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剣を持ち去った侍女の部屋へと向かう。

階段を駆け上がり、一番奥の部屋へと向かう。

騎士団長とユーリ王子は剣を抜いて部屋を覗き込んだ。

私もユーリ王子の背中越しに中を見る。


夕陽に照らされた部屋のベッドの上で髪が乱れた女性が座っていた。

疲れた表情を浮かべて私たちに視線を向ける。


「剣はどこにやった」


騎士団長が大きな声で言った。

女性はゆっくりと首を傾げると顎で部屋の隅を指す。


「そこにあるわ」


女性は抑揚のない声で答えた。


部屋の隅には演習場にあった大剣が置かれていた。

鞘からは抜けており、剣本体が床の上に転がっている。

騎士たちが勝手に動いていたと言っていたが今は静かになっている。

私が封印をした紙は外されていた。


「……剣にやる気が感じられねぇな」


騎士団長が気が抜けたように言った。

私も頷く。


「殺すっていう強い意思がないわね。今ならなんとかできそう」


封印の紙を取り出してギュッと手に握る。

私が封印しようとしている気配を感じてユーリ王子は剣を握り直した。


「俺の影に隠れなら剣のそば寄ろう」


「ありがとう」


本来ならユーリ王子を盾になどできないが、今は一刻を争う時だ。

ユーリ王子の影に隠れながらジリジリと剣に近づいていく。

騎士団長もベッドに座っている女性を捕まえようと一歩踏み出した。


ただの剣になっている大剣にあと一歩まで近づいた。

呪物の気配を全く感じずただの剣だ。


「どうしたのかしら。普通の剣だわ」


呪物の気配を感じず気構えていたが平気そうだ。

封印の普段を貼ろうとユーリ王子から離れた。


念を込めて紙を手にして紙を貼ろうと近づけた途端、剣が大きく動いた。

意思があるように勢いよく大剣は浮き上がると私めがけて飛んでくる。

殺意という意志を持った剣の呪物の意志を感じ恐怖で身動きができない。


胸を貫かれると覚悟を決めた私の視界にユーリ王子の背中が見えた。


飛んでくる大剣をユーリ王子の剣が弾き飛ばす。

弾き飛ばされた剣はまた意志を持ったように私たちに向かって飛んでくる。

ユーリ王子は軽く剣で受け止めると大剣の柄を左手で掴んで壁に押さえつけた。


「ロゼッタ!今のうちに紙を貼ってくれ」


「わ、わかったわ」


呆気に取られていたがユーリ王子の声にハッとして持っていた封印の紙にもう一度念を送る。


ユーリ王子が押さえ込んでいる大剣に封印の札を貼った。


「どう?できた?」


ユーリ王子は剣を抑え込みながら聞いてくる。


「多分、ちゃんと封印できたと思う。今は何も感じないわ」


大剣に襲われた恐怖を思い出して心臓がまだバクバクしている。


「大丈夫だろ!その剣から何も感じなくなった」


騎士団長の野太い声にわたしは振り返った。


ベッドの横の床の上で女性の両手を騎士団長が拘束していた。

女性の顔は生気がなく無表情だ。


「どうして大剣をここに持ってきたんだ」


尋問するように騎士団長が聞いた。


「だって、剣が可哀想だもの。誰かに恨みを持っているのならそれをやり遂げさせないと報われないわ」

「はぁ?」


理解ができないと言うように騎士団長が大きな声を出した。


「あなた、ユリアナ様の侍女に櫛を送ったでしょ?あの櫛がどう言うものか知っているの?」


わたしが聞くと、女性は初めて薄く微笑む。


「あれは願いが叶う櫛なのよ。だから今病気で寝込んでいるんでしょ?結婚はできないわ、あのまま死ぬもの」


嬉しそうに笑う女性は狂気に満ちている。

女性を押さえ込んでいる騎士団長は顔を顰めた。


「願いって……お前が呪ったんだろう?」


騎士団長が聞くと女性は声をあげて笑った。


「そうよ。だって、私だって彼のことが好きだったんだもの。それなのに私と結婚してくれなかった。あの子が病気だから私と結婚して欲しいって言ったら無視されたわ」


「そもそも付き合ってねぇんだろが」


呆れたように言う騎士団長に女性は不思議そうに首を傾げる。


「だって、私の方が今は健康だもの。おまじないで私と結婚できますようにって願ったわ。ほら、これがそのネックレスよ」


首から下げている大きな石がついたネックレスを見つめる。

骨董屋から買ったのだろうが、残念ながらネックレスからは呪物の嫌な感じがしない。

本物の骨董品なのだろう。


「それはただのネックレスよ。なんの効果もないわ」


私が言うと女性は首を振った。


「だって、あの骨董品やから買ったのよ」

「そんなことを簡単にしてはダメよ。人を呪うと言うことは、自分も何かを差し出すと言うことよ。みんな少し、様子がおかしくなるの」


私が言うと、騎士団長が鼻で笑った。


「気がおかしくなるんだな。まともな神経していないぞこの女」


「私は呪物鑑定士としてあなたが呪った櫛をそのままにしておけないの」


私はゆっくりと言った。

ユーリ王子が心配そうに見ているのがわかり、私は彼の袖口を握る。


「あの女はもう死んだ?」


目を見開いて高笑いをする女性に入り口で見ていた騎士たちが顔を背けた。


「狂ってやがる」


「あなたは呪った報いを受けないといけないの。呪をかけると言うことはそう言うこと」


ゆっくりと私が言うと女性は狂気的に笑った。


「私が報いを受けるのはおかしいじゃない。だって私は何も幸せじゃないもの」


話にならないと私は首を振ってユーリ王子を見上げた。


「櫛を出してくれる?」


「大丈夫?」


心配そうなユーリ王子に私は小さく首を振る。


「無理かもしれない。怖いわ……」


呪物返しをした日を思い出す。


封をした辛い記憶。


ユーリ王子の温かい大きな手が恐怖で震えている私の指先を包んだ。





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