8.無自覚溺愛に心臓が持ちません!
私がなんとなく納得していると、魔女様は私を抱きかかえたまま浴室へと入っていく。「それじゃあ、隅々まで綺麗にしましょうね♪」と言った瞬間、羞恥心が爆発。とにかく鳴いて抵抗するが、魔女様は終始楽しそうだった。
「なうう(お、お嫁に行けない)」
「照れているだけだなんて、ますます可愛いわね♪」
(従魔契約にこんなデメリットがあったなんて!!)
その後、「私、桃の香りが好きだから」と魔女様の好きな香り付きの石鹸で洗われた。それからお風呂から上がって、体を乾かして貰って、ブラッシングはとっても心地が良かったわ。猫ってこんな気分だったのね──なんて思っていたのはここまで。
(すごく気持ちいい……極楽)
「ああ~~、可愛いわね」
「にゃあああ!(──って、違う!)」
「お前は怖がることも、怯えることもないのね。ああ、従魔ってこんなにモフモフして可愛くって、柔らかくて良い匂いがするのね。もっと触れたい。温かいし、くすぐったい気持ちになるわ」
(きゃあああーーーー!)
魔女様が私の体が顔を押し付けて猫吸いを始めたのだ。全身の毛が逆立つ。
(こ、これはアウト! アウトですから! 第三者からみたら子猫を溺愛している微笑ましい光景ですけれど、私は人間!)
匂いを嗅がれるなんて、恥ずかしさしかない。しかもキスもたくさんしてくるし、可愛がってくれているのは嬉しいけれど。
「もう〜可愛いすぎ! 離さないわ。ほらチュー」
「にゃああ(魔女様! そういうのは好きな人に──)」
「モフモフ最高♪ 愛しているわ」
(うう、愛されているって勘違いしそう。私は今、ただの従魔になっただけで魔女様は愛玩動物として愛でているだけなのに……)
トロンとした眼差しに、優しい笑みに瞬殺されました。抵抗する気力も無く、なされるがまま。
「じゃあ、私もお風呂に入って来ちゃうから、先にベッドで寝ていなさい」
「なう(はぁい)……にゃ!?」
キングサイズ豪華なベッドの上にちょこんと下ろされ、気付いた時には魔女様の姿はなかった。瞬間移動的な魔法なのだろう。
(まさかベッドで魔女様と一緒に!? 心臓がバクバクして眠れないわ。しかもメイクを落としたら、普通の男の人の姿ってことよね!?)
真正面からあの美しい姿を受け止められそうにない。ここはベッドから離れようとするも、予想以上にベッドが広い。途中で力尽きて寝てしまったのは、不可抗力だ。
(無念……)
「あら、こんなところで寝ちゃって」
私を抱きしめる手は温かくて、薄らと目を開けるととても大きな黒豹が私に寄り添うのが見えた。モフモフで温かくて、私と同じ桃の香りがする。
「ふふっ、本当に可愛いわ。……貴女は私から逃げないで、裏切らないで、傍にいてね」
***
温かい。包まれて大事にされている感じがする。桃の香りが鼻腔をくすぐる。そういえばこの世界で桃を食べる機会はなかったわ。とっても高価で東の国でしか手に入らなかったし……。
明日、目が覚めたら人の姿に戻っているかしら?
チチチ、と小鳥の囀りとカーテンの隙間から差し込む陽射しに意識が浮上する。
「ん……」
「うん、毒の後遺症はないけれど、呪詛の部分はもう少し魔力を送ることで経過観察を──あら、目が覚めた?」
艶やかな声が耳に聞こえてくる。いい声だわ。
薄らと目を開けると、ワインレッドのような艶やかな長い髪と彫刻のような美しい顔がドアップで見えた。
「……魔女様?」
「そうよ。今日のお昼ご飯はなにかしら?」
「ふぇ!?」
部屋を見渡して時計を探す。時刻は午前十時半過ぎ……。寝過ごしたのだと気付く。
「す、すみません!」
「いいわよ。従魔契約をしたばかりはよく寝るものよ。それにさっきまで体全体に、治癒魔法をかける必要もあったし」
それなら、と言いかけたところで自分の姿が人に戻っていること、シーツがはらりと落ちると、可愛い寝巻き半袖ワンピースに着替えさせられていた。
「~~~~~!?」
「ふふっ、顔を真っ赤にしちゃって可愛いわね。あ、人の姿に戻ると同時に着衣するようにしているから安心して〜」
「は、はい……(と、とりあえず? よかった?)」
魔女様は横になったまま気だるそうなままだ。引き締まった上半身は扇情的で目のやり場に困る。
「そのアネモネの紋様は野良魔女の呪詛だけれど、これはゆっくり治療していけば完治するから安心しなさい」
「じゅそ?」
左肩から腕に掛けてアネモネの紋様が広がっているのが見えた。昨日まではなかったはず。もしかして私が裸なのってコレを見るため? ま、また変な妄想をする前でよかった。
「あ、もしかして私を子猫にしたのは、何か別の意味が?」
「ん? まあ、最初からキスや添い寝は抵抗があるでしょう? だから獣の姿で魔力補給と、治癒を同時並行で行っていたのよ」
「なるほど」
あの行為も魔女としての仕事の内だったのだと認識を改めた。あんなに恥ずかしがること──いや、しょうがないわ。事前に聞いていても恥ずかしいものは恥ずかしいもの。
「それとも、人の姿でも貴女は抵抗ないのかしら?」
「んっ?」
不意打ちのキス。喉の周りが温かくなる感じがした。
魔力補給? でも、ぶあああ、と顔に熱が集まるのがわかった。わかっていてもやっぱり恥ずかしい。それに魔女様からのキスなんて!
キスをした魔女様は挨拶だと言わんばかりに、妖艶に微笑む。
「ふふっ、ほんと可愛いわね」
「ま、魔女様!!」
こうしてハグやスキンシップが好きで、キス魔で、従魔を猫可愛がる魔女様との刺激的な生活が始まったのだった。
わ、私、心臓が持つかしら?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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