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「俺が代わって出来ればいいんだけれど」


ユーリ王子はそう言って私の手をギュッと握る。

いつもと変わらない場違いなユーリ王子の言葉に私の恐怖が少しだけ薄れた。

握られたユーリ王子の手のひらから温もりと同時に心が満たされてくる。

不安と恐怖が無くなりユーリ王子を見上げた。


「ユーリ王子のおかげで大丈夫そうだわ」


「それはよかった。一緒にやるよ」

「一緒に?」


驚く私にユーリ王子は微笑む。


「能力はないけれど、俺も一緒にやるよ。そうすれば全部俺の責任にしていいから」


何も言っていないのに私が不安になっているのがわかるのだろう。

呪物返しをすれば相手にもその報いがくる。

それがどうなるかは私にはわからない。


「ありがとう。櫛を出してくれるかしら」


ユーリ王子はポケットにしまっていた櫛を取り出した。

私は小瓶を取り出してユーリ王子の手のひらにある櫛に水を振りかける。

黒いモヤを発していた櫛はピキピキと嫌な音を立てる。


「呪物を封じるわ」


呪文が書かれた札を取り出して私は宣言をした。

大きく息を吸い気持ちを整える。

ユーリ王子の片方の手をぎゅっと握った。


大丈夫、私はプロの呪物鑑定士。


ユーリ王子の青い瞳が私を勇気づけるように見つめてくる。


大丈夫。

何度も心に念じて櫛に封印の紙を貼り付けた。


一瞬の静寂の後、櫛から女性の悲鳴のような音が鳴る。


「これは?」


流石のユーリ王子も驚いて櫛を凝視している。


「溜まっていた念が、呪っていた本人に帰っていくのよ」


きっと私にしか見えないのだろう。

悲鳴をあげている櫛から黒いモヤがでて、それが真っ直ぐに女性の元へと向かう。

騎士団長に拘束されている女性の口へと黒いモヤが吸い込まれいく。

目を見開いたまま女性は大きく口を開いて動きを止めた。


ぴくりとも動かなくなった女性を見て騎士たちが聞いてくる。


「し、死んだんですか?」


「いや、生きている」


騎士団長はそういうと、拘束していた女性から離れた。

虚な目をしている女性の開けたままの口からヒューヒューと呼吸音がしている。


「黒い煙みたいなのが口に入っていったな」


騎士団長の声が部屋に響いた。


騎士団長には黒い煙が見えていたのだ。


「呪ったら、自分に返ってくるのよ」


小さく言う私の手をユーリ王子がぎゅっと握ってくれた。


「自業自得だよ」


私を励ますようにユーリ王子は言ってくれるが私は首を振る。


「呪いができるような道具を売った人が一番悪いわ。誰でも心に弱さはあるもの」


呪い返しをした過去を思い出す。


辛い私の心情が伝わったのかユーリ王子は背中に手を回してくれた。


「少し休もう、もう剣は問題ないんだろう?」


「そうね。封印の紙を剥がさない限り大丈夫よ」


大元の怒りを持っている剣の持ち主をどうにかしないと剣の呪いは無くならない。

きっとこの場にいる誰もが思っているだろう。


城を支配する重苦しい空気。

それを支配しているのは血濡れのラヌシスだ。

きっと彼はまだ人を殺したいと思っているに違いない。


団長に許可をとって私はユーリ王子に掴まりながら城へと戻った。







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