表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/36

32.執着の終着

 エドガー様は私を強引に抱き寄せて、別の場所に転移する。抵抗するもエドガー様の力に敵うはずもなく、場面は大きく変わった。

 白亜の骨で紡がれた巨大な城。ゾッとするような漆黒の水面が何処までも続いている。


(ここは夢だったはず?)


 それなのにこんなにもリアルで、生々しい。魂が震え上がるような、底知れぬ何か──。


「城は外敵から身を守ることもあるけれど、僕の魔法は閉じ込めるに特化したものなんだ。この城で君と一緒に暮らそう。器はちゃんと着飾って花嫁にして隣にいて貰うし、今度こそあの器に魂を注ぎ込める。ああ、本来の形とは少し違うけれど、でもこれで姉様を復元することに一歩また近づいたよ」


 嬉々として語るエドガー様の話は、何一つ理解出来なかった。狂人の戯れ言よりもずっと怖い。フィル様のお師匠様への恐ろしいほどの執着が、ここまで人を狂わせるなんて……。でもエドガー様の目的は私を手に入れることではなく、最終目的はフィル様のお師匠様との再会とやり直しなのだ。

 歪んで壊れて、捻じ曲がってしまった思い。ゾッとするほど怖くて、けれど悲しくもあった。


「泣かなくていいのよ、ヘレナ」

「──っ」

「なっ」


 白亜の城が一瞬で瓦解する。それを行ったのはフィル様だった。

 赤紫色の長い髪を靡かせ、貴族服に身を包んだ美丈夫。黒い外套がよく似合っているし、箒に乗っているところも素敵だ。


「フィル様!」

「待たせてゴメンナサイね。真っ先に拠点を潰しておこうって思って」

「フィル!!! またお前かぁあああ!!!」


 エドガー様は発狂し、血走った目でフィル様を睨む。


「ほんと、昔からお師匠様のことになると沸点が低いわよね」

「黙れ! お前さえいなければ!」

「私が居なかったとしても、邪竜と相打ちを望んで共に逝くことを望んだのだから、結果は変わらなかったわよ」

「煩い。煩い。あんな化物の何処が!」

「さあ、お師匠様は変わっていたもの。私を拾うぐらいだから邪竜に惚れたって不思議じゃないわ」

「え」

「巫山戯るな、そんなのが──」


 パチン、とフィル様が指を鳴らした瞬間、エドガー様はある扉の中に吸い込まれて消えてしまった。あまりにもあっけなくエドガー様の作り出した空間が砕けて、元の夢だった花畑に降り立つ。フィル様は箒を明後日のほうに投げ捨てて、私の傍まで駆け寄る。


「フィル様!」

「ヘレナ、無事ね。酷いとこはされてない? 怪我は? あの男に何処を触れられた?」

「だいじょうぶ……です」


 ひしっと抱きつくと、フィル様の温もりや甘い香りに身を委ねる。大好きな人の元に戻ったと実感したら、足に力が入らずに縋り付く形になってしまった。


「やっぱりちょっと……むずかしそうです」

「そうね」


 フィル様は私を軽々と抱き上げてくれた。首に手を回したらフィル様がもっと近くにいて、たったそれだけのことが嬉しくて、ちょっとだけ泣いてしまった。


「エドガー様は?」

「後悔と懺悔の扉をくぐったから、心から反省するまでは出てこられないわ」

「そうなのですね。……エドガー様の魔法は『城』で、フィル様の魔法は『扉』なのですね」

「ええ。お師匠様は『時計』と『扉』で私はそのうちの一つ『()』の魔法を継承したの」


 魔法に様々な形があるのだと知ったけれど、フィル様が『扉』だと知って納得してしまった。自然と口元が緩み「そっか」と思ったのだ。


「ヘレナ?」

「フィル様のお師匠様も、フィル様も、前を向いていたから『扉』なのですね。いつだって前を向いて、その先を追い求めるように歩いているから、入り口であり出口の『扉』が象徴なのでしょう」

「──っ」


 思えばフィル様はいつだって前を見ていたし、前向きで失敗や後悔や辛いことも全部向き合って、歩いていた。そんな姿を見ていたし、たくさん前向きな言葉をかけてくれたから、私は自分に自信が持てたわ。

 フィル様こそ『扉』の魔法が相応しい。そう事実を告げただけなのに、フィルの顔がやけに赤い。


「フィル様?」

「褒め殺しする気? ああ、もう! 本当にヘレナは私を幸せにする天才ね。惚れ直しちゃったわ」

「それは私もです。助けに来てくれた時のフィル様、王子様みたいでとっても格好よかったですもの!」


 それから数分間、お互いのことを絶賛し合って、同時に恥ずかしくなったのだった。最初に見た夢のように、またどちらともなく手を繋いで私たちは歩き出す。

 それはとても幸福な、温かい夢となった。



楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