大食い戦士と大食い勝負
ジャックが料理担当になってから二週間。パーティーの食事はさらに充実し、レイカは毎日幸せそうに「うまーーーい!」を連発していた。
そんな平和な朝に、新しい依頼が舞い込んだ。
「マーシャちゃんに指名依頼よ」
ローズが依頼書を手に微笑んでいる。
「私に?」
マーシャが驚く。
「故郷のガイアの村からです」
「どんな内容ですか?」
アリスが興味深そうに聞く。
「村の大食い大会で優勝者が行方不明になったの」
「大食い大会?」
ルナが首をかしげる。
「3人連続で消えてるそうです」
「それは不審ですね」
ジャックが眉をひそめる。
「ガイアの村か...懐かしいな」
マーシャが遠い目をする。
「マーシャの故郷なんですね」
ジャックが確認する。
「ああ。生まれ育った場所だ」
「どんな村なんですか?気になります」
レイカが興味を示す。
「山間の小さな村でな」
マーシャが説明を始める。
「食べることを大切にする文化がある」
「素敵ですね」
レイカが目を輝かせる。
「収穫祭の大食い大会は伝統行事だ」
「大食い大会...」
レイカの表情がさらに明るくなる。
「参加してみたいです」
「お前が?」
マーシャが驚く。
「神様が言ってました。『食べることは生きること』って」
「また神様の話?」
アリスがため息をつく。
「分かった。引き受けよう」
マーシャが決断する。
「みんなで行きましょう」
「村の料理、楽しみです」
レイカが嬉しそうに跳び上がる。
「...また食い物の話か」
ジャックが苦笑いを浮かべた。
ガイアの村まで馬で二日。山に囲まれた小さな村は、確かに食べ物の香りに満ちていた。
「いい匂いがしますね」
レイカが感激している。
「あちこちから料理の香りが」
超味覚が捉えるのは、様々な家庭料理の匂い。どれも愛情たっぷりで、丁寧に作られている。
「豊かな食文化を感じます」
ルナが理論的に分析する。
「マーシャ!元気だったか」
出迎えたのは、60代の温厚そうな村長だった。
「村長、お久しぶりです」
マーシャが懐かしそうに挨拶する。
「立派な戦士になったな」
「ありがとうございます」
「実は困ったことが起きていてな」
村長の表情が曇る。
「大食い大会の優勝者が3人も消えたんだ」
「いつからですか?」
アリスが詳しく聞く。
「先月から。みんな優勝した夜に姿を消した」
「消えた人たちの情報を教えてください」
ジャックが実務的に質問する。
「最初はガロン、次にベルタ、そして一週間前はダンテ」
「共通点は大食い大会の優勝?」
ルナが確認する。
「そうだ。みんな村一番の大食いだった」
「大食いの人が狙われる理由...」
レイカが考え込む。
「神様が言ってました。人が消える事件は利益が絡むことが多いって」
「利益?」
ジャックが首をかしげる。
「前世で興信所でバイトしてた時も、失踪事件は大体お金が絡んでました」
「また前世のバイトか」
マーシャが呆れる。
「大食いの人って、何か価値があるんでしょうか」
レイカが純粋に疑問に思う。
「...確かに変だな」
マーシャも同意する。
「今夜も大会がある」
村長が説明する。
「参加させてください」
レイカが手を上げる。
「君が?」
村長が驚く。
「囮になります」
「危険だぞ」
マーシャが心配する。
「でも、手がかりが必要でしょう」
レイカが前向きに考える。
「神様が言ってました。『空腹は最大の調味料』って」
「それに本当に大丈夫?」
アリスが心配そうに聞く。
「ジャックの料理で鍛えられてますから」
レイカが自信満々に答える。
夜になり、村の中央広場で大食い大会が開催された。
村人たちが集まって賑やか。大量の料理が用意されている。
「すごい量ですね」
レイカが圧倒されている。
「これがガイアの村の伝統だ」
マーシャが誇らしげに説明する。
参加者は村の強者たち5人とレイカ。
「新人のレイカさんも参加です」
司会が紹介する。
「頑張れー」
村人たちが声援を送る。
「それでは、大食い大会を始めます」
山盛りの料理が配られる。
「うわあ...多い」
レイカが困惑する。
「頑張れ、レイカ」
