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婚前交渉バトル、開幕! 〜結婚まで待てない令嬢 vs 待ちたい王子〜  作者: 胃袋まんげつ


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15/19

Round.15「朝日の誓いと、サファイアの指輪」

恋の戦いの果てに、ようやく訪れた夜明け──。

長く閉ざされていた心が、朝の光に解かれていきます。


罪と恐れを打ち明けた王子。

そのすべてを受け止めた令嬢。

そして、二人の絆は“誓い”という名の光へと変わるのです。


屋上庭園に咲く花々、青の指輪、温もりのキス。

それは、過去を赦し、未来を誓う朝の物語。


愛ゆえの戦いは、一時休戦──。

けれど、ここから始まるのは、もっと深く、甘い日々です。

 夜が明けると、世界は新しい顔を見せる。昨日までの暗闇が嘘のように、朝日が全てを照らし始める。

 翌朝、カミラは目を覚ました。

 カーテンの隙間から、金色の光が差し込んでいる。柔らかい朝の光が、部屋を満たしていた。

 窓を開けると、冷たい空気が頬を撫でる。昨夜の雨で洗われた庭園が、キラキラと輝いていた。


 空気が、澄んでいる。

 深呼吸をすると、草の匂いと花の香りが鼻腔をくすぐった。

 カミラは窓辺に立って、外を見つめた。


 昨夜、アシュランが全てを話してくれた。

 幼い頃の記憶。閉じ込めた罪。ずっと抱えてきた恐怖。

 彼の震える声が、まだ耳に残っている。

 あの時、彼の瞳には——深い悲しみがあった。


 でも、カミラは思った。

 彼を救いたい。

 あの人の心を、光で満たしてあげたい。


 鏡の前に立つ。

 今日は、どのドレスを着よう。

 クローゼットを開けると、色とりどりのドレスが並んでいる。赤、青、緑、白——。

 カミラは、クリーム色のドレスを選んだ。柔らかい色。朝日のような、優しい色。


 ドレスを身につけて、髪を整える。赤い髪を緩やかに編み上げる。鏡に映る自分が、少しだけ大人びて見えた。

「さあ」

 カミラは呟いた。

「会いに行きましょう」





 廊下を歩く。

 朝の王宮は静かだった。まだ多くの人が眠っている時間。けれど、窓から差し込む光が、廊下を明るく照らしていた。

 足音が、規則正しく響く。

 胸が、ドキドキと鳴っている。


 アシュラン様は、今頃どうしているだろう。

 まだ、昨夜のことを考えているのだろうか。

 それとも——。


 執務室の方へ向かおうとした時。

「カミラ」

 声がした。

 振り返ると——そこに、アシュランが立っていた。


 朝日を背にして、逆光の中に。プラチナブロンドの髪が、陽光に透けて輝いている。

 白いシャツにジャケットを羽織り、いつもより少しだけ柔らかい表情。


「アシュラン様……」

「おはよう」

 彼が微笑んだ。

 その笑顔が——昨夜とは違う。どこか軽やかで、まるで重荷を下ろしたような。


「探していたんだ」

 アシュランが近づいてくる。

「昨夜の君の言葉が……心から離れなかった」

「私の……?」

「ああ」


 アシュランは立ち止まった。カミラの目の前で。

「君は言ったね。『壊れるほど愛されるのなら、それは幸せだ』と」

 カミラは頷いた。

「本当にそう思っていますわ」

「そして……『あなたの全部を愛している』と」


 その言葉に、カミラの頬が染まる。

「それも、本当です」


 アシュランは、カミラの手を取った。

 温かい手。もう、震えていない。

「カミラ」

「はい」

「ついてきてほしい」




 アシュランがカミラを連れて行ったのは、王宮の屋上庭園だった。

 石段を上って扉を開けると——そこには、小さな庭園が広がっていた。


 朝日が全てを照らしている。薔薇が咲き誇り、噴水が静かに水を湛えている。風が吹いて、花びらが舞った。

「綺麗……」

 カミラは息を呑んだ。


「ここは、僕の秘密の場所なんだ」

 アシュランが言った。

「幼い頃、よくここに来ていた」


 噴水のそばに、ベンチがある。二人は並んで座った。

 朝の空気が心地よい。鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。


「カミラ」

 アシュランが、ゆっくりと口を開いた。

「僕は……長い間、自分を許せなかった」

 カミラは黙って、彼を見つめた。


「君を閉じ込めたこと。君を泣かせたこと。それが、ずっと心に重くのしかかっていた」

 アシュランの声が、朝の空気に溶けていく。

「だから、君に触れることが怖かった。近づきすぎることが怖かった」


 彼は空を見上げた。青い空に、白い雲が浮かんでいる。

「でも……昨夜、君は言ってくれた」

 アシュランがカミラを見た。

「『私は壊れない』と。『あなたを愛している』と。その君の言葉が、僕を救ってくれた」

「アシュラン様……」


「だから、僕は決めたんだ」

 アシュランは立ち上がった。

 そして——カミラの前に、跪いた。


「え……」

 カミラの目が、見開かれる。

 アシュランが、ポケットから小さな箱を取り出した。


 ベルベットの箱。それを開けると——そこには指輪があった。

 プラチナの台座に、サファイアが朝日を受けて青く光っていた。

 その周りを、小さなダイヤモンドが囲んでいる。


「カミラ」

 アシュランが、まっすぐカミラを見つめた。

「僕は、もう逃げない」

 その声が、朝の空気に響く。

「君を愛している。誰よりも。何よりも」


 カミラの胸が、高鳴る。

「僕の過去も、僕の弱さも、全部——君は受け入れてくれた」

