美食の村の食神様
ガイアの村での事件解決から一週間後。パーティーは次の目的地、美食の村グルメットに向かっていた。
「美食の村って、どんなところなんでしょうね」
レイカが馬の上で期待に目を輝かせている。
「料理が美味しい村なんじゃない?」
ルナが推測する。
「名前からして、そうでしょうね」
アリスが同意する。
「うまい飯が食えるなら最高だ」
マーシャが豪快に笑う。
「レイカの評判、もうそこまで届いてるかもな」
ジャックが苦笑いを浮かべる。
王都から馬で5日。ついに美食の村グルメットが見えてきた。
「すごい...この村、料理のレベルが違います」
レイカが感激している。
他の村とは明らかに雰囲気が違う。あちこちから高級料理の香りが漂い、通りすがりの村人たちが皆、料理について話している。
「今日のスープの塩加減は...」
「あの店のパンが絶品で...」
「本当に料理好きの村ね」
アリスが感心している。
村の入り口で、上品な初老の男性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、旅の方々」
「村長さんですか?」
マーシャが聞く。
「フランチェスコ・グルメットです」
温厚で料理愛に満ちた雰囲気の60代男性だった。
「村長さん、とても良い匂いがしますね」
レイカが思わず口にする。
「?」
フランチェスコが困惑する。
「料理への愛情の匂いです」
「そう感じられます。神様が言ってました。『愛情は香りに表れる』って」
「...面白い方ですね」
フランチェスコが微笑む。
「当村は料理を愛する者たちが集まった村です」
フランチェスコが説明を始める。
「しかし最近、困ったことが...」
「どんな問題ですか?」
ルナが心配そうに聞く。
「料理のレベルが頭打ちになっているのです」
「頭打ち?」
ジャックが首をかしげる。
「みんな一定以上の腕前は持っているのですが」
「そこから先に進めない」
「伸び悩んでるってことか?」
「新しい発想が欲しいのです」
フランチェスコが悩ましげに言う。
村の中央には大きな料理広場があった。複数の料理人が腕を振るっている。
「わあ...まるで料理のテーマパーク」
レイカが感動している。
様々な料理の匂いが混じり合って、まさに美食の楽園といった雰囲気だ。
「村長、お客様ですか?」
現れたのは、45歳くらいの女性。料理人らしい白い服を着ている。
「こちらが当村の料理長、マリア・サポーリです」
「よろしくお願いします」
マリアが丁寧に挨拶する。
「こんにちは」
レイカが明るく応える。
「よろしければ、試食を」
マリアが提案する。
各料理人の自慢料理を次々と味見するレイカ。
「うまーーーい!」
「でも...」
レイカの表情が少し曇る。
「技術は完璧ですね」
「でも?」
マリアが心配そうに聞く。
「なんというか...安全すぎる味です」
料理人たちがざわめく。
「安全?」
「神様が言ってました。『完璧は時として退屈』って。それに前世でマーケティング部でバイトしてた時も同じこと感じました」
「また前世のバイトか」
ジャックがため息をつく。
「失敗を恐れて、冒険しない味になってる」
レイカが率直に分析する。
「冒険...」
マリアが考え込む。
「もっと自由に作ってみませんか?」
料理人たちが顔を見合わせる。
「でも、失敗したら...」
料理人Aが不安そうに言う。
「村の評判が...」
料理人Bも同様だ。
「神様が言ってました。『失敗は成功の調味料』って」
「また神様の格言が増えた...」
一同が苦笑いを浮かべる。
「今度は味見じゃなくて、一緒に新しい料理を考えませんか?」
「あなたが?」
マリアが驚く。
「作れませんが、味覚で方向性を示せます」
「面白い提案ですね」
フランチェスコが興味を示す。
料理広場の特別エリアで、実験料理が始まった。
「何から始めましょう?」
マリアが聞く。
「まず、この村で一番人気の料理は何ですか?」
「やはりクリームシチューでしょうか」
フランチェスコが答える。
「じゃあ、それをベースに冒険してみましょう」
マリアが村伝統のクリームシチューを作る。
「うん、美味しいです。でも予想通りの味」
レイカが率直に感想を述べる。
「予想通り?」
「前世でレビューサイトの運営をしてた時、『期待通り』って評価をよく見ました。それに神様が言ってました。『驚きは美味しさのスパイス』って」
「スパイスを一つ、普通じゃないものを入れてみませんか?」
レイカが提案する。
「普通じゃないもの?」
「例えば...チョコレート」
料理人たちが驚愕する。
