表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

毒見で大活躍?

勇者パーティーの一員となって一週間。レイカはすっかりギルドでの生活に馴染んでいた。


朝起きて、ジャックの作る朝食を味見して、「もう少し塩を」とか「火加減をもう少し弱く」とかアドバイスして、美味しい朝食を食べる。昼間は簡単な依頼をこなして、夜は仲間たちと食事を囲む。


戦闘?そんなものは他の4人に任せておけばいい。レイカの仕事は「美味しく食べること」だけ。


「これって、最高の人生じゃないですか」


そんなレイカの平和な日常に、変化が訪れたのは転生から一週間後の朝だった。


「新しい依頼が入りました」


受付のローズが、いつもより改まった表情で告知板の前に立っている。冒険者たちがざわめく中、アリスたちも集まってきた。


「どんな内容ですか?」


「アルブレヒト男爵邸での警護任務です」


「警護?」


ルナが首をかしげる。


「最近、毒殺未遂事件が続いていて...」


ローズの説明に、レイカの耳がぴくりと動いた。毒殺。つまり、毒入りの料理ということ?


「男爵は商人ギルドとの契約を控えていて、反対派からの妨害工作が疑われています」


「毒殺か...厄介だな」


ジャックが眉をひそめる。


「でも報酬は良いみたいだ」


マーシャが依頼書を覗き込む。


「毒...?」


レイカが呟くと、アリスが振り返る。


「大丈夫よ、私たちがいるから」


「でも毒って、どうやって見つけるんですか?」


レイカが首をかしげる。


「え?」


ルナが驚いた顔をする。


「味でわかるものなんでしょうか?苦いとか、変な味とか...」


レイカは純粋に疑問に思った。神様が言っていた「毒物の検知も可能」というのは、具体的にどんな感じなんだろう。自分の能力で本当に毒がわかるのかな?


アリスたちはレイカの質問には答えず、依頼の内容について話し合っている。


「受けましょう」


アリスが決断する。


「私たちなら大丈夫だろう」


「おう!」


ジャックとマーシャも同意する。


「僕も頑張ります」


「私って言いなさい!」


アリスの注意が即座に飛んでくる。


「私たち全員がデコピンされるのよ!」


「装備は大丈夫?」


「毒見用のスプーンでも買うか?」


ジャックが冗談めかして言う。


「スプーン?」


「冗談だよ」


マーシャが笑う。


しかし、レイカは真剣に考えていた。毒見用のスプーン...確かに必要かもしれない。


貴族街にあるアルブレヒト男爵の屋敷は、レイカが今まで見たどの建物よりも豪華だった。


「すごい...こんな大きな家があるんだ」


高い塀に囲まれた敷地、美しく手入れされた庭園、そして威厳ある石造りの屋敷。まさに貴族の館といった趣だ。


でも、レイカの関心は別のところにあった。


「いい匂いがする...厨房から料理の香りが」


超味覚が捉えるのは、厨房から漂ってくる様々な料理の匂い。上質なハーブ、新鮮な野菜、丁寧に調理された肉の香り。


「あ、でも何か違和感が...」


その中に、わずかに混じる異質な匂い。苦いような、薬草のような...


「よく来てくれた。アルブレヒトだ」


出迎えた男爵は、50代ほどの威厳ある男性だった。立派な髭を蓄え、上質な服を身に着けている。


「勇者のアリスです。こちらが私たちのパーティーです」


アリスが丁寧に挨拶する。


「噂の勇者パーティーか」


男爵がレイカたちを見回す。


「あの、お料理美味しそうですね」


レイカが思わず口にすると、男爵が困惑した表情を見せた。


「?」


「いえ、厨房からとても良い香りが...」


「ああ、そうか」


男爵は苦笑いを浮かべた。


「3日前から毒入りの料理が出されるようになった」


男爵の表情が急に暗くなる。


「幸い、使用人が味見で気づいて事なきを得たが...」


「どんな毒が?」


ルナが専門的な質問をする。


「分からん。苦いと言っていたが」


レイカの眉がぴくりと動いた。苦い毒...


