魔法使いが料理に目覚めた日
街の東端へ向かう道中、ルナは歩きながら魔法の練習をしていた。
「最近、火魔法の制御がうまくいかなくて...」
「あ、そうだ。歩きながら火魔法の練習を...」
ルナが杖を構える。
「フレア!」
小さな火球が出現したが、すぐにコントロールを失って暴発した。
「きゃー!」
火球が道端の草むらに飛んで行く。
「ルナちゃん、その火魔法...」
レイカが興味深そうに見ている。
「どうしました?」
ルナが恥ずかしそうに聞く。
「料理に使えそうじゃないですか?」
「料理?」
ルナが首をかしげる。
「前世で中華料理店でバイトしてた時、強火で一気に炒める技を覚えたんです」
「なるほど...」
「魔法で火力調整できたら、完璧な料理ができそう」
レイカが目を輝かせる。
「確かに温度管理は重要ですね」
ルナが理論的に考え始める。
「今はエミリーちゃんの救出が先よ」
アリスが現実に引き戻す。
「あ、そうでした」
レイカが苦笑いを浮かべる。
やがて、「銀の匙」の看板が見えてきた。高級そうな料理店だが、なぜか客はまばらだ。
「すごく立派な店ですね」
レイカが感心する。
「でも、なんか静か過ぎる...」
超味覚が店内の重苦しい雰囲気を感じ取っている。
「いらっしゃいませ...何のご用で?」
出迎えたのは、威圧的な雰囲気を持つ50代の男性。料理人らしい白い服を着ているが、表情は厳しい。
「エミリー・ボルドーさんを探しています」
アリスが丁寧に説明する。
「知らんな」
フランツが素っ気なく答える。
「あの、この店の料理を味見させてもらえませんか?」
レイカが思い切って提案する。
「...客でもないのに」
フランツが眉をひそめる。
「お金払います。僕たち、お腹も空いてるので」
レイカが天然に答える。
フランツの表情が一変した。
「おい、お前女だろう。一人称が間違ってるぞ」
「え?」
「王国礼儀作法法で、同行者全員デコピンのお仕置きだ」
パシッ!パシッ!パシッ!パシッ!パシッ!
「痛っ!」「痛い!」「いてて!」「うわっ!」
4人が頭を押さえてレイカを睨む。
「レイカ!」
アリスが涙目で抗議する。
「だから私たち全員がお仕置きされるって言ったでしょ!」
「あ...すみません」
レイカがようやく事態を理解する。
「でも僕、平気でした」
「私よ!!!」
アリスが絶叫する。
「...何が食べたい」
フランツが呆れたように答える。
「オムライス、ありますか?」
レイカが注文する。
「...なぜオムライス?」
フランツが怪訝そうに聞く。
「エミリーちゃんが好きそうだから」
レイカが天然に答える。
「!」
フランツの表情が変わった。
「...作ってやる」
フランツが厨房に向かう。
「なんで急にオムライス?」
ルナが疑問に思う。
「前世でファミレスでバイトしてた時、オムライスは作り手の心が出やすいって料理長が言ってて」
「また前世の経験が...」
ジャックが苦笑いを浮かべる。
厨房から激しい音が聞こえてくる。
「バン!ガシャン!」
「すごい音ね...」
アリスが心配そうに見る。
「怒りながら作ってる音です」
レイカが分析する。
その時、ルナがまた魔法の練習を始めた。
「心配で集中できない...」
「フレア!」
また火魔法が暴発する。
「きゃー!また失敗!」
ルナが慌てる。
しばらくして、フランツがオムライスを持ってきた。見た目は完璧だが、レイカの表情が曇る。
「いただきます」
一口食べて、レイカが眉をひそめた。
「この味...」
「どう?」
アリスが心配そうに聞く。
「すごく怒ってる。でも、悲しんでもいる」
レイカが詳細に分析する。
「『なぜ来たんだ』って怒りと、『心配だった』って気持ちが混じってる」
フランツの表情が動揺する。
「...何が分かる」
「エミリーちゃんのこと、心配してるんですね」
レイカが優しく言う。
「!」
フランツが驚く。
「でも、何か隠してる」
レイカがさらに分析を続ける。
「...エミリーは確かに来た」
フランツがついに口を開く。
「やはり!」
ボルドーが身を乗り出す。
「でも、もういない」
「どこに?」
アリスが詰め寄る。
「あの子は...料理の才能がなかった」
フランツが重い口調で説明する。
「でも、諦めずに練習を続けた」
「私は...厳しく指導した」
