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21.ゼロの魔女・フィルの視点2

 私の従魔もとい婚約者のヘレナは可愛い。超可愛い。

 コロコロと表情を変えて、私を慕っているのを隠そうともしない。純粋な好意を向けられたのは、お師匠以来かしら?


 魔導書と戦って勝つとか、牙も爪もないと思っていたけれど、そんなことはなかった。生きようとする力強さは好感度が高いわ。可愛くて、一緒にいるのが楽しい。

「可愛い」も「好き」も「愛している」もお師匠からもらった大切な言葉。それがあれば、いつだって幸福で、寂しさも、悲しさも、苦しさも全部溶けて消えてしまう。

 ハグをしてキスをすれば、一人じゃないと実感できる。嫌な夢を見る時は添い寝をして、食事を一緒に摂って……、お風呂も一緒に入る。

 そうやっていると満たされて、温かい気持ちになった。


 お師匠が私を愛してくれたように、ヘレナにも同じ愛情をたくさん注いだ。お師匠への思いに近い──そう勘違いしていた。ヘレナが魔導書に襲われると知った時、頭が真っ白になった。

 ぶつん、と何かの糸が切れて、後にも先にもあんな感情になったのは初めてだったわ。

 お師匠を殺すしかないと悟った時とは違う。全く別の感情が自分を支配した。絶対に失いたくない。その瞬間、ヘレナが私のとっての唯一無二なのだと知る。


 ヘレナにハグもキスをするのは、好きだけれど「もっと」を無意識に望んでいた? 

 もっと触れたいし、一緒にいたい。ヘレナを独り占めしたいと思う気持ち。子猫にしてまで添い寝したい強い執着。愛おしさも、不安も、複雑な感情がヘレナでいっぱいになる。


 エドガーがヘレナのプロポーズした瞬間、ドロリとした感情が溢れ出た。殺意とか苛立ちとかとは違う。けれどヘレナを独占したい、ほしいと強く願う自分がいた。すでにヘレナは私の従魔なのに、足りない。おかしな話だわ。

 もっと。もっと。もっと。唯一無二の肩書き、存在になりたい。

 お師匠の時は十分に幸せだったのに、全く違う。 

 大事で愛おしくて──食べちゃいたい。


 お師匠の全てを受け継いだ時から、お師匠のようになりたかったのに……。私は従魔一人守れない欠陥品で、周りから憎まれて、ゼロの魔女としての称号にふさわしい功績を残すぐらいしかできてない。

 

 気付くと血の雨を降らせて、全てをねじ伏せて解決してきた。 

 生温かな血飛沫と、血の海。

 自分の心がどんどん冷え切っていく。お師匠が私の心を溶かしてくれたのに、これじゃあ逆戻り。それを溶かしたのは自分自身ではなくて、従魔のヘレナだった。

 あの子は──お師匠に似ている。でも違う存在だわ。


「お師匠を忘れたことは一度も無いけれど、でもこの気持ちはお師匠よりも、もっと仲良くなりたい。家守り(シルキー)家事妖精(ブラウニー)はどう思う?」


 返事はなかった。

 私よりもお師匠と一緒に居た妖精たちは、私が誰かを連れてきても無関心だった。他の従魔が来た時だってそう。でも今回は少し違う。

 それが興味関心なのか、あるいは邪魔だと思っているのか。

 どちらなのかしら?



 ***



「──って、思っていたらやられたわ!」


 気付いたのは、真夜中の午前零時。

 しかも魔力が弱まる新月の夜を待っていたのだ。家守り(シルキー)は家の中であれば、無類の強さを持つ。結果、扉も窓もない部屋にヘレナと二人きりにされて、「ある条件を満たさないと部屋から出られなくなる魔法」をかけられた。何故か一時期はやったのよね!


 素直になれない王妃と騎士とか、侯爵と町娘とかの身分違いの恋や隣国の戦闘時に好きになった騎士団長同士とか……。そういう素直になれない連中が素直になるまで出られないようにと、妖精たちと共に編み上げた魔法なのだ。

 もっともこれは恋愛要素の場合。もう一つの用途は蠱毒のように殺し合わせて一人だけ生き残ることで得る魔力増強魔法。クソみたいな王国が術者に作らせた禁術魔法なのよね。

 すやすやと眠っているヘレナを起こすのはあれだれけど、最悪の場合魔法で穴をこじ開けないと……。あ、むにゃむにゃしている。可愛い。思わずキスをしちゃったけれど、可愛いヘレナが悪いのよ。


「ヘレナ、起きてちょうだい」

「……ん? ハッ、また寝坊ですか!?」

「違うわ。非常事態よ」

「!」


 寝ぼけていたヘレナがシャンとするのも、可愛らしかった。周りを見て扉や窓もないベッド一つだけの空間を見て、何か察したようだわ。


「最後の一人になるまで殺し合うとかじゃないといいけれど……」

「R指定じゃないことを祈るばかりです!」

「へ」

「え」


 あーるぅ指定がなんだか分からないけれど、私の考えていたことよりは物騒じゃない気がするわ。さてこの部屋を作ったとことは、私たちに何かさせたいことがあるってこと。

 案の定、部屋にある香りが放たれた。

 木を燻したような独特の香りだわ。でも何処かで。そう思考を巡らせようとして、体に力が入らずに座り込んでしまった。


「フィル様!?」

「──っ、嵌められたわ。まさか魔法無効化のお香を焚くだなんて……」

「この香り……が魔力を?」


 ヘレナはこの香りにあまり抵抗がないのか、普通に立っていた。顔色も悪くない。私のほうは魔力が上手く練ることができず、ベッドに座り込んだ。

 何が目的?

 そういえば数十年に何度か、こんな風に嫌がらせをしてきたような?


 香りが和らいだと思ったら、次はまた別の香りが漂う。どれも鼻を掠めるものだったけれど、意味が分からない。芳香剤のような匂いに、頭がくらくらしそうになる。

 魔力が上手く回らなくて、気持ちが悪いわ。

 これ絶対に、妖精の嫌がらせだ。

 そう思ったら何だかどうでも良くなった。この密室も嫌がらせで、八つ当たりなんでしょうね。お師匠のいない屋敷で、お師匠様を忘れないように、屋根裏部屋には私だって入れないようにしているもの。

 私が変わろうと、この屋敷を出て行っても、死んでも変わらない。変わらずに屋敷を管理して守って、帰らない主人を待ち続ける。


 お師匠の弟子だった私にできることなんてない。それこそ傲慢だわ。

 お師匠になりたいと思った、お師匠の代わりになろうと努力をしたけれど、私はお師匠のようにはなれないし、なれなくてもいいのかもしれない。


 私がお師匠じゃなくても、ヘレナは私を見て傍にいてくれるから。従魔一人守り切れない不甲斐ない魔女だけれど、それでも離れていかない存在ができたから私は──。

 ちょっぴりとだけ前を、自分を好きになって良いのかもしれない。

 お師匠に恩返しもできていなかったし、弟子としてお師匠を守れなかったけれど、あの腹の底から湧き上がった怒りと、悲しみを私は忘れない。

 そして繰り返さないようにする。

 ヘレナが倒れていたのを見た時は血の気が引いたし、生きた心地がしなかった。


 そんな思いはもう充分だわ。

 だから今度は何があっても守ってみせる。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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