「その毒入り料理、まだありますか?」


「え?」


男爵が驚く。


「どんな味だったか気になって」


「レイカ、危険よ」


アリスが心配そうに言う。


「大丈夫です。毒見は得意ですから」


レイカは自信満々に答えた。神様がくれた能力なんだから、きっと大丈夫でしょう。


「では、厨房を案内しよう」


男爵に案内された厨房は、さすが貴族の館だけあって設備が充実していた。大きなかまど、ずらりと並んだ調理器具、豊富な食材。


「お疲れ様です、男爵様」


料理長と思われる恰幅の良い男性が挨拶する。


「こちらが我が家の料理長、ハンスだ」


「よろしくお願いします」


ハンスが丁寧に頭を下げる。


「すごい厨房ですね」


レイカが感心して見回していると、超味覚が様々な匂いを捉えた。


「この香辛料、とても良い香りです」


「ありがとうございます」


ハンスが嬉しそうに答える。


「でも...なんか変な匂いも混じってる」


レイカが眉をひそめる。


「え?」


ハンスの表情が変わった。


「苦い匂い...薬草みたいな」


香辛料の棚の方から、確かに異質な匂いがしている。


夕食の時間になった。


男爵邸の食堂は、長いテーブルに豪華なシャンデリアが照らす、まさに貴族の食堂といった雰囲気だった。


「今日の夕食も頼む」


男爵がハンスに言う。


「承知いたしました」


「私たちが毒見をします」


アリスが申し出る。


「僕にやらせてください」


「私って言いなさい!私たち全員のためよ!」


アリスがすかさず注意する。


最初に運ばれてきたのは、コンソメスープだった。見た目は普通の野菜スープ。でも、レイカが一口飲んだ瞬間、表情が変わった。


「うーん...この味は...」


「どうしたの?」


アリスが心配そうに見つめる。


「コンソメベースですね。鶏肉の出汁が効いてます」


男爵が頷く。


「そうだが...」


「でも、セロリの苦みが強すぎる」


「セロリ?」


ルナが首をかしげる。


「普通のセロリじゃない...薬草の苦みです」


レイカの表情が真剣になった。


「これ、毒じゃないですか?」


一同が息を呑んだ。


「!?」


「本当に?」


アリスが駆け寄る。


「大丈夫なの?毒を飲んだのよ?」


「あ、大丈夫です。一口だけなら」


レイカがけろっとしている。


「神様が言ってました。『毒物は微量なら体が無害化してくれる』って。でも味では完全に分かるんです」


「苦みが不自然です。料理の味を壊すレベルの苦さ」


レイカは確信を持って言った。


「やはり...」


男爵の顔が青ざめる。


次に運ばれてきたのは、ローズマリーで香り付けされた肉料理だった。こちらも見た目は美味しそうだが、レイカが一口食べると即座に反応した。


「だめです!これも毒が入ってます」


「!」


全員が驚く。


「ローズマリーの香りの中に、変な苦みが」


レイカは詳しく分析する。


「この苦み、トリカブトに似てる」


「トリカブト?!」


ルナが声を上げる。


「神様が言ってました。毒物も味で分かるって」


レイカは当然のように答えた。


「誰が毒を入れたの?」


アリスが男爵に詰め寄る。


「うーん...」


レイカは考え込んだ。


「さっきの厨房の匂い...」


「どうした?」


ジャックが尋ねる。


「香辛料の棚から薬草の匂いがしてました」


「内部の犯行か」


ジャックが呟く。


「でも、ハンスさんじゃないと思います」


レイカが首を振る。


「なぜ?」


男爵が驚く。


「料理への愛情が感じられる人でした」


「愛情?」


「愛情込めて作った料理に毒なんて入れません」


レイカは確信を持って言った。


「じゃあ誰が?」


マーシャが率直に聞く。


その夜、一行は厨房に潜入した。


深夜の厨房は静まり返っている。月明かりだけが、調理台を照らしていた。


「あ、誰か来ます」


レイカが耳をすませる。


足音が近づいてくる。影の人物が厨房に入ってきた。


「!」


その人物は、香辛料棚に向かうと、何かを取り出した。月明かりに照らされたそれは、明らかに毒草だった。


「毒草を取り出している...」


ジャックが小声で呟く。


人影は、翌日の料理の仕込みに毒草を混ぜようとしている。


「そこまでだ」


ジャックが飛び出した。


犯人の正体は、下働きのメイドだった。20代前半の痩せた女性で、手には確かに毒草が握られている。


「今夜で最後...」


メイドが呟く。


「なぜこんなことを?」


アリスが問い詰める。


「商人ギルドとの契約が成立したら...」


メイドの声が震えている。


「私の故郷の商人たちが廃業に追い込まれる」


「それで毒殺を?」


男爵が信じられないといった表情を見せる。


「殺すつもりはありませんでした...体調を崩させるだけで」


メイドが涙を流す。


「でも、今日の毒の量、かなり危険でしたよね」


レイカが冷静に指摘する。


「え?」


メイドが驚く。


「最初は『体調を崩させるだけ』って言ってましたけど、今日の濃度だと本当に危険でした」


「どうして分かるの?」


ルナが聞く。


「味で分かります。これ以上濃くしてたら、本当に命に関わってたと思います」


「メイドさん、男爵様と話し合いましょう」


アリスが優しく提案する。


「契約の条件を見直そう」


男爵も理解を示す。


「故郷の商人たちにも配慮する」


「本当ですか?」


メイドの目に希望の光が戻る。


事件は平和的に解決した。


「ありがとう、特にレイカ嬢」


男爵がレイカに深々と頭を下げる。


「毒の味が分かっただけです」


「それが素晴らしいのよ」


アリスが微笑む。


「その通りだ」


男爵が同意する。


「でも、毒が入ってない料理の方が美味しいですよね」


レイカが天然に呟く。


「当然だ」


男爵が苦笑いを浮かべる。


「今度、普通の料理を食べてみたいです」


「ぜひ、お作りします」


ハンスが嬉しそうに答える。


「約束の報酬だ」


男爵が金貨の入った袋を渡す。


「ありがとうございます」


アリスが受け取る。


「レイカ嬢には特別ボーナスを」


「え?」


レイカが驚く。


「毒見の才能は貴重だ」


男爵が感心して言った。


帰り道、アリスたちはレイカを見る目が変わっていた。


「レイカの毒見の才能は素晴らしい」


男爵の言葉が頭に残っている。


「でも本人が一番のんきなのよね」


アリスがため息をつく。


「毒より料理の心配してたもんな」


ジャックが笑う。


「それがレイカらしいけど」


ルナが微笑む。


「毒見で世界救っちゃうかもな」


マーシャが豪快に笑った。


当のレイカは、といえば...


「今度は毒が入ってない美味しい料理が食べたいですね!あ、でもハンスさんの本当の料理の腕前も気になります」


相変わらず食べ物のことしか考えていない。


でも、その天然さこそが、レイカの最大の武器なのかもしれない。


こうして、レイカは「天才探偵」としての第一歩を踏み出した。本人にその自覚はまったくないけれど。


食事を通じて人々を救う冒険は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