マーシャが応援する。
「神様が言ってました。『大食いのコツは順序』って」
レイカが戦略を練る。
「まず水分の少ないものから...」
意外にも戦略的に食べ進める。
「新人なのに上手いな」
村人が感心している。
しかし、食べながらレイカは料理を分析していた。
「この肉、普通の牛じゃないですね」
「何か薬草の味がします」
「前世で健康食品の販売をしてた時、こんな薬草を扱ってました」
アリスたちが緊張する。
「あれ?この味...」
レイカの表情が変わる。
「眠くなる薬草の味がします」
「前世で製薬会社でバイトしてた時に覚えました」
他の参加者たちがだんだん眠そうになってくる。
「みんな、この料理に睡眠薬が」
レイカが小声で仲間に知らせる。
「本当?」
アリスが小声で確認する。
「味覚で分かります。他の人は気づいてない」
「どうする?」
ジャックが聞く。
「とりあえず優勝してみます」
レイカが決意する。
他の参加者が眠気でペースダウンする中、レイカだけが正常なペースを維持。
「新人が強い!」
村人たちが驚いている。
ついにレイカが最後まで食べ切った。
「優勝はレイカさんです!」
司会が発表する。
「すごいぞ!」
村人たちが拍手する。
「やりました」
レイカが演技で喜ぶ。
深夜、レイカの宿に怪しい人影が現れた。
「よく食べたな。一緒に来い」
「誰ですか?」
レイカが演技を続ける。
「質問は後だ」
謎の男がレイカを連れ去る。
連れて行かれたのは、村はずれの食材倉庫。そこには消えた3人が眠っている。
「みんな生きてる...」
レイカがほっとする。
「当然だ。殺したりしない」
「俺は隣村の料理人、グルマンだ」
男が正体を明かす。
「大食いの連中を集めている」
「なんのために?」
レイカが聞く。
「新しい料理の実験台にするためだ」
グルマンが説明する。
「究極の料理を作るには、究極の味覚を持つ者が必要」
「大食いの連中は味覚が発達している」
「それで誘拐を...」
「研究のためだ」
グルマンが正当化する。
「でも、これ違法ですよね」
レイカが冷静に指摘する。
「料理の発展のためだ」
「神様が言ってました。『強制は美味しさを損ねる』って」
レイカが反論する。
「これは完全に誘拐罪です」
その時、アリスたちが駆けつける。
「レイカ!」
「グルマン、貴様か」
マーシャが怒りの声を上げる。
「マーシャ...」
グルマンが困惑する。
「こいつは隣村の料理人だ」
マーシャが説明する。
「昔から変わった奴だったが...」
「マーシャ...」
グルマンが懐かしそうに見つめる。
「お前も昔は大食いだったな。よく大会で競ったものだ」
「だからって誘拐は許さん」
マーシャが拳を握る。
「みんなを解放しなさい」
アリスが命令する。
「研究が...」
「料理は愛情が大切なんです」
レイカが優しく言う。
「強制的に実験台にしても、本当の味は分からないと思います」
「神様が言ってました。『楽しく作った料理が一番美味しい』って」
グルマンが考え込む。
「...」
「確かに、そうかもしれん」
「グルマン、正しい方法で料理を極めろ」
マーシャが諭す。
「分かった...すまなかった」
グルマンが改心する。
3人を解放し、事件は解決した。
「ありがとう、みんな」
村長が感謝の気持ちを表す。
「レイカ、よくやったな」
マーシャがレイカの肩を叩く。
「マーシャの故郷を守れて良かったです」
「お前は...本当にいい奴だ」
マーシャが初めて見せる優しい表情だった。
「神様がくれた能力、いろんなことに役立ちますね」
レイカが感慨深げに言う。
「また神様の話かよ」
ジャックが苦笑いを浮かべる。
「でも今回の神様の格言、多くない?」
アリスが疑問に思う。
「神様、いろんなこと知ってるんです」
レイカが当然のように答える。
「料理のことばっかりじゃない?」
一同が呆れる。
こうして、マーシャの故郷での事件は無事解決した。レイカの新しい神様知識パターンも確立され、大食い能力という意外な才能も発見された。
神様の教えは尽きることがなく、レイカの活躍もまだまだ続きそうだった。