12 呪われた剣
「今日の午後に演習場から無くなったんだ」
騎士団帳は険しい顔をして私たちの前を歩く。
隣を歩くユーリ王子はいつもと変わらない表情だ。
どうして急に私を抱きしめたのかしら。
ネックレスが気になって近すぎすぎたのも悪かったけれど、絶対騎士団長に勘違いされている。
私だけ恥ずかしい気持ちになっているのも良くないと気持ちを切り替えるために大きく深呼吸する。
「午前は俺が確認している。俺はあの剣と相性が悪いんだ」
廊下を歩く大きな体の騎士団長に当たらないように侍女たちが上手に避けていく。
「剣に相性なんてある?」
ユーリ王子が面白そうにいうと騎士団長が睨みつけた。
「王子様は鈍感だからわからないだろうが、あの剣は常に人をぶっ殺したい言っていう意思があった。俺はあの剣を見ると背筋がゾクゾクして嫌な感じになるんだよ」
「何も感じないけれどなぁ」
ぼやくユーリ王子に私も首を振る。
「鈍感って羨ましいわね。でも剣はどこに行ったのかしら、誰かが移動させたとか?」
「演習場にあるものは俺の許可がないと移動はできねぇ。騎士たちはみんな怖がっていたから触ることはしないはずだ。考えられるとしたら城にいる侍女たちか……」
騎士団長の言葉にユーリ王子は歩きながら私に視線を向ける。
「なんで侍女が剣を持っていくんだろう」
「知らないわよ」
そう言いつつ、思いついたことがある。
「もしかしたら、剣を呪物化しようとしているとか。誰か特定の人を呪おうとしているとか……」
「そんなことできるの?」
ユーリ王子に聞かれて私は首を振る。
「できないわ、あの剣は死んだ人の念だから。骨董屋にあった呪物は人を呪うために作られた装置だから根本的に作りが違うのよ」
「そうなると、犯人は誰かを呪うために剣を移動させたということか。今剣を隠し持っているに違いねぇな」
険しい表情のままの騎士団長に私は聞いた。
「城の外に出ているかもしれないわよ」
「それはない。門から出るには荷物検査が必要だ」
「城の中ということか」
ユーリ王子が呟いた。
騎士団長と歩いていると、数人の騎士が走ってくる。
「見つかったか」
怒号にも似た騎士団長の声に騎士たちは萎縮しながら首を振る。
「発見できません。本当に侍女が持っているんですかねぇ。あの剣おっかないですよ」
「俺だって恐ろしい剣だと思っている!だから探しているんだろーが!ちゃんと探せ、全ての侍女に聞いて回れ!」
怒鳴る騎士団長を眺めながらユーリ王子は腕を組んで首を傾げている。
「あの剣を呪物として使おうとしているのなら、それを知っている人じゃないだろうか」
「呪物だって知っている人って言ったら、骨董屋で商品を買った人じゃない?」
私がいうとユーリ王子は意味ありげに微笑んだ。
「思い当たる人が1人だけいる。……ユリアナ様の侍女に櫛をプレゼントした人だよ」
「……確かに、もしその人が呪物だと知って贈っていたら可能性はあるわね」
私たちの会話を聞いていた騎士団長が威圧的に見下ろしてくる。
「どういうことだ、初めから説明しろ」
「ややっこしい話なのよ」
ユリアナ様の結婚が近い侍女が体調を崩して寝込んでいること、それは呪いの櫛が原因かもしれないことや街にあった骨董品屋を説明をする。
「よし。間違いなくその女が剣を盗んだ犯人だな。おいお前ら、そいつを探して連れてこい」
騎士達に命じている騎士団長にユーリ王子はまだ首を傾げている。
「でも、どうして親友なのに呪ったりするんだろうか」
不思議そうなユーリ王子に私と騎士団長は同時にため息をついた。
「これから鈍感は困るわ。親友が結婚って言ったら嫉妬したり、許せない置いていかれたとか思うものなのよ」
人差し指を立てて力説する私に騎士団長も頷いている。
「それか、ユリアナ様の侍女の結婚相手の男が二股かけていたとかも考えられるぞ」
「……ないとは言い切れないわね。人を呪うっていうのは意外となんてことない事だったりするのよ」
ユーリ王子は不思議そうにしながらも頷いてくれる。
「女性はいろいろあるんだね。ロゼッタも友達が結婚したら嫉妬したりするの?」
「そりゃ、するわよ。特に私なんて22歳の行き遅れ出し、呪物鑑定士なんて変なものを取得したからお見合いなんてないし同じ年ぐらいの子が結婚、出産したとか聞いたら仄暗い感情にもなるわ」
「なるほど、そこに呪物というものがあれば確かに手を伸ばしてしまうのもわかるな」
ユーリ王子が呑気に理解していると先ほど走っていった騎士たちが戻ってきた。
「見つけました。櫛を送った侍女、やはり呪いの剣と一緒にいました」
「よくやった。よしいくぞ」
私達に声をかけると騎士団長は走り出した。
ユーリ王子も私の手を引いて走り出す。
「やっぱり私も行くのね」
朝から忙しく動いて疲れはピークだ。
ユーリ王子に引っ張られながら私も剣を盗んだ侍女がいる場所へと向かった。