「そして、昨日の朝...」
フランツの声が震える。
「『もう無理です』と言って出て行った」
「それきり戻らない」
「どこに行ったんだ?」
ジャックが鋭く聞く。
「分からない...」
フランツが苦しそうに答える。
その時、ルナが提案した。
「レイカさん、さっきの魔法料理の話...」
「今ですか?」
レイカが困惑する。
「エミリーちゃんを励ますために、何か特別な料理を作りませんか?」
「でも料理できませんよ」
「私の魔法と、レイカさんの味覚で」
ルナが目を輝かせる。
「それは...面白そうですね」
レイカが興味を示す。
「今はそれどころじゃ...」
アリスが困惑する。
「でも、エミリーちゃんが見つかったら、励ましになるかも」
レイカが前向きに考える。
「じゃあ、簡単なスープから」
ルナが提案する。
「火加減は指示します」
「分かりました」
ルナが杖を構える。
「もう少し弱く...今度は強く...」
レイカが細かく指示を出す。
「フレア・ミディアム!」
完璧な火加減で調理されたスープが完成した。
「うまーーーい!」
レイカが感動する。
「おお!」
一同が驚く。
「この味...完璧だ」
フランツも感心している。
「やりました!」
ルナが嬉しそうに跳び上がる。
「魔法と味覚のコラボレーション!」
レイカが興奮している。
「...エミリーにも食べさせてやりたい」
フランツが呟く。
「そういえば」
フランツが思い出したように言う。
「裏の小屋で泣き声が聞こえた」
「!」
一同が反応する。
「小屋に向かいましょう」
アリスが立ち上がる。
店の裏手にある小さな小屋から、確かにすすり泣く声が聞こえてくる。
「エミリーちゃん?」
レイカが優しく声をかける。
「...誰ですか?」
か細い声が返ってくる。
「お父さんが心配してるよ」
アリスが言う。
「お父さん...」
小屋の扉が開いて、16歳くらいの少女が現れた。目は泣き腫らしている。
「エミリー!」
ボルドーが駆け寄る。
「お父さん...」
父娘が抱き合う。
「料理人になる夢、諦めます...」
エミリーが力なく言う。
「エミリーちゃん、これ飲んでみて」
レイカが魔法料理のスープを差し出す。
「...これは?」
エミリーが不思議そうに見る。
「魔法料理です」
「魔法で?」
エミリーがスープを一口飲む。
「美味しい...こんな料理、初めて」
「魔法で作りました」
ルナが嬉しそうに説明する。
「料理には色んな方法があるんです」
レイカが優しく言う。
「神様が言ってました。『料理に大切なのは愛情』って」
「愛情...」
エミリーの目に光が戻ってくる。
「エミリーちゃんの料理への愛情、伝わってきます」
「エミリー、すまなかった」
フランツが深々と頭を下げる。
「厳しすぎた」
「いえ、私が不甲斐なくて」
エミリーが謙遜する。
「いや、お前には才能がある」
フランツが認める。
「魔法料理、一緒に研究しませんか?」
レイカが提案する。
「魔法料理?」
エミリーが興味を示す。
「私も興味があります」
ルナが同調する。
「新しい料理の可能性です」
レイカが説明する。
「ありがとう、みんな」
ボルドーが感謝の気持ちを表す。
「お父さん、料理人の勉強、続けてもいい?」
エミリーが恐る恐る聞く。
「もちろんだ」
ボルドーが笑顔で答える。
「私も...もう少し優しく教えよう」
フランツも反省している。
「魔法料理研究グループ、作りましょう」
ルナが提案する。
「いいですね」
レイカが賛同する。
「私も参加したいです」
エミリーが手を上げる。
「...私も協力しよう」
フランツも参加を表明する。
「また新しい仲間が増えたわね」
アリスが微笑む。
「魔法料理か...面白そうだな」
ジャックが興味を示す。
「うまいもんが増えるなら大歓迎だ」
マーシャが豪快に笑う。
「神様がくれた能力、いろんなことに使えるんですね」
レイカが感慨深げに言う。
「また神様の話?」
一同が苦笑いを浮かべる。
こうして、エミリー救出事件は円満に解決した。そして、新しい仲間とともに魔法料理研究グループが結成された。
レイカの超味覚と、ルナの魔法、そしてみんなの料理への愛情が融合して、また新しい可能性が生まれようとしている。
料理を通じて人々を幸せにする冒険は、ますます広がりを見せていた。