13.ゼロの魔女・フィルの視点1
魔女のお茶会。
その単語だけなら、さぞ楽しい時間に聞こえるかもしれない。だが《ゼロの魔女》を継いだ私としては、苦痛な時間でしかない。
あんな見世物の場所に、可愛くて愛おしい従魔を連れていくことなど、端から考えていなかった。それを従魔であるあの子に話す気はない。今まで虐げられて傷ついたのだ、これ以上面倒ごとに巻き込ませたくない。
『魔女様、いってらっしゃいませ』
あの子の明るい声が好き。
屋敷で帰りを待ってくれている。
私の姿を恐れもしなし、気味が悪いとも言わない。普通に受け入れて、接してくる。最初は気紛れで、違った魂なら私を受け入れるんじゃないかって、思っていた。
想定以上にあの子は私の中で、なくてはならない者に早変わりして……可愛い。
子猫の姿も、人の姿も。
今日はオヤツのリクエストもして見たのだから、きっと何か用意するはずだわ。気立てが良くて、一生懸命で私のことを詮索しない。この距離感が心地よかった。
なにより『かくてるぅ』は美味しい! しかもただ美味しいだけじゃない。あの一杯を作り出すまでに卓越した技術と気配り、前世での彼女が培ってきた才能なのだと実感する。
こんなことなら一年と期間を短くするんじゃなかったわ。唯一の誤算ね。
魔力譲渡も最初の二週間で終わって……呪縛も解ける。でもスキンシップしたいから、魔力譲渡って言い続けて……。子猫ったら幸せそうに笑うんだもの。可愛くて愛おしくて堪らないわ。契約を上書きしてしまおうかしら?
私から離れられないように、ずっと傍にいて私のために様々な『かくてるぅ』を作って欲しい。たまにはミハエルにも飲ませてあげてもいいが魔女たちの耳に入れば、また面倒なことを言い出しかねない。
「ゼロ、お久~」
「お久しぶりです。マガイモノ」
私をそう呼ぶのは、古参の魔女たちだ。緑髪の三つ編みにしていて、頭から薔薇と茨が生えてきている。ワンピース姿のディスは、最近は貴族令嬢ごっこが趣味らしい、そのせいか傍には美形の執事が控えていた。
もう一人の黒の聖職服姿のヘイスは、豊満な体つきに、漆黒の艶やかな長い髪をしており、毛先には蛇を飼っている。相変わらず趣味が悪い。
先天的魔女の資質を持つ者は、精霊の力を持って生まれることが多い。後天的に魔女の資質があると認めらえた場合は、体のどこかに紋章がある。一目で魔女だとわかるためでもあると昔お師匠が話していたけれど、実際は『魔女だから不用意に喧嘩を売るな』と言う意味合いが強いらしい。まあ、一昔前は魔女狩りなんて連中はいたっけ。私が全部ぶち殺したけれど。
ゼロ、マガイモノ。
私の呼び名は魔女同士であっても様々だ。初代のゼロの魔女──お師匠から継続して受け継いだけれど、それを良しとしない者も多い。なにせ男が魔女を名乗るなど、まして女装していることがより腹立たしいのだろう。そんなの知ったことではないけれど。
これが私の正装であり、お師匠を忘れないでいるための武装でもあるのだから。
マガイモノと言われようと、ゼロの魔女として理に認められた以上、それを覆すことは他の魔女たちでもできない。
「久しいわね。私に話しかけてくるなんて、明日は雪でも降るのかしら(意訳:話しかけてくんな、クソ魔女ども)」
「まあ、相変わらず酷いことを言う方ですわね。そんなのだから従魔と契約しても、すぐに死んでしまうのですわ」
よく言うわ。ミハエルには誤魔化したけれど従魔のほとんどは、この魔女たちの罠によって殺されてきた。そのやり口も巧妙だったことと従魔たちが言い付けを破って、屋敷の外に出たから。魔導書に追いかけられた──と言うのは事実だけれど、殺したのは野良魔女たちだ。私が野良魔女に狙われているのも知っているからこそ、あんな罠を思いついたんだろうけれど。
私がゼロの魔女でいることが面白くないのね。もっとも私に正面切って戦いを挑んで早百年経つけど、お話にならないぐらい弱い。だからこそ私以外の存在を狙い出した……陰湿かつ嫌なやり方だわ。
いっそ殺してしまおうかしら。ううん、昔と違って今は健全で温厚になったのだから、我慢、我慢。帰ったら美味しいオヤツが──。
「そういえばマガイモノが、新しい従魔契約を結んだと聞き及んでいますけれど」
「へえ~、今度の子は亜人? それとも人間?」
「何でも人間だとか。貧弱で矮小な存在だから、また事故が起きないと良いですわね──っ」
「あ? 殺すぞ?」
「「!?」」
パキパキと周囲の白い木々の枝先が、私の魔力と威圧に反応して砕けて散っていく。ディスとヘイスは威圧に耐えきれなかったのか、片膝を突いた。傍にいた従者は人の姿を保っていられず、動物に戻って卒倒していたが、見せしめに殺してやろうかと手を伸ばす。
「俺の物に手を出すのだから、そちらも壊される覚悟があるんだよな? あ?」
「ひっ──」
「あ、だっ……ごめ」
「はい、ストップ」
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