「えええ!?」
「クリームシチューにチョコレート?」
恐る恐るチョコレートを少量追加する。
「いただきます」
レイカが一口飲む。
「...うまーーーい!」
「深みが出てます!こくと甘みが絶妙!」
料理人たちが慌てて味見する。
「本当だ...美味しい」
フランチェスコが感激している。
「これは革命的です」
「チョコレートがこんなに合うなんて」
マリアも驚いている。
「神様が言ってました。『意外な組み合わせに真実がある』って」
「今度はデザートに挑戦してみませんか?」
レイカが次の提案をする。
「どんな?」
「プリンにお醤油を一滴」
「今度は醤油!?」
料理人たちがさらに驚く。
恐る恐る醤油を一滴垂らしたプリン。
「これも...うまーーーい!」
「塩気がプリンの甘さを引き立ててます」
「すごい...」
村人たちが感動している。
次々と新しい組み合わせを試す料理人たち。トマトとバニラ、魚と果物。全て実験的だが、レイカの味覚で方向修正していく。
「この革新的な取り組みを、正式な研究会として発足させませんか?」
ルナが提案する。
「魔法料理研究会、正式発足ですね」
レイカが嬉しそうに言う。
「私も参加したいです」
エミリーが手を上げる。
「俺も協力する」
フランツも同調する。
「素晴らしいアイデアです」
フランチェスコが賛成する。
「これは...料理革命です」
マリアが感激している。
「新しい可能性が見えてきました」
「みんなで楽しく作ると、自然に新しいアイデアが生まれるんですね」
レイカが満足そうに言う。
「神様が言ってました。『創造は喜びから生まれる』って」
夕方になると、噂を聞いた村人全員が集まってきた。
「革新的な料理を生み出した人がいるって」
「食の新しい可能性を示してくれたって」
「なんか大袈裟になってきました...」
レイカが困惑している。
「村人の皆さん、今日は歴史的な日です」
フランチェスコが村人に向かって発表する。
「レイカ様が我々に新しい料理の世界を示してくださいました」
「あの、味見しただけで...」
「レイカ様!」
村人たちが声を上げる。
「レイカ様を我が村の『食神』として認定いたします」
フランチェスコが宣言する。
「食神様!」
村人全員が叫ぶ。
「え、ちょっと待って...」
レイカが慌てる。
「また巻き込まれてる...」
アリスがため息をつく。
村人たちが次々と料理を持参してくる。
「食神様、これを味見してください」
「私の料理にもご指導を」
「えー、そんなに食べられません...」
レイカが困惑する。
でも美味しそうな料理を前にすると、ついつい食べてしまう。
「うまーーーい!」
「やはり食神様は違う」
村人が感動している。
「神様が言ってました。『断るのも料理人への礼儀』って...でも美味しそうで」
「食神様に神殿を建てましょう」
村人Aが提案する。
「毎日お参りしたいです」
村人Bも同調する。
「そんな大袈裟な...」
レイカが困惑する。
「レイカ、諦めろ」
マーシャが苦笑いを浮かべる。
「神殿はいりませんが、定期的に遊びに来ます」
レイカが妥協案を提示する。
「本当ですか!」
村人たちが歓喜する。
「料理の新しい可能性を一緒に探求しましょう」
「ありがたいお言葉です」
フランチェスコが深々と頭を下げる。
「レイカさん、また新しい肩書きが...」
ルナが呆れている。
「毒見の天才、人間嘘発見器、そして食神か」
ジャックが数え上げる。
「本人が一番困惑してるのよね」
アリスが微笑む。
「神様が言ってました。『肩書きより心が大切』って...でも嬉しいです」
「それでは、食神として誓います」
レイカが改まって言う。
「!」
村人たちが固唾を呑む。
「美味しいものを食べて、みんなで幸せになりましょう」
「食神様ー!」
村人たちが大歓声を上げる。
「レイカ様、本当にありがとうございました」
フランチェスコが感謝の気持ちを表す。
「こちらこそ、美味しい料理をたくさん食べさせてもらって」
「また必ずお越しください」
マリアが頼む。
「はい。神様が言ってました。『また来たい場所こそ本当の故郷』って」
「また神様の格言が増えた!」
一同が苦笑いを浮かべる。
「でも今回の神様の知識、料理関係ばっかりですね」
ルナが指摘する。
「神様、料理のプロフェッショナルなんです」
レイカが誇らしげに言う。
「料理の神様だったのか...」
ジャックが納得する。
こうして、レイカは「食神」という新たな称号を得て、魔法料理研究会も正式に発足した。
料理を通じて世界を変える冒険は、ますます壮大になっていく。