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冷めた瞳をしているユリアナ様をみていると背筋がゾクゾクしてくる。

呪物が側にある時のような感覚に思わず身慄いをする。

ユーリ王子とイグナート様の微笑ましい様子から想像できないぐらいユリアナ様の二人を見る目は冷たい。

無表情にユーリ王子を見つめている。


違和感を感じている私にイグナート様が静かに言った。


「母上の子供を思う気持ちは死んでも残っているらしい」


「えっ?」


私とユーリ王子の声が重なった。

イグナート様は皮肉めいた笑みを浮かべる。


「兄上どうかしましたか?」


ユーリ王子がゆっくりと聞いたと同時に、イグナート様の胸のペンダントの輝きが増した。

一瞬大きく輝いたかと思うと、イグナート様の左手の薬指が大きな音を立てて弾けた。


パンという大きな音に外にいた騎士団長と騎士数人が部屋に入ってくる。


「どうした?」


野太い声を出す騎士団長に、私は早口に説明をする。


「イグナート様の指輪が弾け飛んだわ」


「兄上、大丈夫ですか」


私の声とユーリ王子の声が重なった。


ユーリ王子はイグナート様の左手の指が怪我をしていないことを確認してホッとしている。


「弾け飛んだ音にしては派手だったぞ」


団長はそう言いながらイグナートの無事を確認して部屋の様子を観察している。

私も何か異変を感じて視線を彷徨わせてユリアナ様で止まった。


ユリアナ様に違和感を感じるのだ。


派手な音を立てて指輪が弾け飛んだにも関わらず無表情に座っている。

心のご病気といえども何か変だ。

騎士団長はゆっくりと動くと私に目配せしてきた。


確かに、ユリアナ様は怪しい。


騎士団長は万が一のためにユリアナ様が変な行動をしないように背後へと立った。


しばらく指を見つめていたイグナート様はなぜか声を出して笑い始める。


「なるほどな。ユーリ、お前のおかげだ」


「えっ?」


イグナート様はユーリ王子の頭を乱暴に撫でてからユリアナ様を睨みつけた。

イグナート様に睨まれてもユリアナ様は無表情だ。


「ユリアナ、お前俺の指輪に何かしただろう」


弾け飛んだのは左手薬指、結婚指輪だ。

ユリアナ様の白く細い左手薬指にも弾け飛んだ指輪と同じデザインの指輪がはまっている。

イグナート様に睨まれて無表情だったユリアナ様の指輪から黒いもやがうっすらと見えた。


目を凝らしている私をちらりと見てイグナート様が鋭い声をだす。


「数日前にユリアナに指輪を貸した。あの時に何か仕掛けたのか?」


そう問われてもユリアナ様は無表情にイグナート様を見つめている。


「兄上……」


ユーリ王子が心配そうにイグナート様の手を握ろうとしてイグナート様に叩かれる。


「兄弟で手を握り合うほどの年じゃないだろう」


イグナート様はニヤリと笑ってしゅんとしているユーリ王子の肩に手を置いた。

ユーリ王子を支えにしてイグナート様はベッドから降りると立ち上がる。


しっかりとした足で立ち上がったイグナートを見てユーリ王子の顔が喜びに変わる。


「兄上!治ったんですね」


「指輪が弾けたからだ。あの指輪が呪物の可能性がある」


そう言って私を見つめてくる。

イグナート様の指輪が弾けるまで呪物の気配は全くしなかった。

私は狼狽えながらユリアナ様の左手薬指を見つめた。

金色の指輪は黒いモヤがかかっている。

明らかに呪物だ。


「その結婚指輪精巧に作られた呪物ですね」


静かにいうと、ユリアナ様は儚く笑う。


「呪物じゃないわ。おまじないよ」


「おまじない?」


呟いたユーリ王子と目を合わせる。


「……一体なんのおまじないだ。イグナート様が歩けなくなりますようにって願ったのか」


ユリアナ様の後ろに立っている騎士団長が低い声を出した。

彼なりに誠意いっぱい優しさを出そうとしているようだが、威圧的だ。


それを気にすることなくユリアナ様は落ち着いている。


「そうね、そうかもしれないわ。彼の足が動かなくなればずっと私のそばに居るもの」


「どういうこと?」


私が聞くとユリアナ様は美しく微笑んだ。


「ずっと一緒にいられるでしょう?イグナート様と」


そう言ってうふふっと声を出して笑う。

ユーリ王子は顔を顰めてユリアナ様を見つめている。


「兄上と結婚したのだから、一緒にいられるだろう?」


「いいえ違うわ。イグナート様は忙しいもの、足が動かなくなれば私とずっと一緒にいられる、そうすれば赤ちゃんも来てくれるわ」


「子供が欲しいからイグナート様に、おまじないをかけたの?」


私が聞くとユリアナ様は嬉しそうにニコニコとしている。


「そうよ。子供がいない私なんてなんの価値もないわ、そう価値がないの。ずっと前からおまじないをしていたけれどやっと最近効果が出てきたのに」


ユリアナ様は目を見開いて呟いた。

左手の指輪から出ている黒いモヤはますます多くなりユリアナ様にまとわりついている。


「ユリアナ様、結婚指輪を外して!よくない感じがするわ」


ますます濃くなってくる黒いもやに焦る私とは対照的にユリアナ様はおっとりとした仕草で左手を掲げた。


「指輪を外す?とんでもないわ。これを外したらイグナート様の妻でなくなってしまうわ」


「そんなことないわ!指輪に取り込まれてしまうわ」


指輪から出ていた黒いモヤはユリアナ様を隠すぐらい濃くまとわりついている。

呪物から発せられる空気の重さに息苦しい。

荒く呼吸をしている私の手をユーリ王子が掴んだ。


「何が起こっている?」


「黒いモヤがユリアナ様の全身を包んでいるわ。絶対に良くないものよ」


ユーリ王子はそのまま私の手を力強く握ってくれた。

そのおかげか呼吸が楽になり、呪物の重圧も全く感じない。


「私は絶対に指輪を外さないわ」


黒いもやが天井まで上がる。

私はユーリ王子の腕に抱きついて天井のモヤを見上げた。


騎士団長もイグナート様も同時に天井を見上げている。

黒いもやはそのまま下へと降りるとユリアナ様の口に吸い込まれていった。



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