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ユーリ王子と馬車に乗り、降り立った城の前で私は眉を顰めた。
豪華絢爛な白を基調とした城は私の目にはどす黒い霧がかかっているように見える。
城壁に囲まれた城は、王都を見下ろすように山の上に建っている。
敷地も広く、メインの城と両脇に教会と騎士団の詰め所と、背後に石造の丸い塔が建っている。
丸い塔は色褪せていて蔦が絡まっており時代を感じさせている。
私の目にはその丸い塔が真っ黒な霧が濃くかかっているのが見えた。
「ねぇ、今日はよく晴れているわよね。黒い霧なんて出ているわけないわよね?」
隣に立っているユーリ王子にいうと彼は首を傾げる。
「晴天だ」
「城全体に黒い霧がかかっているように見えるわ。特に後ろの丸い塔が悪い感じがする」
「あの塔は使われていない。俺も入ったことがない」
「なるほど、そんな急を要する物じゃないからいいけれど。とりあえず、城の中を案内してちょうだい」
偉そうに言う私に嫌そうな顔をするわけでもなく、ユーリ王子は頷くと歩き出した。
中に入ると、重い空気が漂っていた。
城全体が悪い物に取り憑かれているような重苦しさを感じ息が苦しくなる。
流れの早い水の中に入ったような足の重さを感じてゆっくりと歩いた。
「大丈夫か?」
ユーリ王子の青い瞳が心配そうに私を見つめている。
「空気が重いわ」
「それは皆言っている。俺は何にも感じないけれど、特に騎士団長は毎日のように文句を言っているよ」
「呪物がある雰囲気よ。それもとても大きな呪いを感じるわ」
断言する私にユーリ王子はため息をついた。
「呪物も呪いも思い当たることだらけだな。なんせ歴史がある城だから何があってもおかしくない」
「確かにそうね……」
頷きながら私は昔習った歴史を思い出す。
200年ほど前に大国だったルグゼン王国。
その大国に君臨していたラヌシス王だったが隣国のファネーブル国に倒されてこの国はファネーブル王国となったのだ。
ラヌシス王を倒し領土を拡大したのが隣にいるユーリ王子のご先祖様だ。
よく考えたら親しく話しているが、彼は王子なのだ。
パーティーなどで見ることがあったが、話すのは実は初めてだ。
ユーリ王子は、高貴な生まれだけあって上品な顔と雰囲気を持っている。
それに加えてかなりの美形だ。
女性からかなりの人気があるに違いない。
王子らしい衣装は着ておらず、黒い騎士服に銀の剣を下げている。
「ねぇ、ユーリ王子は騎士団に入っているの?」
剣を見つめている私にユーリ王子は頷いた。
「今更か?俺は兄を少しでも助けるために騎士団に入り剣術を磨いている。剣術だけではなくちゃんと勉強もしている」
「そうなの」
偉いのねという言葉を飲み込んで私は頷いた。
ついつい偉そうな口を聞いてしまうので気をつけよう。
ユーリ王子と並んで歩いていると侍女や騎士たちがヒソヒソと話している。
私を見て噂をしているようだ。
値踏みされているような嫌な気持ちにる。
「ロゼッタ嬢に期待しているんだよ。俺が連れてきた呪物鑑定士たちがみんな偽物だったから、今度こそ本物が来たと喜んでいるようだな」
ユーリ王子の言葉に私は肩をすくめた。
「とてもそう思えないけれど、本当にできるのかって目で見られているようだわ」
「まぁそれもあるだろうが、伯爵令嬢が呪物を鑑定するなんてことは本物以外あり得ないだろ、みんな期待をするさ」
そう言われて私も頷いた。
「確かにそうね。普通のお嬢様は家の中にこもって手芸をしたり結婚準備をしているわよね」
怪しい呪物鑑定士を名乗っているわけがない。
自虐的にいうがユーリ王子はさわやかに笑う。
「素晴らしい努力をしてつけた資格だ、期待している」
私のことを偽物扱いしないユーリ王子に好感が持てる。
ただの美形の王子かと思ったが、わかっているじゃない。
気を良くした私もにっこりと微笑んだ。
「任せてちょうだい」
廊下の奥から大きな体をした騎士が手をブンブンと振ってくる。
まさか私たちに振っているのかと思わず後ろを振り返るが、間違いなく私とユーリ王子に振っているようだ。
ユーリ王子は慣れた様子で、微笑みながら大きな体をした騎士に手をふり返している。
「ロベール騎士団長だ」
「どうりで体が大きいわけね」
金髪のロベール騎士団長の騎士服は筋肉で膨れ上がりいまにも破裂しそうだ。
「やっと本物の呪物鑑定士がやってきたか。待っていたぞ!」
ロベール騎士団長は嬉しそうにいうと私を見つめる。
「やたら美人なお嬢さんだが大丈夫か?」
私の顔を見て不安そうにいうが、ユーリ王子は頷いた。
「大丈夫だ。ロゼッタは伯爵令嬢であり、異国で呪物鑑定士の資格も取得している」
「本当か?資格を持っているってやつが前に来たけれど偽物だったじゃないか」
ぼやくよういう騎士団長に私は鼻で笑う。
「結構偽物がいるのよね。呪物鑑定士っていう名前が一人歩きしていて、この国では詐欺がやりたい放題よ。私が修行した国はちゃんと資格証明書を発行していたわ」
私が持っていた小さなカバンから銀のプレートに刻印されている呪物鑑定士の証を取り出した。
それを2人に見せる。
「これと同じ物をそいつも持っていたよ」
ロベール騎士団長は私が持っているプレートを見てユーリ王子に確認するように言った。
王子も頷いている。
「持っていたからすっかり騙されたな。よく調べたらわが国から修行に言ったのはロゼッタ1人だけだ。そしてこの資格証は数字が振ってありこれを本部に確認をして照合をすると偽物かどうか判明するようだ」
「めんどくせー。一体何日かかるんだ」
うんざりした様子の騎士団長に私は偉そうにプレートを差し出す。
「どうぞ。照合してください。本部からすぐに返信が来るから。参照してくれるとこっちも助かるわ、師匠なんて私が毎日遊んでいて呪物鑑定士の仕事をしていないと言っているらしいし」
「なるほど、俺が預かっても構わないだろうか」
ユーリ王子の申し出に私は頷いた。
「できれば、イジベル師匠宛にも一筆書いて欲しいわ。ロゼッタはお城の仕事を請け負いましたよって」
私がいうとユーリ王子は真面目に頷いた。




