1 ユーリ王子の依頼
「呪物鑑定士として召集ですって?絶対に嫌です。やりませんから」
私は目の前に立っている金髪の美形男性ユーリ王子にキッパリと言った。
ユーリ王子は困ったように頭をかくと手に丸めて持っていた紙を広げる。
「残念だが断ることができない。王室から召集がかかっているんだ」
「私が断れないように貴方が書いたのでしょ?」
見えるように広げられた紙にはロゼッタ・ウェントハースと私の名前が書かれている。
呪物鑑定として城への任務を命令するような文章の下にユーリ王子のサインがしてある。
そう、私は我が国に1人しかいない呪物鑑定士なのだ。
幼い頃、人の念のようなものが感じ取れる繊細な子供だった。
あの場所には行きたくない、あの石怖いなどと奇妙なことを言う私は他国に修行に出された。
人間が恨み、憎しみが込められた物。
悲しみや恨みが強いまま亡くなってしまった人が残したもの。
そう言った物を呪物と呼んでいる。
呪物が生きている人や場所に影響を与えることがある。
それを感知して治める事ができるのが呪物鑑定士なのだ。
なぜ私しかいないと言い切れるのは、呪物鑑定士という資格は我が国にはない。
お師匠さんの国にだけ存在する資格で、我が国でとっているのは私だけだ。
そして私は伯爵令嬢。
伯爵家でそんなおかしな資格を持たせるために修行に出す親もいないだろう。
そして伯爵家でもなければ海外に留学などさせる財力もないだろう。
たった1人しかいない呪物鑑定士だが私は仕事をしていない。
なぜなら伯爵令嬢だからだ。
腕を組んで私はもう一度ユーリ王子に偉そうに宣言した。
「絶対にやらないわよ!呪物関係はいっさいお断りよ!」
「それは困る。我が国が滅んでもいいのか?」
心底困った様子のユーリ王子に私は眉を顰めた。
「国が滅ぶ?どうしてそうなるのよ」
「城の中がおかしい。何人かの呪物鑑定士と名乗るやつに見てもらったが誰も現象を治めることができなかった」
ユーリ王子の言葉に私は腕を組んだまま頷く。
「そりゃーそうでしょうね。呪物鑑定士っていうのは私1人よ!」
「いろいろ調べてロゼッタ嬢しか居ないと判明した。お願いだ、城のおかしな現象を治めてくれ。兄が倒れそうだ、このままだと父も危ないかもしれない」
頭を下げる美形王子を見つめて私は唇を尖らせた。
私の後ろでハラハラしながら見守っつていた父親がついに口を出してきた。
「確かに城の中はここ最近ゾクゾクするし悪い雰囲気が漂っている。ロゼッタもたまには人助けだと思って協力してみたらどうだ?」
鈍感な父親がそこまで感じているのだ、よっぽど何かあるのだろう。
ユーリ王子が直々に私に依頼をするぐらいだ。
考えている私に、ユーリ王子は頭を下げたまま提案をしてくる。
「もし、協力してくれるのならお前の願いをなんでも叶えよう」
「願いねぇ……」
そんなものは特にないが、王子が直々に言ってくれているのだ。
貸を作って置くのも悪くない。
私は偉そうに腕を組んだまま微笑んだ。
「いいわよ。なんでも願いを叶えてくれるのならね」
「……善処しょう」
苦虫を噛み潰したようなユーリ王子に私は満面の笑みを浮かべた。
様子を見ていた父親が心配そうに呟く。
「ロゼッタ。お前は母親に似て美人なのだからあまり偉そうにしてはいけないよ、だから巷では冷酷令嬢と言われているんだよ」
「私、そんなこと言われているの?」
自分のあまりの言われようにギロリと父親を睨みつける。
「ほら、その視線だよ。怖いだろう、あとはお願いしても呪物鑑定をしてくれないって噂も流れている」
「私は死んだ人の念が入った呪物なら扱うけれど、生きている人が意図的に呪っている呪物は扱わないの。面倒だから呪物関係のお仕事はお断りよ」
父親を睨みつけてから王子に視線を戻す。
「で、どんな事があるの?私、やらないこともあるからはっきりさせてちょうだい」
王子は顎に手を置いて考えながら答えてくれる。
「そうだな、沢山ありすぎて……。まずは最近兄と父の体調が悪い。義理の姉も様子がおかしい。一部の侍女は女の鳴き声が聞こえるとか、人影をみたとか怖がってしまい仕事ができずに退職する者も出てきている。騎士団の中でも、剣が襲ってくるとか、剣が動き出して君が悪いとか……」
ずらずらと教えてくれるユーリ王子を私は手で制した。
「わかったわ!かなり異常な状況だってことが。城全体でおかしな現象が起きているってことね」
「そうだな。お願いできるだろうか」
城で起きていることを聞いて断ると思っているのだろう。
心配そうに聞いてくるユーリ王子に私はニヤリと笑う。
「とりあえず、城に行ってみましょう」




