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17.私と魔女様の関係

 

 翌日。

 主に私と魔女様──フィル様と話し合いを設けたのだが、衝撃なことばかりだった。


「──というわけでヘレナの安全を最優先するつもりで名前呼びをしてなかったのよ。名前は魔女にとって強い結びつきを得る代わりに周囲に勘づかれるの。もっともミハエル様を含めたお喋りがいたようで、私がヘレナと従魔契約を結んだのはすぐにバレたけど」


 情報量が多すぎて困惑してしまう。野良魔女にフィル様が狙われることも驚いたけれど、だから屋敷に出ないように行っていたのなら納得だ。

 魔導書を受け取って屋敷に入るところで封印が解けるようにしていたのなら、他の従魔が屋敷を飛び出そうとしたのも分からなくはない。


(屋敷は森に覆われているので、そちらに──ん?)


 でも知らない森に逃げるよりも、屋敷に逃げるのは普通な気がする。もしかして屋敷に戻る前に魔導書が暴れ出したら、家の扉を開けなかったとか。


 私の場合は屋敷の玄関に入った後で魔導書が暴れしたもの。そう考えるとこの屋敷は、私を含めて従魔を拒んでいるとしたら? フィル様の傍にいるのがふさわしくないと思っている可能性はある。


「ヘレナ、ごめんね」

「あ、いえ。……その、事情があったのならしょうがなかったと思います」

「まあ。私が言うのもなんだけれど、ヘレナは優しすぎるわ。今回は10:0で私が悪いんだから、こうもっと思ったことを言っていいのよ!? 溜め込むのは良くないし、それを言うだけの資格はヘレナにはあるのだから」

「言いたいこと……」


 フィル様のおかげで私は二度も命を救われたのは事実だ。そもそもこの異世界において魔女というのは十三人しかいない。世界の均衡と秩序を守る──というよりは人外相手の調停者(バランサー)という認識だ。そんな王侯貴族でも王族ぐらいしか接点がない代表者と関わる時点で、世界がひっくり返るような体験をするというのは、なんとなく思っていた。


 現に元の世界と変わらない快適な生活ができているのは魔女様──フィル様の持つ魔導具の数々があるからだし、フィル様の魔法も大きい。


 元夫と離縁した時に私はフィル様に付いていくと決めたのだ。その意思は以前よりもずっと強く、そしてフィル様自身に愚かにも恋をしてしまった。「恋人にして欲しい」という勇気はないけれど、期間限定の関係をまずは改善したい。


「私、従魔契約の延長を望みたいです」

「……え、解約じゃなくて?」

「解約だなんて! 私、フィル様と一緒に暮らすのが好きなのです。そのずっとお側にいたいですし、なんなら永久就職的な形でずっと、フィル様にカクテルや料理をお出しして喜んで貰いたいです」


 本音が言葉の端々に出てきて、永久就職なんてお嫁さんにしてくれって言っているようなものだ。言った後ですぐさま後悔するが、もう遅い。


(ウィル様はナイフとフォークを落として固まっているし!)

「ヘレナ」

「ひゃい」

「永久就職なんて……ヘレナ、私と婚礼の儀(ハイラート)をしたいってこと!? 私のことが好きで、傍にいたくてたまらないってことで合っている? 友愛とか家族愛とかでもなく?」

