ王子にひっついていれば呪物の影響はほとんど受けない。

それをいいことに私は封印の札を取り出した。

剣を封印した時のようにユーリ王子と共に動けば封印できるはずだ。


「封印なんて出来ないわよ。そんな生やさしいものじゃないわ」


女はそう言って私たちに見えるように手のひらを見せてくる。

女の手のひらにはキラリとひかる指輪が乗っていた。


「ユリアナ様の指輪だわ!」


一体どうやって彼女の手から回収したのだろうか。

女が持っている指輪はユリアナ様がしていた結婚指輪だ。


女は嬉しそうに指輪を見せびらかすと鏡に投げた。

指輪は黒い霧の中に吸い込まれていく。


「指輪が消えたわ」

「それは俺にも見えた」


ユーリ王子も頷いた。

指輪を吸い込んだのか黒い霧は一段と大きくなる。


「ユリアナ様の悲しい気持ちを吸い込んだこの指輪を糧にまた成長したわね」


女は満足そうに鏡を見つめながら言った。


「成長?」


確かに黒い霧は大きくなっている。


「そう成長よ。こうして人の負の念を吸った呪物を好むのよ、ラヌシス王の怨念はね」


女性は高笑いをする。


「やっぱりあの血濡れの王と呼ばれていたラヌシス王なの?」


驚く私にユーリ王子と騎士団長の視線を感じる。


「おじさんよく分からないんだが、ラヌシス王があの鏡ってことか?」


剣を鞘から抜きながら騎士団長は顔を顰めた。

私は頷いた。


「城を包むぐらいの重苦しい空気の元凶があの鏡から発せられているのよ。ラヌシス王の怒りの怨念は相当よ」


「確かに怒りは感じる」


騎士団長も重苦しい空気と怒りのパワーを感じるのか息苦しそうだ。

私の盾になっているユーリ王子は平然としている。


「何も感じないけれど」


「さすが鈍感ね」


私は呟いてユーリ王子の背中から顔を出してユリアナ様のカウンセラーだった女に叫んだ。


「どうしてこんなことをするの?」

「面白いからよ。死してなお怒りのパワーを持っている怨念を封印しておくのは勿体無いじゃない。こうして育ててから解放すればどうなると思う?」


自慢げに言われて私は最悪の事態しか想像できない。


「たくさんの人が死ぬわ」


呟いた私をユーリ王子が振り返る。


「実態がないのに?」


「ユリアナ様の呪物でイグナート様は実際に足が動かなくなったでしょ。それと同じよ。厄介なのはそれが血濡れの王ということよ」


ピンときていなさそうなユーリ王子に女が笑みを浮かべた。


「ラヌシス王は生まれた時から凶暴だったの。人を殺したくて仕方ない、死んでからも人に対する恨みは積もっていたのよ」



「それなら鏡の中に閉じ込めておけばいいってこと?」


ユーリ王子が私を振り返った。


「確かにそうだけれど、私には手におえないかもしれないわ」


「そのお嬢ちゃんには無理よ。イシベルの弟子でしょ、ロゼッタちゃんがすごい呪物鑑定だって噂すらなかったもの」


師匠の名前を出されて私はユーリ王子の背中から顔を出す。

女は勝ち誇った笑みを浮かべている。


「師匠を知っているの?」


「あのババァと同期よ」

「えっ?」


驚く私に騎士団長が聞いてくる。


「ババっっていうからにはかなりの歳なのか?」


「90歳は超えているはずよ。師匠は10歳から修行を始めたって言っていたわ」


「そう、そのイシベルと私は同じ年。どういうことかわかる?」





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