 アシュランの手が、わずかに震えている。

「だから、今度は僕が誓う」


 彼の瞳が、揺るぎない決意に満ちている。

「君を幸せにする。必ず」


 風が吹いて、花びらが舞った。まるで、祝福のように。

「僕の妻になってください」


 その言葉が、カミラの心に沈んでいく。

 温かくて、優しくて——涙が溢れそうになる。


「カミラ」

 アシュランが、もう一度名前を呼んだ。

「僕と、一緒に——」

「はい」

 カミラは、迷わず答えた。

「はい、喜んで」


 涙が、頬を伝う。でも、それは——悲しみの涙ではない。

「あなたのすべてを受け入れますわ」

 カミラは微笑んだ。

「過去も、今も、これからも」


 アシュランの顔が、パッと明るくなった。まるで太陽が昇ったように。

 彼は立ち上がって、カミラの左手を取った。そっと、指輪を嵌める。

 サファイアが、朝日に輝いた。


「綺麗……」

 カミラが呟く。

「君に似合うように選んだんだ」

 アシュランが微笑む。

「サファイアは、誠実と真実の石だ。そして——」

 彼はカミラの手を握った。

「僕の瞳の色でもある」


 その言葉に、カミラの胸が熱くなる。

「いつでも、僕が君のそばにいると思ってほしい」

「アシュラン様……」


 カミラは、もう我慢できなかった。彼の胸に飛び込む。

 アシュランは、そっとカミラを抱きしめた。二人の体温が、混ざり合う。

 心臓の音が、重なる。


「ありがとう」

 アシュランが囁いた。

「君が、いてくれて」

「こちらこそ」

 カミラが答える。

「あなたに出会えて、幸せですわ」





 しばらくして、二人は離れた。

 アシュランが、カミラの頬に手を添える。その指先が、優しく肌を撫でた。


「カミラ」

「はい」

「君に、触れてもいいかな」

 その言葉に、カミラは微笑んだ。

「もう、許可なんていりませんわ」

「でも——」

「あなたは、私の正式な婚約者ですもの」


 カミラの頬が、ほんのり染まる。

「だから……好きにして」


 その言葉に、アシュランの瞳が揺れた。

 彼は、ゆっくりと顔を近づけた。

 カミラは目を閉じる。


 唇が、触れ合った。

 柔らかい感触。温かい吐息。

 舞踏会の夜のような激しさではない。

 優しく、静かに。誓いのキス。


 朝日が、二人を照らしている。

 過去の闇を、全て照らすように。


 アシュランの手が、カミラの背中に回る。

 カミラも、彼の首に手を回した。

 キスが、深くなる。

 けれど、まだ——穏やかだった。


 愛おしさが込められている。

 二人の心が、静かにひとつになっていくようだった。


 唇が離れ、二人は見つめ合う。

 アシュランの瞳が、優しく微笑んでいた。


「愛してる」

「私も」

 カミラが答える。

「ずっと、愛していますわ」


 その言葉に、アシュランがもう一度キスをした。

 短く、甘く。

 そして——もう一度。

 何度も、何度も。





 気づけば、太陽が高く昇っていた。

 庭園は、暖かい光に満ちている。


 二人は、ベンチに並んで座っていた。

 カミラは、左手の指輪を見つめている。

 サファイアが、キラキラと輝いていた。


「本当に、綺麗……」

「気に入ってくれた?」

「もちろんですわ」

 カミラが微笑む。

「一生、大切にします」

「それは困るな」

 アシュランが笑った。

「え?」

「だって、いずれもっと大きな指輪をあげたいから」

 その言葉に、カミラは頬を染めた。

「もう……」


 二人は笑い合った。朝の庭園に、笑い声が響く。

 風が吹いて、花びらが舞った。


「ねえ、カミラ」

 アシュランが、ふと真面目な顔になった。

「はい」

「結婚式までは……やっぱり、待ってほしい」

 カミラは頷いた。

「分かっていますわ」

「本当に?」

「ええ」

 カミラが微笑む。

「あなたが決めたことですもの」


 でも——。

 その瞳に、少しだけいたずらっぽい光がある。

「でも、キスは……いいのでしょう?」

 その言葉に、アシュランは笑った。

「ああ、それは……」

 彼はカミラの額にキスをした。

「いくらでも」


 二人は、また抱き合った。

 朝日が、優しく二人を包んでいる。


 婚前交渉バトル——ここに、一時休戦。

 だが、それは終わりではない。

 新しい戦いの、始まり。


 結婚式まで、あと数週間。

 アシュランの独占欲は、これから——さらに強くなっていく。

 そして、カミラも——もっと大胆に、彼を誘惑していく。


 二人の恋は、まだまだ続く。

 もっと甘く。

 もっと熱く。

 もっと——。


 屋上庭園から、城下町が見えた。

 人々が、朝の仕事を始めている。

 平和な景色。


 その中で、二人は——誓い合った。

 永遠の愛を。


 カミラは、アシュランの胸に頭を預けた。

 彼の心臓の音が、聞こえる。

 規則正しく、力強く。


「ねえ、アシュラン様」

「何?」

「幸せ、ですわ」

 その言葉に、アシュランは微笑んだ。

「僕も」

 彼はカミラを抱きしめた。

「君がいてくれて、本当に——幸せだ」


 空に、鳥が飛んでいく。

 白い翼を広げて、自由に。

 二人も、これから——一緒に飛んでいくのだろう。

 新しい未来へ。


 プロポーズの朝は、こうして幕を開けた。

 そして、次に待っているのは——。


 王子の独占欲が、エスカレートしていく日々。

 カミラを、一瞬も離したくない。

 そんな想いが、溢れ出していく。

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