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18.穏やかな日々とリキュール作り


 一ヵ月後。

 いつものように少し遅めの朝食を作って、洗い物と洗濯物をし終わった後は、私とフィル様の楽しいリキュール作り、試飲、屋敷の中で散歩、お互いのモフモフブラッシングタイム、読書などなど実に平和な日々なのだが──。


「やあ、フィル殿。ヘレナ嬢」

「愛しのヘレナ嬢、今日も君を口説きに来たよ」

「帰れ」

「……い、いらっしゃいませ」


 週に二回ほど神官のミハエル様と、九番目の魔女であられるエドガー様が屋敷を訪れるようになったのだ。

 だいたいはフィル様が追い返してしまうけれど、五回に一回は妥協してミハエル様とエドガー様を受け入れる。その基準がいまいちよく分からないけれど、一切の拒絶をすると何かと面倒だからなのだろう。

 

「はー、ヘレナ嬢の入れてくれたハーブティーはとっても美味しいな」

「ありがとうございます」

「ぜひ教会でも出して欲しい。……もしくはレシピとか貰えれば」

「それな──」

「ヘレナは貸し出さないし、レシピも有料よ」


 フィル様は私のマネージャーの如く、ミハエル様の希望を粉砕する。しかしミハエル様はめげず、値切り交渉に素早く切り替えた。


(うん、逞しいわ)


 ちなみに今日のハーブティーは浜夏のレモングラス、祝福のレモンピール、レモンバーベナ、ほんのちょっとのミント、真昼のカモミールとリンデンと蜂蜜を混ぜたものだ。私のオリジナルレシピなのは間違いけれど、この世界ではハーブティーは三種類以上混ぜたりしない──のでとてもシンプルなお味だったりする。


 それもあって私の味に深みがあり、飲みやすいアイスハーブティーは人気らしい。だからこそ私を教会のサロンで働かせたいミハエル様は必死だ。

 今の所フィル様が全力で阻止してくれている。「私とヘレナの契約が期間限定で、一年かけて口説けば良いと思っていたのだけれど、婚約者に切り替わったことで計画が崩れたんでしょうね」と勝ち誇った顔で話してくれた。

 私も人寄せパンダになる気はないので、精々レシピを教えるぐらいがちょうどいい。今はフィル様との悠々自適な生活を満喫しているのだから。


(それに今更貴族の世界と関わりを持つのもな)


 他の不安と言えば家守り(シルキー)の反応があれから、ぱったりとなくなったことだ。そもそもなんの目的だったのかよく分からないまま敵なのか、味方なのかも不明。

 だからフィル様にも伝えるべきか悩んでいる。

 次に何かあれば相談しようと思っていたからもあるけれど、何もないならそのほうが良いわ。


 賑やかな午後の日もあれば、混成酒作り、それと破損した魔導書の修復作業。時々フィル様の爪を塗るという大役を任される。オヤツと夕食の準備。洗濯物を取り込んで、夕食後はフィル様にカクテルをお出しするのだけれど、五回に一度、エドガー様が同席。


 ミハエル様の目的は、仕事の勧誘とレシピ獲得ぐらい。逆にエドガー様は私がフィル様と婚約したと言っても、気持ちは変わらないとアタックを続けてくる。うん、全力で諦めて頂きたい。

 それに私を好きになる理由は、私自身というよりも魂基準というところが引っかかる。私自身の性格だとか内面とかを見ている感じとは違う。


(それに柔和なのだけれど、何か違和感があるのよね……。これも折を見てフィル様に相談したほうが良いかしら。でもご友人だし……)


 カクテルを提供してまったりと過ごした後は、片付けをして入浴、就寝──なのだけれど、入浴はフィル様と被らないように心がけているのに気付くといるので、もう諦めの境地。私が魔導書に襲われてからは、当たり前のように添い寝。


 最近では子猫と黒豹になることもなく並んで寝ている。貴族令嬢や子息であれば結婚までは同室で寝るのはアレなのだけれど、私もフィル様も違うので抵抗はない。そもそも最初は獣の姿で添い寝をしていたので、今さらだわ。


 これがここ最近の私の生活スタイルだったりする。改めて思い返すと、とても充実していた。リキュールだけじゃなくて、魔導書の修復作業も結構楽しい。というのも私が倒した魔導書の三冊は私の眷族となったらしく、いつも私の後を雛のように着いてくる。「きゅぐるるる」と声もしおらしい。

 いきなり親鳥になった気分だわ。


(前世で小さい頃に飼っていた豆柴に似ているかも?)

「ヘレナの護衛役にはちょうど良いわよね。……まあ、構ってちゃんなところはちょっとジェラシーを感じるけれど」

「フィル様」


 今日はこの世界にある貴重なリキュールを使って試飲会をしている。フィル様は私のためにバー専用の部屋まで作ってしまったのだ。部屋ならいくらでも余っているとか。でも一瞬で部屋を増築、モダンな雰囲気かつ飴色のバーカウンターに、赤の絨毯、少し明かりを落とした照明、アンティークっぽいテーブルや椅子、屋敷にあるリキュールや道具、グラスなども揃っているなんとも贅沢な空間だ。


 高級店のカウンターに立つと、前職の雰囲気を思い出して背筋が伸びる。

 完全なプライベートな部屋なので私とフィル様、まれにミハエル様とエドガー様、そして護身用の双剣と魔導書三冊のみ。


「魔導書は擬態宝箱(ミミック)に分類されるけれど、知能が高く学習するし、自分が屈服されたら主人と認めるのは魔物界隈ではあるあるなのよ。まあ、そうじゃない魔物もいるから知能が高いのが限定ね」

「あるあるのですね」

「ええ」


 フィル様は今までバーのソファで寝そべって色香を振りまいていたのだけれど、一瞬で私の背後に回り込む。転移魔法を使ったのだわ。


「それで、今日はなんのカクテル?」


 ふわりと桃の香りが鼻孔をくすぐる。後ろから抱きしめられてドキドキ半分、安堵感半分。モフモフな黒豹の時もそうだけれど、フィル様は後から抱きしめるのがけっこう気に入っていのね。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


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