「はい。……フィル様が好きですよ」

「物好きね。でも私もヘレナを手放すつもりなんてなかったから、嬉しいわ」

「じゃあ!」

「そうね。まずは婚約者として暮らして、ヘレナが私から逃げなければ、婚礼の儀(ハイラート)をしましょう」

「ひゃい」


 あまりにもアッサリと私との婚約を決めたのだった。契約書もあらかじめ用意していたかのようにすぐに出してきたのも驚いたけれど。

 でも「私から逃げたなかったら」ってどういう意味だろう。


「フィル様、逃げないって?」

「そのままの意味よ。私は魔女だから厄介事や面倒なことに巻き込まれがちだから……ヘレナも、それに付き合いきれなくなるかもしれないでしょう?」


 今まで従魔に先立たれて、広い屋敷に住んでいたのはフィル様だけ。家守り妖精(シルキー)的な存在は住みついているけれど、姿を見たことはない。

 孤独の中、生き続けるのはどんな気持ちなんだろう。


「私はフィル様と一緒に居たくて、魔導書相手にも勝った女ですよ。戦力としてはまったく役には立ちませんが、それでもフィル様の傍にいたいです」

「それは……嬉しい新事実だわ。ミハエルやエドガーがヘレナを狙っていたからよかったのは事実だけれど」

「へ? あれはやっぱり本気?」

「そうよ。もしかして冗談かポーズとでも思っていたの?」


 フィル様は呆れ顔でワインに口を付けた。


「はい。……そもそも最初はフィル様に恋をしたのかと」

「ぶふっ。……冗談でも止めてちょうだい。あんな男、趣味じゃないわ。そもそも私は異性愛者よ」

「それなら女装と口調は趣味のような?」

「ん~、趣味と言うよりもお師匠を忘れないようにするためかしら。私、お師匠を殺したのよ」

「え」

「どう? 怖い? それとも恐ろしい?」


 超弩級の重たいことを他愛のない話のようにカミングアウトする。最初は感覚がズレているとか、魔女様界隈ではそういう認識なのかって思っていた。でも、たぶん。

 さらっと言わないと上手く打ち明けられないのだと思う。フィル様はいつだって前向きで後ろ向きなことは言わなかった。後ろ向きな私の言葉をいつも指摘して、気遣って貰ってばかりだわ。

 自分を卑下するのは、とても楽で私を大切にしてくれる人に失礼だって気付けた。でもフィル様と出会ってから、私もちょっとでも前に進んだと思えるように──。

 グッと唇を噛みしめて、フィル様の言葉に応える。


「怖くも、恐ろしくもないですよ。ただこれからは、私も半分ぐらいその十字架の重荷を背負わせて欲しいです」

「──っ」


 フィル様にとっては予想外の答えだったのか、アメジストのような美しい瞳が大きく揺らいだ。息を呑み、数秒ほど言葉を失っていた。


「フィル様がそうしたのには事情があるのでしょう。そうしなければならなかった理由は……私には思いつかない余程のことだと思うのです。誰かを殺めることはいけないことです。でもフィル様はその十字架をすでに背負うつもりで生きているのでしょう?」


 この世界は前の世界に比べて理不尽なことは多いし、法律だって身分によって異なる。簡単に命を奪われることだってあるのだ。まして魔女様ともなれば人外や野良魔女、様々な種族と関わり面倒な騒動に巻き込まれることだってあると思う。

 特別な力を持つ人はそのぶん普通に生きることが難しい。その力を世界が狙っていることだってある。


「なによ、それ。イケメン過ぎじゃない? 惚れちゃうわ」

「そうですか?」

「そうよ……」


 少しだけ顔を俯かせて瞳を隠してしまった。少し声が震えていたのは気のせい?


「ん、もう! 本当にヘレナは狡いわ!」

「(あ、いつものフィル様に戻った)ずるい?」

「あんなこと言われたら惚れちゃうわよ。イチコロだったわ」


 特別なことを言ったつもりはなかった。振り返るが魔女様のいつもの前向きな言葉程じゃないと思う。


「無自覚なのね。……恐ろしい子。でも私にそんなこと言ったら、私の作っておいた逃げ道も封じられちゃうわよ?」

「私はフィル様が好きなので大丈夫だと思います」

「惚れ惚れする潔さ。男前すぎじゃない?」


 ちょっと頬を染めるフィル様にドキリとした。色香がすごい。

 ふいにフィル様は本当に私のことが好きなのか、ちょっぴり不安になる。


「そういえばフィル様は私のこといつから好きだったのです?」

「え? うーん、前々から子猫ちゃんのことは好きで、魔力補給とかいって添い寝とかキスしていたぐらいに好いていたわ。可愛くて、可愛くてしょうがないって」

「!? ……初めて聞きます」


 思ったよりも前から私のことを好いてくれていたことに頬が熱くなる。フィル様は口元を緩めてしてやったりと微笑んだ。


「初めて言うもの♪ こんな風な気持ちになったことが初めてだったから、私も戸惑ってスマートに接することができなかったのは申し訳なかったわ」

「というと?」


 新しいナイフとフォークを魔法で取り出しながら、忌々しそうに眉を顰めた。


「なっ、エドガーよ。花束に片膝付いてプロポーズしていたでしょう」

「(フィル様もせがんだらやってくれるのかしら? ちょっと見てみたい)フィル様……」

「言っておくけど、エドガーは本気よ。普段のあの男を見ていたらガチだってすぐに分かるわ。冗談であんなこと言わないもの。でもヘレナはもう私の物になったのだから、浮気は駄目よ」

「もちろんです。人の姿のフィル様からモフモフ最高の毛並みの黒豹まで丸ごと好きですから、浮気なんてしている暇はありません!」

「まあ、言ってくれるわね」


 その日、私とフィル様は晴れて婚約者に。そのことで世界が震撼し、様々な者たちが動き出したことを私が知ったのはずっと後だった。

 あと聖女候補だということも、随分と後になって判明する。



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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