17
「おい、何いちゃついてんだ」
大きな音を立ててドアが開いたかと思うと騎士団長の野太い声が聞こえて私は目を開けた。
どうやらいつの間にか寝てしまったようだ。
重い瞼を開くとユーリ王子の顔が近くにあり驚いてのけぞった。
ソファーから落ちそうになりユーリ王子が支えてくれる。
「えっ、わたし、何してたんだっけ?」
ユーリ王子の膝の上に乗って寝ていたようだ。
なんてことをしてしまったのだろうかと思うと同時に、好きな人と密着しちゃったと顔が赤くなる。
騎士団長は私を冷たい瞳で見下ろしている。
「青ざめたり、喜んだり、わかりやすいなぁ」
「ロベール騎士団長、何かあったのか?」
ユーリ王子は私を抱きしめながら聞いた。
騎士団長は私たちを怪訝な目で見つめつつ頷く。
「一応報告だ。櫛を送った侍女は命に別状はないが、正気を失っていて話もまともにできねぇ状態だ。しばらく様子を見たのちに遠くの病院へ送られるだろう」
「よかったね、ロゼッタ。彼女は死んでいないって」
鈍感王子が喜んでくれるが内心複雑だ。
私が彼女を再起不能にさせたわけではないが、後味は悪い。
「それから、例の呪物はもう焼いて灰にしておいた。骨董屋に品卸をしていた綺麗な女性についても捜査をかけたからそのうち見つかるだろう」
「ありがとうございます」
私がお礼をおいうとロベール騎士団長は頷いた。
「ロゼッタ嬢はお疲れのようだが、お屋敷に帰るか?それとも城に泊まるか?」
騎士団長のまさかの言葉に私が答えるより先にユーリ王子が頷いた。
「泊まれば?帰るのも辛いだろう?」
「いや、ユーリ王子のおかげでなぜか体は楽だから帰りたいけれど」
彼とくっついていたおかげだろうか、体力も気力も元に戻っている。
今更屋敷に帰ってもすでに夜中だ。
どうせ明日も城に来ることを考えると家に帰るのが面倒に思えてきた。
「そうね、泊まらせてもらうわ」
「ユーリ王子とは別室だぞ」
ロベール騎士団長が釘を刺すような言い方をして私は頷く。
「当たり前じゃない。私がそんなこと望むと思う?」
王妃の座を狙っている令嬢と思われているのだとしたら心外だ。
私がいうとロベール騎士団長はユーリ王子を指差した。
「違う、ユーリ王子に言ったんだ!」
「残念。ロゼッタと同じ部屋で寝たかったなぁ」
「はぁ?そんなこと、許されるはずないでしょ」
顔を赤くしていう私にユーリ王子は楽しそうに笑った。
用意してもらった客間で寝たのは夜中過ぎだった。
重苦しい呪物の気配がある中で眠れるのかと心配したが、無用だった。
ベッドに横になったらあっという間に眠たくなってくる。
ユーリ王子の部屋はどこなのだろう。
彼に抱きしめられたんだったわ。
あれは何だっだろうか。
ユーリ王子の温もりを思い出して幸せな気分に浸りながら眠りについた。
「ロゼッタ、ロゼッタ!」
ユーリ王子のことを考えていたからか、彼の声が聞こえる。
やたらリアルな夢だ。
ゆさゆさと体を揺さぶられて私は飛び起きた。
「やっと起きた」
ベッドに寝ている私をユーリ王子が見下ろしていた。
「ど、どうしてユーリ王子が?」
オロオロする私にユーリ王子の背後から侍女が困ったように説明をしてくれる。
「お止めしたんですよ。でも、大丈夫だからって言われまして……」
申し訳なさそうに言われて私は手を振った。
「なるほど、大丈夫じゃないけれど、大丈夫よ。かなり驚いたけれど……」
寝起きの姿をユーリ王子に見られるのは勘弁して欲しい。
それでも鈍感王子は寝起き姿を気にする様子もなく珍しく真剣な顔をしている。
「ロゼッタ、兄上の足が動かなくなった」
「ん?イグナート様が?」
もっとすごい事件でも起こったのかと思ったが、イグナート様の事かと私は緊張をといた。
「足が動かないなんて、もしかしたら呪いのせいかもしれない」
お兄様大好きなユーリ王子は心配なのだろう。
真剣な顔をして私の手をとって歩き出そうとする。
「待って!まだ身支度できていないから、ちゃんと様子見に行くわよ」
「いますぐ見て欲しいんだ」
「無理無理!寝起きの姿で王太子に会いに行くなんてできるはずがないでしょう」
王太子に寝たままの姿で会いに行くなど失礼にも程がある。
侍女と私の説得にユーリ王子は渋々承諾して別室で待機してくれることになった。
私の身支度を手伝ってくれている侍女が心配そうに聞いてくる。
「あの、呪いの影響があるんでしょうか」
「イグナート様のおそばに呪物がある気配はしなかったけれど……」
安心させるように私は言ったが侍女の顔色は悪い。
「そうですか。私、このお城の空気が本当に辛くて。重苦しい嫌な感じですよね、最近は特に酷いんです」
「確かに、重苦しい空気よね……特に城の裏、円形の塔が嫌な感じね」
私がいうと侍女は嬉しそうだ。
「ですよね!わかります!良かった、やっぱり私の体がおかしいのではないんですね」
「大丈夫よ。ユーリ王子は何も感じないようだけれど、ロベール騎士団長はかなり感じているようよ」
「あぁ、ユーリ王子は鈍感って有名ですから……」
侍女は遠い目をして呟いた。
身支度も終わりユーリ王子と合流する。
「さっきと全然変わっていないじゃない」
寝巻きからドレス姿になった私をみてユーリ王子は不満そうだ。
大好きなお兄さんの危機に今すぐ私を連れていきたいのはわかる。
「変わっているわよ!お化粧をして、髪の毛を整えて、素敵なドレスを着ているでしょう。これなら王太子のお見舞いに行けるわよ!」
「俺にはそうそう変わっているように見えないけれど」
ユーリ王子はそう言って私の手を取って引っ張って歩き出した。
半ば引きづられるように早足出歩きながらユーリ王子に私は小言を言う。
「女性に向かって変わっていないは失礼よ。せめて綺麗に着替えたねぐらい言ったらどうなの。だから鈍感王子とか言われるのよ」
「ロゼッタはどんな時でも美人だから大丈夫だよ」
嬉しい一言に私は黙ってしまう。
嬉しいのだが、どこか釈然としない気分でユーリ王子に引っ張られながらイグナート様の部屋へと向かった。




