13
私たちは、騎士の先導で櫛を送った侍女の部屋へと向かう。
赤絨毯が敷かれている長い廊下を走る。
疲れ果てている私をユーリ王子は引っ張っていってくれるがそれでも追いつくのやがっとだ。
息を切らして走ってそのまま城の外へと出た。
「嘘でしょ、侍女の人はどこにいるのよ」
まさか、城の外へ出ると思わず文句を言う私に先導する騎士が答えてくれた。
「寮です!寮は城の裏に建っているんです」
「そんな走れないわよ。ただでさえ、この城の敷地内は空気が重くて息苦しいのに」
ぼやく私に、なぜか騎士団長が同意してくれる。
「わかるぞ。俺も呪いの剣がある部屋では思うように体が動かんからな。城の重い空気もわかる、さぞ辛かろう」
騎士団長は意外と呪物鑑定士並の能力があるのかもしれない。
だから初期から私に協力的だったのかと納得する。
重い空気の中で息切れしている私をユーリ王子が抱き上げた。
「ひえぇぇ」
驚いている私を平然とと抱き上げてユーリ王子は息切れもせず走り続ける。
「このほうが楽だろう。早く到着するし」
ユーリ王子に抱き抱えられるのは恥ずかしくて顔が赤くなってくる。
私をからかうわけでもなく騎士団長は頷いている。
「体力を温存しておけ。呪物鑑定士は、出番があるからな」
ユーリ王子に抱き上げられながら寮へと辿り着いた。
すでに到着していた騎士たちが周りを囲んでいる。
ユーリ王子に抱き上げられている私を見て手を合わせてきた。
「やっと来た!大変なんですよぉ」
「どうなっている」
騎士団長が大きな声で聞くと騎士たちは一斉に話し出した。
「呪われたあの剣を侍女が持っていたのを確認しましたが、近づけないんです」
「剣についていた封印の紙を取ったみたいなんですよ!剣が暴走しているんです」
「剣が襲ってくるんですよ!俺たち怖くて近づけません」
ワーワーと一斉に話す騎士たちに騎士団長は手で制する。
「わかったわかった!要するに大変だってことだな。っていうか、剣が襲ってくるって?」
「呪いの剣が勝手に動いて俺たちを殺そうとするんです」
「そんなことあるかな?」
興奮している騎士たちと対照的にユーリ王子は落ち着いている。
いつもと変わらない様子のユーリ王子を騎士たちは訴える。
「見たらわかりますよ!」
「剣が勝手に動いて飛んでくるんですよ!鈍感なユーリ王子だって呪いの剣の存在を理解できますから」
私を降ろしながらユーリ王子は片眉をあげた。
「別に信じていないわけじゃないよ。剣が殺しに来るから近づけないなんて……ねぇ?」
同意を求めるように見られて私も肩をすくめた。
「確かに意思を持って動く呪物は見たことがないわ。でもあの剣の怒りのパワーならあるかも」
そう言って私はハッとする。
「もしかして、血濡れの王ラヌシスの剣だったってことはない?」
私が言うと騎士達の顔が青ざめる。
「あり得ますね!あのパワーと意味不明な動きと攻撃力!ってことは血濡れの王が怒っているってことか」
「成仏していないのか?この重い空気は血濡れ王の呪い?それじぁ、勝てないよ」
弱気な騎士たちに私は励ましの言葉をかける。
「大丈夫よ。死んだ人間よりも生きている人の方が強いから。弱気になったらダメよ」
「いやいや、呪物化していてもかなりの強さで俺たち近づけないです。殺されます」
「よっし、ならば俺たちが先導して入るか」
ロベール騎士団長はユーリ王子と私に目配せをする。
ユーリ王子が一緒なのは私は嬉しいが、騎士を差し置いて王子が第一線で動いてもいいのだろうか。
不安そうな私の顔を見てユーリ王子はニヤリと笑った。
「もしかして俺が頼りないと思っていない?」
「……思っていないわよ」
鈍感なユーリ王子が剣の腕がいいわけがない。
そんな私の思考を読み取ったのかユーリ王子は肩をすくめる。
「大丈夫だよ。剣が襲ってきてもちゃんと守るから信じて」
「信じているわよ」
最悪騎士団長がいるから大丈夫だろう。
引き攣った笑みを浮かべて私は頷いた。
「信じていないようだけれど……。現場に向かおう」
ユーリ王子に言われて私と騎士団長は頷いた。
騎士団長を先頭にユーリ王子、私と並んで寮へと入っていく。
私の遥か後ろから棋士たちが恐る恐るついてきた。
夕暮れ時ということもあり女子寮の中は薄暗い。
人の気配がない静けさに私は後ろを歩く騎士たちを振り返った。
「誰もいないの?」
「避難しました。本当にやばいんですよ」
訓練をしている騎士がやばいと言うほど呪いの剣が恐ろしいのか。
私は頷いて、もしもの時のためにユーリ王子の影に隠れた。
鈍感ななユーリ王子は間違いなく呪いの効果を受けない気がする。
彼の影に隠れていれば呪いの気を受けないだろう。
ユーリ王子の背に隠れるように歩いている私を見て騎士たちがコソコソと話している。
「王子を盾にしている」
「……鈍感王子だから呪いの影響を受けないとか?」
予想をしている騎士たちに私は心の中で大きく頷いた。
影に隠れている私をユーリ王子はチラリと見つめた。
「私じゃないわよ、鈍感王子なんて呼んでいるの」
慌てて言う私にユーリ王子は爽やかに笑う。
「わかっているよ。俺を盾にしてくれて構わないから」
「それは助かるわ」




